artscapeレビュー
中房総国際芸術祭いちはらアート×ミックス
2014年05月15日号
会期:2014/03/21~2014/05/11
市原市南部エリア[千葉県]
なぜか吉祥寺発のバスツアーに参加。天気もよく、しかもGWの幕開けとあってアクアラインの手前で渋滞、帰りはもっとひどい渋滞に巻き込まれ、結局往復7時間かかった。まず最初に向かったのはダム湖のほとりに立つ市原湖畔美術館。リン・テンミャオは、骨格見本などを組み合わせた作品に市原市内の学校教材を加えてオブジェを制作。アルフレド&イザベル・アキリザンはダム湖に沈んだ村をイメージし、ひっくり返したボートの下に数千もの段ボール製の建物を吊るした作品を展示している。どちらも過疎化で統廃合が進む学校や生徒たちとのコラボレーションを強調している点が、先行する越後妻有や瀬戸内のプロジェクトと被っていて「またか」という感じ。バスのなかから高滝湖に浮かぶ飛行機をながめる。ボートで乗りつけて釣りもできるKOSUGE1-16の作品だが、マレーシア航空機や韓国の旅客船沈没事故が記憶に新しいだけに、タイムリーというかなんというか。
旧里見小学校へ。ここには10組ほどの作品があるが、目を引いたのは、教室をお菓子やそのパッケージで埋め尽くしたり(滝沢達史)、校長室を丸ごとマイナス30度にフリーズしたり(栗林隆)、美術室の壁や天井までびっしりと名画のコピーで埋めたり(豊福亮)、子どものころやりたくてもできなかったタブーを実現させた、いわば「学校への逆襲」ともいうべきプロジェクトだ。弁当を食べながらバスに揺られて小湊鉄道の上総牛久駅に行き、ここから養老渓谷駅までのあいだ列車内で上演する指輪ホテルの演劇『あんなに愛しあったのに──中房総小湊鐵道篇』を見る。小湊鉄道では80年代にサティ弾きの島田璃里さんが列車内にピアノを持ち込んで「演奏旅行」したことがあり、ぼくはそのとき初めて小湊鉄道に乗ったのだが、約30年ぶりに同じ鉄道内でパフォーマンスを見ることになった。演劇自体はともかく、車内照明をつけずにトンネルを走り抜けたり、ドラマに合わせて警笛を鳴らしたり、かなりムチャなことをやっていた。
上総大久保駅で下車し、旧白鳥小学校へ。ここでも複数のアーティストがインスタレーションを見せているが、注目すべきは吉田夏奈の《もぐら》。壁の穴を抜けて暗い階段を昇っていくと穴の開いた天井があり、上まで昇って振り返れば、天井の上面に菜の花畑が描いてある。つまり観客がモグラになって地中を進み、菜の花畑から顔を出すという仕掛けなのだ。菜の花もモグラも市原の名物(?)らしいが、そのふたつの要素を使い、階段という立体構造を生かしながら観客にモグラ気分を体験させ、最後にニヤッとさせる。これはいい。このあと養老渓谷で見た開発好明の《モグラTV》とともに本日のベスト作品賞だ。《モグラTV》は畑に穴を掘って地下スタジオをつくり、ゲストを呼んで生放送を配信するというプロジェクト。会期中作者はモグラの着ぐるみを着て穴のなかで待機し、人がたずねてくると顔を出す。モグラのくせに顔が日焼けしてるのはそのせいだ。モグラというあまり歓迎されない地中動物と地下放送を結びつけ、文字どおりアンダーグラウンドに徹している。
その後、古民家の室内にインスタレーションした大巻伸嗣、月崎駅前の小屋を「森の音」を聞く空間に変えた木村崇人、インドのサンタル族を招いて食を提供する岩田草平らのプロジェクトを鑑賞。大巻のインスタレーションはよくできているけど既視感がぬぐえず、木村と岩田は森やインドの民族に比重が傾いてアートを通り過ぎてしまっている。見終えてひとつ疑問に思ったのは、市原市内には30カ所を超えるゴルフ場がひしめき、グーグルマップで見ると気持ち悪いほど虫食い状態になってるのに、ぼくが見た範囲ではだれもそのことを作品にしてなかったこと。たしかに徒歩や公共交通で移動している限りゴルフ場には気づかないのだが、だからこそだれか目に見えるかたちにしてほしかった。
2014/04/27(日)(村田真)