artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

IN SITU-1

会期:2014/09/13~2015/01/04

エスパス ルイ・ヴィトン東京[東京都]

ルイ・ヴィトン表参道のエスパスにおいて、公開制作をするソ・ミンジョンの作品をめぐって、プレス向けのトークを行なう。今回はあいちトリエンナーレ2013のときのような歴史的な建築を実測して、それを1/1で再現し、破壊するタイプの作品ではなく、実在しない建物を設定し、東京における建物の存在感をテーマとしている。筆者のスーパーフラット論における東京のイメージなどが着想源になったという。ともあれ、まだ部材を切り出している段階だったが、解体と消滅に向けて、彼女の公開制作が続く。

2014/10/10(金)(五十嵐太郎)

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沢渡朔「少女アリス」

会期:2014/10/10~2014/10/26

Fm(エフマイナー)[東京都]

沢渡朔の名作『少女アリス』(河出書房新社、1973年)が「スペシャル・エディション」として河出書房新社から刊行されることになった。西武百貨店での展覧会にあわせてイギリス各地に滞在し、3週間で6×6判のフィルム300本を撮り尽くしたという撮影のテンションの高さ、堀内誠一のデザインによる端正で典雅な写真集の造本は、いまだに語り草になっている。今回の「スペシャル・エディション」は、すべてその73年の写真集に未収録のアナザーカットから選ばれた写真で構成されていて、東京・恵比寿のギャラリー、Fmで展示されているのは、その「懐かしくも新しい」写真群から新たにプリントされた作品だ。
『少女アリス』の魅力は、むろん沢渡ののびやかなカメラワークの為せる業なのだが、それ以上に主役のアリスを演じきった8歳のモデル、サマンサによるところが大きい。今回の展覧会及び写真集では、そのサマンサのもうひとつの顔が見えてきているように感じる。つまり、イノセントな天使的な存在としてのアリスではなく、明らかにどこかおぞましく、淫らでもある「ダーク・アリス」が浮上してきているのだ。たしかに「少女」という、ひらひらと漂うようなフラジャイルな存在には、光と闇の両方の顔があるように思える。その二面性が『少女アリス』の撮影の過程で引き出されてくるわけで、そのスリリングな出現のドラマには心を揺さぶられるものがある。別な見方をすれば、今回の「スペシャル・エディション」の登場で、『少女アリス』は40年の時を隔ててようやく完成したといえるのではないだろうか。
なお本展は11月13日~21日に京都のWRIGHT商會三条店二階ギャラリーに巡回する。

2014/10/10(金)(飯沢耕太郎)

SIMON DOLL 四谷シモン

会期:2014/10/11~2014/11/30

西宮市大谷記念美術館[兵庫県]

人形作家・四谷シモンの生誕70年を記念した展覧会「SIMON DOLL展」が西宮市大谷記念美術館で開催された。出品作は、60年代に制作された少女の人形からはじまり、1973年の初個展に出品された「未来と過去のイヴ」シリーズ、80年代の機械仕掛の人形シリーズ、90年代の天使シリーズ、そして最近作「ドリームドール」まで、球体関節を用いた原寸大の少年や少女の人形46体。四谷シモンへの注目度は、2000年頃からにわかに上昇している。全国5カ所を巡回した「四谷シモン──人形愛」展(2000-2001)をはじめ、「球体関節人形」展(2004)、「四谷シモン人形館・淡翁荘」(2004- )、「球体関節人形展──四谷シモンを中心に」展(2007)、東京国立近代美術館工芸館「現代の人形──珠玉の人形コレクション」(2010)など、彼の作品が目玉となるような展覧会が次々と開催されている。そのなかでも、本展は四谷シモンのおよそ半世紀の活動をふりかえる回顧展となっている。
ところで、人形というとどうしてもどこかに暗さのようなものがある。ヒトの形をしているがゆえに、そこにあるはずの生命の不在が感じられるからだと思う。かつて女形として状況劇場の舞台に立っていた四谷シモン。彼の名前には、70年代のアンダーグラウンドの空気を身にまとっていたその頃のイメージが残っている。そして、その空気は人形という表現形式のもつある種の暗さにふさわしいものであった。いまやそこもすでに日の当たる場所となり、アングラという場所はもうどこにもなくなった。そのことを改めて示すかのように、四谷シモンの近作には暗さがほとんど感じられない。型をとり、紙を張り重ね、胡粉を塗って、磨き上げる。完成の域に達した制作工程を経て丹念に精緻につくりだされた形が、ただそこに在る。生命の不在を感じさせないほどに確かな存在感をもって、ずっと以前からそうだったみたいに静かにそこにあるのである。最近の四谷シモンの人気ぶり、その理由がわかるような気がした。[平光睦子]

2014/10/10(土)(SYNK)

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みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ2014 山をひらく

会期:2014/09/20~2014/10/19

文翔館、山形まなび館、旧西村写真館、東北芸術工科大学キャンパス、やまがた藝術学舎、香味庵まるはち[山形県]

文翔館は、正面のトラフのもうひとつのサッカー場に始まり、アートよりも、わりとデザイン的な作品が多い。地図が不親切で、探すのに苦労した旧西村写真館の会場は、近代建築そのものがおもしろかった。今回、山形市にいろいろ残っている小さな近代建築を見ることもでき、それも街なかアート展開の副産物である。

山形まなび館では、地元新聞社と連携した俳句と漫画のプロジェクトを展示していた。ここではビエンナーレの別企画として、山形市所蔵美術品展「名品撰」も開催していた。市が各施設で展示している山形ゆかりの作家の絵画を集めて展示するというもの。真下慶治、片岡球子らの24作品である。せっかくだからビエンナーレと連動して、もっといい空間で展示したらよいと感じた。

東北芸工大の会場では、三瀬夏之介らの「東北画は可能か?」の展覧会と、大学院のアトリエ公開を行なう。前者は、山形ビエンナーレにおいて一番印象に残ったプロジェクトである。迫力のある巨大な作品群、東北リサーチをもとにした共同制作の絵などが展示されていた。彼らは、「可能か?」という問いを継続しながら、水や山などの東北的な要素を拾い上げつつも、固定した様式に収束しない多様性をめざす。

写真(上から):
山形まなび館
文翔館前に設置されたトラフによるもうひとつのサッカー場
旧西村写真館


「東北画は可能か?」会場風景

2014/10/08(水)(五十嵐太郎)

アレキサンダー・グロンスキー

会期:2014/09/06~2014/11/15

YUKA TSURUNO GALLERY[東京都]

アレキサンダー・グロンスキーは1980年、エストニア・タリン生まれの写真家。今回の展示は、2000年代以降にロシア写真の「ニュー・ウェーブ」の旗手として国際的な注目を集める彼の日本での初個展になる。
グロンスキーはもともとフォト・ジャーナリストとして活動していたが、2008年頃からよりパーソナルな視点の風景写真に転向し、アートの領域で注目されるようになった。広大な大地にぽつりぽつりと点在する建築物や人間の姿を、距離をとってクールに描き出し、人間の営みを環境の側から照らし出していく視点は、1980年代以降のヨーロッパやアメリカの写真家によく見られる傾向である。いわば遅れてきた「ニューカラー」、あるいは「ベッヒャー派」といえるだろう。とはいえ、氷に穴を穿ったプール(ロシア正教の洗礼の場所)やダイナマイトの空き箱が散らばった鉱山など、ロシア以外にはおよそ考えられないようなシーンも的確に押さえており、とてもバランスのとれた作品として成立していた。
今回の展示は「less than one」(1平方キロに1人以下という人口密度の低い地域のドキュメント)、「the edge」(モスクワ郊外の雪景色)、「pastoral」(モスクワと田舎の中間領域の風景)の3シリーズから抜粋された10点である。やや同傾向の作品ばかりが揃った印象があるが、今後はさらに多様なアプローチを展開できそうな可能性を感じる。グロンスキーに続くロシアの若手写真家たちの展示もぜひ見てみたい。なお、展覧会にあわせて、写真集『LESS THAN ONE』(TYCOON BOOKS)が刊行されている。

2014/10/08(水)(飯沢耕太郎)