artscapeレビュー

松本泉 写真展「甲冑」

2014年09月01日号

会期:2014/08/04~2014/08/09

コバヤシ画廊[東京都]

昆虫写真といえば自然環境の中での生態をとらえたクローズアップが多いが、松本泉のそれは黒バックの接写であるため標本のような客観性がある。躯体の形態や表面の質感、そして肉眼では見逃してしまいがちな細かい色彩。おおむね横向きの姿勢で撮影された昆虫たちの細部に眼を走らせると、そのようにして次から次へと発見があるのが楽しい。クワガタの表面があれほどざらついているとは知らなかった。まさしく肉眼を超える視覚体験である。
興味深いのは、その発見を美術との類縁性によって理解してしまうことだ。コガネムシやカナブンの光沢感のある表面は、釉薬をかけて焼いた陶磁器のようだし、カブトムシやクワガタの造形はダイナミックな彫刻のようだ。こうした結びつきは、何も美術という色眼鏡に由来するだけではないだろう。人間であれ自然であれ、世界の基本的な成り立ちには造形がある。そのことを体感できる展観であった。

2014/08/06(水)(福住廉)

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