artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

Nerhol ATLAS

会期:2014/10/16~2014/11/20

IMA gallery[東京都]

2007年から活動しているNerholは、1980年生まれの田中善久と81年生まれの飯田竜太のアートユニット。彼らのポートレート作品は、出版物では見たことがあるが、実物は今回の展示で初めて見た。既に彼らの手法──被写体に200回シャッターを切って撮影した写真のプリントを、カッターで少しずつずらして切って貼り合わせ、厚みのある立体物を作る──については知識があるわけで、それを踏まえつつ作品がどう見えてくるかに興味があった。
結論からいえば、手法がどうしても最初に目についてくるこの種の作品の例に漏れず、その核心になかなか入り込めないもどかしさを感じた。人間の”顔”は、いうまでもなくとても心そそられるテーマであり、多くのアーティストたちがその謎解きに取り組んできた。Nerholの試みも、むろんその一つなのだが、2012~13年に開催された各展覧会に出品した作品を再構成し、「ATLAS」と題する書物の形で提示した今回の展示を見ても、カットアウトの繊細な手さばきと、”顔”の歪みのオプティカルな視覚的効果の面白さ以上のものは感じとれなかったのだ。
被写体に選ばれているのが、若い世代の日本人、外国人の男女だけという所に、“顔”につきまとう異様さ、異常性のファクターをできるだけ押さえて、むしろ平静な日常の“顔”を分析的に見直していこうという志向性を見ることができる。その結果として、彼らの「ATLAS」は、平板で退屈な印象を与えるものとなった。それこそが現代の“顔”なのだという反論が予想できるが、Nerholに限らず、このところ平均化、標準化の状況にすんなりおさまってしまうような作品が、多すぎる気もしないではない。人間の“顔”というのはこの程度のものなのだろうかと、無い物ねだりをしてみたくなる。

2014/11/07(金)(飯沢耕太郎)

山本渉「欲望の形──器の濃き影」

会期:2014/10/31~2014/12/07

NADiff Gallery[東京都]

山本渉の「欲望の形──器の濃き影」のシリーズは、ぜひ写真集の形で見てみたいと思っていたのだが、今回のNADiff Galleryでの展示にあわせて、小冊子ではあるがそれが実現した。見れば見るほど、なかなか味わい深いシリーズだと思う。
被写体になっているのは男性の自慰用の器具で、「オナホール」という身も蓋もない名前で呼ばれている。山本はその内部に石膏を流し込んで型取りし、黒バックのモノクロームで撮影した。結果として、そこにあらわれてきたのは、何とも奇妙なフォルムを持つ物体だった。あるものは植物的な(ドイツのカール・ブロスフェルトの『芸術の原型』を思わせる)、あるものはねじ釘状のメカニックな形態をとり、中にはアニメのキャラクターのフィギュアを象ったものまであるという。まさに「欲望の形」そのものだが、普通は触覚によってしか味わうことができないその形状を、ネガをポジに逆転するような発想で見事に視覚化した所に、山本の卓抜なアイディアが活きていると思う。
展示は小ぶりなフレーム入りのプリント(25・4×20・3cm)が14点並んでいるだけなので、いささか物足りない。もう少し数が増えれば、タイポロジー的な比較も可能になるし、写真の大きさも「等身大」にこだわることはなかったのではないだろうか。「欲望の形」というテーマも、「オナホール」だけに限定するのはもったいない気がする。もっといろいろな対象物に広げていけるのではないだろうか。

2014/11/07(金)(飯沢耕太郎)

永瀬沙世「FOLLOW UP 追跡」

会期:2014/11/01~2014/11/12

AL[東京都]

永瀬沙世は1978年、兵庫県生まれの写真家。主にファッション雑誌を活動の場にしているが、時折、何とも不思議なテイストの写真展を開催して楽しませてくれる。
今回の「FOLLOW UP 追跡」展には「J002E3」という副題がついているが、これはアメリカを拠点とするカナダ人のアマチュア天文家が発見した、月と地球の間で奇妙な動きをする天体のことだ。後にその表面が白い酸化チタンで塗られていることから、1969年に打ち上げられた、アポロ12号のロケットの機体の一部ではないかといわれている。永瀬はその記事のことを友人から教えられたのだが、メールを読んですぐに忘れてしまっていた。その数ヶ月後、「お風呂からあがって、髪がぬれたままティファールのケトルでお湯を沸かしていたとき、ばらばらの短いシーンが卵形の弧を描きながら頭を駆け巡った」のだという。
実際に展示されているのは、どこか夢の中のようなぼんやりしたトーンで撮影された、いくつかの断片的な画像で、直接的に「J002E3」と関係があるようには見えない。UFOやロケットめいた物体が写っている写真もあるが、特にストーリーを追ったものではないだろう。だが、全体的に何かを「追跡」しているような、妙にワクワクした謎めいた雰囲気があって、日常が非日常にワープしていく感覚が、なかなかうまく定着されている。さらっとでき上がった小品には違いないが、むしろふとした思いつきを形にしていく軽やかな手つきに、この写真家の持ち味があるのではないだろうか。同時に刊行された、タブロイド判の新聞のような造本の写真集(500部限定)も気がきいている。

2014/11/07(金)(飯沢耕太郎)

Open Storage 2014─見せる収蔵庫─

会期:2014/11/08~2014/11/24の金土日祝

MASK(MEGA ART STORAGE KITAKAGAYA)[大阪府]

大阪市のベイエリアに位置する住之江区の北加賀屋。この一帯は工業地帯だが、産業構造の変化に伴い、近年は工場・倉庫の空き家が増えている。そうした施設をアートで再生させたのが本展である。「オープン・ストレージ」とはミュージアムでは展示し切れない膨大なコレクションを、研究・鑑賞などの目的で限定的に公開する施設や鑑賞ツアーなどを指す言葉だ。欧米で始められたものだが、日本ではほぼ前例がないという。会場には、ヤノベケンジの《ジャイアント・トらやん》や《ラッキー・ドラゴン》をはじめとする巨大彫刻、やなぎみわの《「日輪の翼」上演のための移動舞台車》、久保田弘成の《大阪廻船》、宇治野宗輝の《THE BALLAD OF EXTENDBACKYARD》などの巨大メカ系作品が並び、金氏徹平は新作の公開制作を行なった。かつて日本の高度成長を支えた重厚長大産業の遺構が、時を経て芸術作品の発信地へと再生した事実が感慨深い。主催者のおおさか創造千島財団では、今後も同スペースをオープン・ストレージや大作の制作場として活用していく予定だという。近年停滞気味の大阪のアートシーンを活性化する意味でも、有意義な試みとして評価したい。

2014/11/07(金)(小吹隆文)

木村了子 展「化身 be your animal」

会期:2014/10/22~2014/11/16

トラウマリス[東京都]

日本画で美人画ならぬイケメン画を描く画家。黄金町バザールではイケメン芸術家像を出していたが、ここではトラ、ウサギ、リス、龍、鳳凰などの化身となった「半鳥獣系男子」がテーマ。ディテールを見ると、若冲や蕭白を思わせる部分もあって楽しい。サーフボード代わりにワニに乗った全裸のイケメンもいれば、ひとり酒を飲んでたり料理したりするイケメンもいる。日本画に新たなジャンルを開くか。

2014/11/05(水)(村田真)