artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

COCHAE×夜長堂×横田百合(オトンコレクション)「だるまとこけし──楽しい郷土玩具トークショー」(コトコトこけし博2014)

会期:2014/03/21~2014/03/23

マヤルカ古書店[京都府]

昨年開催された会場を覗いたとき、多くの若い女性たちでたいへん賑わっていたのに驚いた「こけし博」。東北各地のこけしが出張展示販売されるイベントで、会場には伝統こけしの類だけではなく、美術やデザインのフィールドで活躍するアーティストによるこけしをモチーフにした作品も並ぶ。今年は関西を拠点に活動している木彫家の北浦和也や、「画賊」のメンバーとしても活躍している山西愛も出品参加していた。会期中は実際にこけしを制作するワークショップやトークイベントなども多数開催されていたのだが、私は郷土玩具にまつわるトークショーに参加してみた。これはおもにだるまとこけしをテーマにしたものだったのだが、こけしの“工人”となる条件、関西と関東のこけしへの関心度の違いなど、興味深い話題が次々と挙がり会場も盛り上がった。こけしなどの郷土玩具を通して伝統と革新を見つめる機会。充実した時間だった。


トークショー。左から、COCHAE、横田百合、夜長堂

2014/03/23(日)(酒井千穂)

CIM[CITY IN MEMORY -記憶の街-]「記憶の倉庫」

会期:2014/03/01~2014/03/23(木~のみ)

堀川団地[京都府]

京都市にある築60年以上の「堀川団地」はかつて多くの人達の憧れだったという集合住宅。現在も住人がいるのだが、今回12名のアーティストが空き室を舞台にこの場所の「記憶」を見つめるという“体験の場”をつくりあげた。公開されたのは実際にこの団地の住人によって使われていたり、保管されていた衣類、多くの生活道具などがインスタレーションされた住居空間。私が想像していたよりも狭く、風呂もなかったのが意外だったのだが、この設えはかつての住人の暮らしや外の景色、その移り変わりに思いを巡らせた。昔この団地で暮らしていた人が訪ねてきて、集合ポストのひとつに現在もその名前が残っているのを見つけたというエピソードを聞いたことも感慨深く、部屋に染み込んだ生活の匂いがいっそう想像をかき立てた。老朽化で、現在再生計画が議論されている最中だという団地。その今後にも注目したい。


展示風景

2014/03/23(日)(酒井千穂)

第2回札幌500m美術館賞グランプリ展「White Play」/Re:送っていただけませんか?

会期:2014/02/01~2014/03/28

札幌大通地下ギャラリー 500m美術館[北海道]

札幌は名古屋と同じく地下街が発展しているが、壁をアート展示に使う札幌大通地下ギャラリーの500m美術館にも立ち寄った。アワードでは、大黒淳一の羽根を風で飛ばし雪を連想させる作品がグランプリである。「Re:送っていただけませんか?」の企画展は、浅井裕介、五十嵐淳+北海道組、金氏徹平、磯崎道佳、東方悠平ほかが出品していた。

写真:大黒淳一

2014/03/23(日)(五十嵐太郎)

近藤幸夫先生──思い出の会

会期:2014/03/21~2014/03/23

慶応義塾大学日吉キャンパス来往舎ギャラリー[神奈川県]

この2月14日に亡くなった近藤幸夫さんをしのぶ展覧会。近藤さんは1980年に東京国立近代美術館に入られたが、当時の東近には優秀なだけでなくアクの強い研究官が多く、近藤さんみたいに真っ当な人は病気になってしまうんじゃないかと思っていたら、案の定体調を崩され、1996年に慶応義塾大学に移籍。その後は闘病しながら後進を指導し、日吉キャンパスの来往舎ギャラリーなどで学生とともに展覧会を企画されていた。展示は、東近での「現代美術における写真」「手塚治虫展」などのカタログ、翻訳した『ブランクーシ作品集』、来往舎ギャラリーでの展覧会リーフレットや写真など。亡くなったからいうのではないが、有象無象の跋扈する美術界のなかでは珍しく、本当によい人だった。

2014/03/22(土)(村田真)

アーヴィング・ペン「Cigarettes」

会期:2014/03/20~2014/04/19

タカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルム[東京都]

アーヴィング・ペンの多彩な作品群のなかでも、「Cigarettes(煙草)」のシリーズは最も好きなもののひとつだ。ペン以外の誰が、地面に落ちている煙草の吸い殻を被写体にすることを思いつくことができただろうか。そこにはペンの写真家としての鋭敏な感受性と、どんな些細な物でも彼のエレガントな作品世界の中で輝かせてみせるという、揺るぎない自信が表われている。
ペンがこのシリーズを最初に発表したのは1975年で、その展覧会を見て衝撃を受けたロンドンのハミルトンズ・ギャラリーのディレクター、ティム・ジェフリーズは、いつの日かそのすべてを展示したいと考えた。それがようやく実現したのは2012年で、今回のタカ・イシイギャラリー フォトグラフィー/フィルムの個展では、そのうち16点が展示されている。このシリーズを、これだけまとまった形で見ることができるのは、おそらく日本では初めてのことだろう。
煙草の吸い殻そのものの繊細かつ微妙な質感、その奇妙に心そそられるフォルムも魅力的だが、ペンがこのシリーズでプラチナム・パラディウム・プリント(プラチナ・プリント)を初めて用いたというのも重要な意味を持つ。本作が19世紀に流行したこの古典技法を、現代写真において復活させる大きなきっかけになったからだ。あらためて展示された作品を見ると、彼がなぜプラチナ・プリントに目をつけたのかがわかるような気がした。そのセピア調の色味、中間部の柔らかで豊かなトーンは、まさにクローズアップされた煙草の吸い殻にふさわしいからだ。逆にいえば、プラチナ・プリントは普通のポートレートや風景にはあまり向いていないのかもしれない。ペンのこの作品以後、プラチナ・プリントをいろいろな被写体の写真に使うことが多くなったが、もう一度その適性を吟味してみるべきではないだろうか。

写真:アーヴィング・ペン《Cigarette No. 50》New York, 1972/1975年
プラチナ・パラディウム・プリント
イメージ・サイズ: 59.7 x 45.1 cm
ペーパー・サイズ: 63.5 x 55.9 cm
マウント・サイズ: 66 x 55.9 cm
Copyright © by the Irving Penn Foundation
Courtesy Pace/MacGill Gallery, New York

2014/03/22(土)(飯沢耕太郎)