artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

ディスカバー、ディスカバー・ジャパン 「遠く」へ行きたい

会期:2014/09/13~2014/11/09

東京ステーションギャラリー[東京都]

もう20年以上も前のこと、電通総研の知人に誘われて、たしか東銀座にあった藤岡和賀夫氏の事務所に遊びに行ったことがある。知人に「ディスカバー・ジャパンを仕掛けた人」と教えられたが、事務所は資料がきちんと整理されていてあまり仕事の匂いがしなかった。その日はさまざまなメディアの編集者たちが集ったので、きっとサロンのような場なのだろう、一発当てると20年後もこんなに優雅にすごせるのかとノンキに思ったものだ。その藤岡氏がプロデュースした「ディスカバー・ジャパン」キャンペーンを、いまいちど「ディスカバー」しようという展覧会。展示は、藤岡氏の手がけたゼロックスのテレビCM「モーレツからビューティフルへ」に始まり、「ディスカバー・ジャパン」の新聞広告、テレビCM、国鉄のポスター、『アンアン』の旅行記事、時刻表、周遊券、駅に置かれたスタンプ、駅弁の包み紙、そしてテレビ番組「遠くへ行きたい」まで、実に多岐にわたっている。これを見ると、ぼくがどれだけこの「ディスカバー・ジャパン」にお世話になったか、というより乗せられたかがよくわかる。70年代初め高校生だったぼくは、休みごとに周遊券を使って東北、北陸、九州などを旅していたが、これは明らかにテレビ「遠くへ行きたい」に感化されてのことであり、CMの国鉄のキャンペーンに乗せられたものだった(カタログでも言及されてるが、「遠くへ行きたい」という番組自体が国鉄のCMだったともいえる)。それとは別に、高校は図らずもデザイン科を選んでしまったために、参考資料として創刊されたばかりの『アンアン』をいとこの女子大生から譲り受け、そのなかの旅の記事にも多いに刺激を受けていた。ということを、この展覧会を見ていまさらながら認識した次第。そっか、ぼくの人生の何分の一かは(少なくとも10パーセントは)藤岡和賀夫氏が決定づけたのかもしれない。

2014/09/28(日)(村田真)

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被災地めぐり

会期:2014/09/28

[宮城県]

久しぶりに仙台を起点に、雄勝、女川、石巻エリアをまわる。雄勝の中心部は被災建物を除去したため、街の痕跡が完全に消えていた。一方、ゆっくりと各浜の復興が動く。以前の津波災害後につくられた復興住宅も、とり壊されるらしいのだが、これは歴史の証言者として残していいのではかと思う。


左:雄勝の復興住宅
右:雄勝風景

女川では、女川サプリメントの建物がすでに解体され、江島共済会館も壊される見込みである。結局、震災遺構としては交番だけが残る予定だ。震災20日後にここに訪れたときは、横倒しになった江島共済会館を探すのに、30分以上かかるほど、街が破壊され尽くされており、カオスの状態だった。しかし、今やこれくらいしか破壊の記憶を伝える目立つものが残っていないのは皮肉である。女川のかさ上げは相当な高さだった。一方、ここは海沿いに新しい水産関係の施設がどんどん作られ、運動公園にも復興住宅群が完成していた。また坂茂の設計による新しい駅舎もだいぶできており、他の被災地に比べてスピードが早い。そして石巻では、被災した自由の女神や木造教会(移築予定)がなくなっていた。


女川 江島共済会館

記事左上:坂茂設計の女川駅駅舎模型

2014/09/28(日)(五十嵐太郎)

ERIC『EYE OF THE VORTEX』

発行所:赤々舎

発行日:2014年9月8日

東京・銀座のガーディアン・ガーデンで開催されたERICの個展「Eye of the Vortex/ 渦の眼」(2014年9月8日~25日)を見逃したのは残念だった。秋は展覧会が立て込んでいるので、ついうっかり忘れてしまうことがよくある。
だが、同時期に発売された同名の写真集を見ることができた。展示で確認することはできなかったが、明らかにERICの撮影のスタイルがかわりつつある。これまで彼が日本や中国で撮影してきた路上スナップでは、6x7判のカメラのシャープな描写力を生かして、近距離から獲物に飛びつくようにシャッターを切っていた。時には白昼ストロボを発光させることもあり、鮮やかなコントラストの画面は、群衆の中から浮き出してくる“個”としての人物たちの、むき出しの生命力を捉えきっていた。だが、今回インドを舞台に撮影された『EYE OF THE VORTEX』のシリーズでは、カメラのフォーマットが35ミリサイズに変わったこともあり、より融通無碍なカメラアングルをとるようになった。被写体との距離感も一定ではなく、かなり遠くからシャッターを切っている写真もある。正面向きの人物だけではなく、横向き、後ろ向き、あるいは人物が写っていないカットまである。
このような変化は、やはりインドという「めくるめく混沌」の地を撮影場所に選んだことによるのだろう。また、香港から日本に来て写真家として活動し始めてから10年以上が過ぎ、彼の眼差しがさまざまなシチュエーションに対応できる柔軟性を備え始めているということでもある。さらに、路上スナップの方法論を研ぎ澄ませていけば、写真による「群衆論」の新たな可能性が開けてくるのではないだろうか。

2014/09/28(日)(飯沢耕太郎)

佐藤春菜「いちのひ」

会期:2014/09/19~2014/09/28

Gallery街道[東京都]

東京杉並区の青梅街道沿いにあるGallery街道が、建物の取り壊しのため11月にクローズすることになった。尾仲浩二が同じ場所に開設したのが2007年。その後、佐藤春菜と松谷友美が共同運営したGallery街道りぼん(2010年)の時期を経て、2011年からは再び佐藤を中心に前と同じ名前で活動するようになった。ごく普通の木造アパートの2階部分という立地条件が珍しいだけでなく、企画もしっかりしていて、なかなか居心地のいい空間だったので、なくなるのは残念だ。だが、自主運営ギャラリーは長く続ければいいというわけではないので、そろそろ潮時ということだろうか。長くかかわってきた佐藤にとっても、いい転機になるのではないだろうか。
その佐藤は、このところずっと「いちのひ」というシリーズを発表している。毎月1日(いちのひ)に撮影した写真をまとめで見せるという試みで、今回は2013年5月~2014年2月分の写真、約60枚が展示されていた。六つ切りサイズにプリントされたモノクローム写真が淡々と並んでおり、日付が写し込まれているのでたしかにその日に撮影したとわかるのだが、内容的には取り立てて特別な場所や出来事が写っているわけではない。だが、その適度に力が抜けた写真のたたずまいが、いい感じにまとまってきているように感じた。長く続けていくことによって「自分の見方」が浮かび上がってくるというだけではなく、スナップシューターとしての日々の鍛錬の成果がきちんと形になりつつある。
この「いちのひ」以外にも、デジカメで撮影している「Tokyo Action」というシリーズも継続中ということなので、両方をあわせて見る機会もつくってほしい。また、そろそろスナップ以外の手法にもチャレンジしていってほしいものだ。

2014/09/28(日)(飯沢耕太郎)

窓の外、恋の旅。──風景と表現

会期:2014/09/27~2014/11/30

芦屋市立美術博物館[兵庫県]

芦屋とゆかりが深い美術家である小出楢重、吉原治良、津高和一、村上三郎、ハナヤ勘兵衛に、詩人の谷川俊太郎、若手の下道基行、林勇気、ヤマガミユキヒロという、ユニークなラインアップで行なわれた企画展。テーマは風景であり、異なる時代、異なるメディアを用いる作家たちの共演が、美術館をみずみずしい感動で満たした。例えば、小出と吉原の絵画作品と、林とヤマガミの映像作品の対比、津高の絵画と谷川の詩の交感、谷川と下道による、詩と写真というジャンルの違いを超えたナラティブな表現の並置など、見所はあまりにも多い。しかし、それ以上に印象的だったのは、本展が醸し出す日常的な空気感だ。会場には、現代美術に不慣れな人でもスーッと溶け込めるような、リラックスした空気が満ち溢れていた。この雰囲気をつくり出したことが、本展キュレーターの最大の功績である。

2014/09/27(土)(小吹隆文)

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