artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
TWSエマージング2014
会期:2014/11/01~2014/11/24
トーキョーワンダーサイト渋谷[東京都]
基山みゆき、宮岡俊夫、佐々木成美の3人の個展。3人とも絵画だが、それぞれ持ち味が違っておもしろい。基山は「生命」をテーマに動植物らしきものを描いてる。薄く溶いた絵具でもやっと仕上げて、どこかユーモラスだ。宮岡はプールやテニスコートらしき風景をざっくり描いている。タイトルも《Landscape -pool-》だったりするが、水面も植物も一様な色面で構成し、一部を余白にしたり天地逆にして制作したり(絵具の滴りが上に流れている)して、「風景」ではなく「絵」をつくろうとしてることがわかる。佐々木は一見ピカソ風の線描を主体とした人物画が多いが、部分的に絵具をてんこ盛りにして見る者の視線を惑わせる。うまいなあ。トサカをつけた陶器や描きながらコマ撮りした油絵アニメも出品。みんないい仕事してますねえ。
2014/11/11(火)(村田真)
岡田敦「MOTHER」
会期:2014/11/08~2014/11/30
Bギャラリー[東京都]
岡田敦の新宿・Bギャラリーでの写真展を見て、写真作品の教育的な意味ということについて考えた。今回の展示作品は、2008年に撮影されたもので、一人の女性の出産の場面を克明に追い続けている。赤ん坊が妊婦の産道を通って、生まれてくる過程は、普通はなかなか見ることができないものだ。血と羊水にまみれて産声をあげる生々しいその姿に、思わず目をそむける人もいるだろう。だがアーティストの中には、人間の誕生と死の場面を、タブーとして覆い隠しておくことに疑問を持つ者もいる。岡田もその一人であり、今回の写真展と柏鱸舎からの同名の写真集の刊行は、果敢なチャレンジといえる。
特に若い世代の観客にとって、このような場面を目にすることは、大事な“学び”の機会になるのではないだろうか。実際に、岡田は早稲田大学で開催された講演会で、このシリーズを学生たちに見せたのだという。その時の反応の一部が、写真展のリーフレットに再録してあった。それらを読むと、学生たちが出産の場面を「自分が生きている世界に、現実に、本当に起こっているのはこういうことなんだなと感じた」、「生を通して死を考えてしまいました」などと、真剣に、ポジティブに受けとめていることがよくわかる。それはまさに写真の教育的効果というべきではないだろうか。
展覧会の会場構成について、やや疑問が残ったことがある。スペースの関係で、写真集に収録した写真を全部見せるのはむずかしいので、画像をモニターでスライドショーの形で流していた。そのことが、プリントのインパクトを弱めてしまっているように感じた。さらに、おそらく同じ女性モデルの写真と思われる、写真集に未収録のヌード写真が何点か展示されていた。それらが「MOTHER」シリーズとどのように関わっているのかが、すっきりと見えてこない。今回は展示も単純に出産の場面だけに絞った方がよかったのではないだろうか。
2014/11/11(火)(飯沢耕太郎)
京版画・芸艸堂の世界
会期:2014/10/25~2014/11/30
虎屋京都ギャラリー[京都府]
京版画の老舗、芸艸堂(うんそうどう)は明治24(1891)年に創業した。正確にいえばもう少し以前、明治20(1887)年に本田寿次郎が起こした本田雲錦堂と山田芸艸堂が合併して芸艸堂となった。さらに山田芸艸堂の創業者、山田直三郎はそれ以前に安政年間から続く田中文求堂に奉公していたというから、芸艸堂はまさに京都の手摺木版の正統な継承者といえよう。現在では、手摺木版和装本を刊行する出版社は日本でここ一社だけとなったそうだ。本展には、その芸艸堂の所蔵から神坂雪佳(1866-1942)の《海路》や《百々世草》をはじめ、名物裂を木版画で再現した《あやにしき》など、近代図案集の名作から出品されている。
展示作品のなかでも、伊藤若冲(1716-1800)の「玄圃瑤華」は拓版という聞き慣れない技法で摺られている。墨を置いた版木に紙をのせてタンポでたたくように摺り上げる技法である。草花に虫類を配し白と黒の二色で構成された端正な画面には浮き彫りのような立体感が現われ、モチーフが硬く重い、錫や鉛のような、光沢感を帯びているかに見える。あわせて展示されている1、2センチほどの厚みの版木には、迷いのない正確さでたっぷりと凹部分が刻まれている。江戸時代の浮世絵と同様に、一枚の版画は、絵師、彫り師、摺師の共同作業によって成り立っていることがありありと伝わってくる。そして、職人たちの身体にいかに磨き上げられ研ぎすまされた感性が息づいていたかを知らされた。[平光睦子]
2014/11/11(火)(SYNK)
服部しほりの日本画─か弱き蒼氓ども─
会期:2014/11/08~2014/11/22
蔵丘洞画廊[京都府]
筆者が服部しほりの作品を初めて見たのは、確か2011年の京都市立芸術大学の卒業制作である。その圧倒的な運筆力と、鼻や耳に特徴がある個性的な人物表現、一種異様な世界観に、大層驚かされたものだ。その後何度か作品を見ているが、今回の個展を見ると、彼女の画力はますます充実している。特に腕や足の筋肉の描写が素晴らしい。聞くところによると、相撲部屋の稽古を見学させてもらい、制作に生かしているらしい。また、金屏風に描いた大作が1点あったが、この経験も今後の糧になるだろう。あとは作品の世界観にどれだけ普遍性を持たせられるかだ。今までの作品は確かにユニークだが、そうであるがゆえにひとり語りの印象が強い。たとえば主題や登場人物を美術史とリンクさせるなど、第三者の理解につながる糸口を設けてみてはどうだろうか。
2014/11/11(火)(小吹隆文)
Akinori UENO Miki eco echo ego
会期:2014/11/04~2014/11/16
GALERIE H2O[京都府]
壁面に2点の絵画がある。1点は植物を描き、もう1点は都市風景を真上から描いたものだ。やがてCG映像とピアノ音楽が始まり、絵画と混ざってファンタジックな世界をつくり上げる。植物には木漏れ日が差し込み、都市風景には無数の光の粒が浮遊する。画面からビルが立ち上がり、光りの雲に覆われたかと思うと、赤い光線が高速で動き回り、2点の絵画を包み込む。やがて壁面全体が光の粒に包まれ、草木がなびく草原へと変化し、再び光の雲に覆われたかと思うと、色鉛筆のような質感の無数の直線が走り、最後は水滴に覆われた画面が崩落して、静寂と共にもとの状態に戻るのだ。絵画と映像と音楽がこの上なくマッチした、4分45秒の小トリップであった。
2014/11/11(火)(小吹隆文)