artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

原萬千子 個展

会期:2014/11/13~2014/11/24

高架下スタジオ・サイトAギャラリー[神奈川県]

1934年横浜生まれ、戦後小倉遊亀に師事し、傘寿を迎えたいまでも季節の花々を描き続けている日本画家。そんな閨秀画家がなんで黄金町くんだりで個展を? いくら横浜生まれといっても高架下のギャラリーは似合わないだろう、と思ったら「黄金町バザール2014」のキュレーターを務めた原万希子さんのご母堂だという。なんか黄金町がイッキに浄化された感じ。

2014/11/13(木)(村田真)

佐藤信太郎「The spirit of the place」/「夜光 Night Light」

会期:2014/10/31~2014/12/20

キヤノンギャラリーS/フォト・ギャラリー・インターナショナル[東京都]

佐藤信太郎のデビュー写真集『夜光 Nights Lights』(1998年)が青幻舎から新装版で再刊されたのにあわせて、東京都内の二つの会場でほぼ同時期に彼の個展が開催された。キヤノンギャラリーSの「The Spirit of the place」展では、盛り場のネオンサインを撮影した「夜光」だけでなく、彼の他のシリーズ「非常階段東京 ─ TOKYO TWILIGHT ZONE」と「東京|天空樹 Risen in the East」も同時に展示され、フォト・ギャラリー・インターナショナルでは「夜光」に絞った展示を見ることができた。
デジタルプリントによって、より鮮やかに、くっきりと甦った彼の作品をあらためて見直すと、佐藤が3つのシリーズを通じて、東京の新たな見方(「夜光」シリーズには大阪で撮影された写真も含まれているが)を提示しようとしてきたことがわかる。それは、都市を光と形と色という要素に還元して、そのテクスチャー、構造を定着しようとする意欲的な試みであり、近作になるにつれて、より包括的で、柔軟な把握の仕方があらわれてきているように思う。ちょうど区切りのいい時期に、旧作をまとめて展示で来たのはとてもよかった。
だが、問題は佐藤が次にどんなアプローチを見せてくれるかだろう。現在形で変貌しつつある巨大都市を俯瞰できる視点を確保するのは、そう簡単なことではない。インターネットのような不可視のネットワークが、都市の中枢部分を占めるようになってくると、写真でそれを視覚化するのは、ますますむずかしくなってくるからだ。佐藤がその難問にどう立ち向かっていくのか、次作に期待したいものだ。
キヤノンギャラリーS 2014年10月31日~12月15日

フォト・ギャラリー・インターナショナル 11月7日~12月20日

2014/11/13(木)(飯沢耕太郎)

藤岡亜弥「Life Studies」

会期:2014/11/10~2014/11/16

Place M[東京都]

2012年までの4年間のニューヨーク滞在時の写真をまとめた藤岡亜弥の「Life Studies」の発表は、2009年のAKAAKAでの中間発表的な展示を含めると、今回で3回目になる。前回(2014年春)の銀座ニコンサロンと大阪ニコンサロンでの展示はカラープリントだったが、今回はそれに加えて279×356cmの大きさに引伸されたモノクロームプリント(12点)も出品されていた。
ニューヨーク時代の藤岡は、カラーとモノクロームのフィルムを併用していたのだが、使っていたハーフサイズのカメラに光が入って、画面に縞模様のような筋ができたこともあり、ろくにプリントもせずに放っておいたのだという。だが、次第にその「失敗」がむしろ面白い効果をもたらすのではないかと考えはじめ、それが今回のモノクローム作品中心の展示に結びついた。
実際に今回の「Life Studies」は、カラー作品とはかなり異なる肌合いではあるが、ニューヨークでの生活の断面の別な部分を垣間見させてくれる、興味深い作品に仕上がっていた。ハーフサイズの縦位置の画面が二つ並ぶことで、微妙な時空のズレが生じてくるだけではなく、それ以外の通常の35ミリカメラで撮影された作品にも、奇妙に歪んだデモーニッシュな気分がより色濃くあらわれてきているのだ。はっきりいってかなり怖い写真群であり、スナップ的な要素の強かったカラー作品と比較すると、闇の奥をじっと覗き込んでいるような不気味さを感じる。藤岡がモノクローム作品を発表するのはおそらく初めてではないだろうか。いい表現の鉱脈になっていきそうな予感がする。

2014/11/12(水)(飯沢耕太郎)

奇想天外!浮世絵師歌川国芳の世界

会期:2014/10/24~2014/11/24

美術館「えき」KYOTO[京都府]

幕末期に活躍した浮世絵師、歌川国芳。人が集まって顔を形づくっている寄せ絵、擬人化された金魚や猫が登場する絵などのユーモラスな代表作はよく知られている。それらの作品を含め、武者絵、戯画、美人画、風景画、肉筆画など、155点が展示された。人間、妖怪、クジラ、猫や魚類などの数々のモチーフも、描かれたそれらのシーンも愉快なものが多いが、今展で私が何よりも感動したのはダイナミックで斬新な構図。圧倒的な迫力を感じるいくつもの作品に目を奪われた。特に金太郎が大きな鯉を両手で持ち上げている《坂田怪童丸》は、水しぶきが上がる瞬間の表現や、足を踏ん張って鯉を掴む怪童丸の表情、鯉が跳ね上がる躍動感が凄い。展示のボリュームもさることながら、国芳の想像力と表現力、鋭い洞察力を思い知った見応え充分の展覧会だった。

2014/11/12(酒井千穂)

国宝鳥獣戯画と高山寺

会期:2014/10/07~2014/11/24

京都国立博物館[京都府]

2013年春に保存修理が完了した京都の高山寺に伝わる国宝の絵巻《鳥獣人物戯画》全四巻と高山寺にまつわる文化財が展示された特別展。会期中、《鳥獣人物戯画》は前期と後期で一部展示作品と展示場面の変更が行なわれた。私が訪れたのは後期の展示。噂には聞いて会場に足を運ぶ前から気構えていたが、到着した開館時刻にはすでに長蛇の列。入館まで「90分待ち」という看板表示を見て、館のゲート前でさっそくげんなりしてしまった。それからも続々と人々が押し寄せ、私が館内に入場する頃には外は「180分待ち」に。このような展覧会に来る度に、長い待ち時間はどうにかならないものなのかと思う。特に高齢者が多く見うけられた今展、寒い屋外で立ちっぱなしのお年寄りが気の毒で苛立たしさも募った。館内は想像したよりも混雑しておらず、わりとゆっくりと見ることができる資料もあった。個人的に特に興味を引かれたのは高山寺の中興の祖とされる明恵上人が40年にわたって書き記した《夢記》。来場者みんなが一番目当てにしていただろう《鳥獣人物戯画》甲・乙・丙・丁の四巻の展示ケース前はいずれもまた行列をつくっていて、さらに「立ち止まらずに進んでください」と近くに立つスタッフに大きな声で繰り返されるから酷いものだった。まるでベルトコンベアで流(さ)れるように絵巻の前を通り過ぎただけで、鑑賞どころか見たとすら言い難い。修理に至るまでは別の絵巻を繋いだものと考えられていた丙巻の前半と後半は、もともとは一枚の紙の表と裏に描かれており、表裏二枚に剥がされた後に一枚に繋ぎ直されたものであることが明らかになったという。この修理に際する新発見を解説した会場のパネル展示も興味深く、実物を目にするのを楽しみに待っていたのに残念。全体に見応えのある内容だったはずだが、虚しさの方が強かった展覧会。


公式サイト:http://chojugiga-ten.jp/

2014/11/12(酒井千穂)