artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
インベカヲリ★「始まりに向けての青」
会期:2014/10/29~2014/11/10
ABG(AMERICA-BASHI GALLERY)[東京都]
2013年刊行の「やっぱ月帰るわ、私。」(赤々舎)で、目覚ましい成果を披露したインベカヲリ★が、新作13点を発表した。といっても、身近な女性モデルたちがそれぞれの思いを吐露するようなパフォーマンスを展開し、インベがそれを記録していくという作品のスタイルは前作をそのまま踏襲している。展覧会のタイトルが示すように、今回は次の「始まりに向けて」の助走という意味合いが強いのではないだろうか。
今回、彼女の作品を見てあらためて感じたのは、被写体となる女性たちのバックグラウンド、そして彼女たちがなぜそのようなパフォーマンスをしているのかが、写真を見ているだけではなかなか伝わりにくいということだ。1点1点の作品には、タイトルがついているのだが、ややひねりを効かせたものが多く、やはりそのあたりクリアーには見えてこない。たとえば、今回の展示作品の中に「詩集からはじまる」というタイトルがついた、ゴミが一面にちらばっている部屋の中でポーズをとる少女の写真がある。そのタイトルの背景には、詩人だった祖父が祖母に詩集を送ったことから、バラバラになっていた一家が再会したという物語が隠されているようだ。
つまり、それぞれの写真に思いがけないストーリーが付随しているわけで、むしろそれらを明るみに出していった方がいいのではないかとも思った。写真とテキスト(むしろ小説に近い)をうまく組み合わせていくと、何か次の展開が見えてくるのではないだろうか。
2014/11/10(月)(飯沢耕太郎)
宇野享 / CAn | Susumu Uno「-ing」展
会期:2014/10/31~2014/11/24
Gallery Nica[愛知県]
名古屋の大須へ。ハセビル8の2階Gallery Nicaの宇野享/CAn「-ing」展を見る。この建物は、宇野自身が設計したものであり、内部をジグザグに階段が貫き、立体街路を歩くような雰囲気だ。また2、3階の壁面が外にはりだし、下に向けて大きな開口をとるために、前面道路と密なコミュニケーションを生む。展覧会は、ガルウィングハウスから現在進行形の公共プロジェクトまでの作品の軌跡をたどる。単体の建築でも自律したものと考えるのではなく、無限に続く全体の一部として構想し、ユニットの展開可能性を意識したデザインへの一貫した関心が、展覧会の形式だからこそ明快に伝わる。
2014/11/09(日)(五十嵐太郎)
奈良・町家の芸術祭はならぁと(「こあ」部門)
会期:2014/11/07~2014/11/16
郡山城下町、奈良きたまち、生駒宝山寺参道[奈良県]
2014/11/02付の当レビューで、「木津川アート」について論評したが、この「はならぁと」も奈良県内各地で行なわれている地域アート・イベントだ。エリアが県内に広がっている分、運営は格段に複雑である。今回からアート・ディレクターに就任した山中俊広は、イベントをキュレーターによる企画展の「こあ」部門と、一般参加の「ぷらす」部門に分離し、「こあ」部門を、生駒宝山寺参道、奈良きたまち、郡山城下町の3会場に設定した。大風呂敷を広げるのではなく、集中と選択をはっきりさせ、限られた予算を効果的に使う方向にシフトしたのだ。筆者は「こあ」部門しか見ていないが、現時点の感想を言うと、「3会場とも一定水準以上の展覧会を実現していた。しかし、全体としてやや華やぎに欠ける」。これは筆者の取材日が平日の雨天だったことが影響したのかもしれない。とにもかくにも、新体制の「はならぁと」は船出した。来年のさらなる発展を期待している。なお、今年から始まったバスツアーはいいアイデアだと思う。公式ガイドブック(有料)の出来もよかった。
2014/11/09(日)(小吹隆文)
尾形一郎/尾形優「中華洋楼 Eclectic Chinese House」
会期:2014/11/05~2014/11/22
ZEN FOTO GALLERY[東京都]
建築家でもある尾形一郎、尾形優の写真展示には、いつも工夫が凝らされている。今回ZEN FOTO GALLERYで発表されたシリーズのテーマは中国広東省の穀倉地帯に忽然と出現した、何とも奇妙な中洋折衷の建築群(洋楼)である。その互いに似通ってはいるが微妙に違うフォルムが増殖していく、映画セットのような人工性を強調するため、作品を大きさが異なるフレームに入れて床に並べる形で展示した。つまり、かなり大きな840×1050ミリのフレームから、その厚み分(40ミリ)ずつ小さくなっていって、最後は240×350ミリの小さなフレームになるのだが、それらが一つの箱に入れ子状におさまっていて、一点一点取りだして並べることができるようになっているのだ。(以下の動画を参照)
それだけではなく、今回は石灰を水で練った漆喰を塗布したシートに顔料を吹き付ける、フレスコ画の技法を用いてプリントしているのだという。その結果として、元の建物の風化したコンクリートの質感が実に丁寧に再現されていた。
今回の展示は、先に本欄で紹介した彼らの新著『私たちの「東京の家」』(羽鳥書店)の刊行記念展でもある。『私たちの「東京の家」』には「中華洋楼」だけではなく、メキシコの「ウルトラ・バロック」の教会、ナミビアの砂に埋もれかけたドイツ移民たちの住宅、ギリシャの白い箱形の鳩小屋などを撮影した写真とテキストもおさめられている。ということは、もしそれらの写真群の展示が実現したならば、今回と同様に相当に凝った仕掛けのインスタレーションになることは間違いないだろう。それはぜひ見てみたい。そろそろ美術館クラスの大きな会場での展示を考えてもいいのではないだろうか。
2014/11/08(土)(飯沢耕太郎)
舟越保武彫刻展 ─ まなざしの向こうに ─
会期:2014/10/25~2014/12/07
岩手県立美術館 企画展示室[岩手県]
日本設計が手がけた《岩手県立美術館》(2000)を見学する。ちょっと古典的なデザインだが、いい空間である。地元出身の船越保武展を開催中だった。白眉の作品は長崎26聖人殉教者記念像(今井兼次も登場する記録映像もあり)だが、脳梗塞で倒れた後、左手だけで制作し、優美な造形ではなくなった晩年の作品が鬼気迫る。常設は萬鐵五郎、松本竣介など、やはり地元作家が充実している。盛岡市先人記念館も、国際連盟事務次長にまでなった新渡戸稲造、アイヌ叙事詩ユーカラを研究した言語学者、金田一京助など、内容が興味深い。情報化時代以前の彼らの志しの高さを見ると、現代が劣化しているのではないかと不安になる。
2014/11/07(金)(五十嵐太郎)