artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
松平莉奈「未だ見ぬ熱帯」
会期:2014/03/04~2014/03/16
ギャラリーモーニング[京都府]
京都市立芸術大学大学院絵画専攻日本画領域をこの春修了したばかりの松平莉奈。今展は同ギャラリーでの2度目の個展だが、すでに備わった貫禄を感じるほど絵が上手い。今回は、オオカミに育てられたという野生児、アマラとカマラの逸話を元に描いた《神殿の狼、アマラとカマラ》、森女と一休の物語をモチーフにした《一休森女伝》といった大作のほか、女性の頭部肖像の小作品が展示された。作家の豊かな想像力と、つい見入ってしまう神秘的な魅力をたたえた人物の目や口元などの描写が強烈な印象。今後の活躍も楽しみにしている。
2014/03/15(土)(酒井千穂)
ex.resist vol.2
会期:2014/03/14~2014/03/23
Galaxy-銀河系[東京都]
resist写真塾は吉永マサユキを塾長に2006年にスタートした。毎回、特別講師の森山大道をはじめとするゲスト講師を迎え、定員20名で作品講評と写真集制作を中心とした授業を行なっている。本展はその修了生によるグループ展で、大谷次郎、奥田敦史、川本健司、竹内弘真、谷本恵、星玄人の6人が参加した。
「時流に乗らず、短期的な結果を追い求めず、技巧手法のごまかしもしない。周りに惑わされることなく、自分がこれと決めた対象に向き合い続ける」という塾の方針をストレートに受けとめた作品群は、気魄と意欲にあふれたものばかりだ。スナップ写真特有の直接的な身体性を、これほど生真面目に追い求めている集団はほかにないのではないだろうか。ただ、スタートから9年経って、8期にわたって修了生を出し続けてくると、そろそろその直球勝負の表現のあり方が、スタイルとして固定しかけているのではないかと思ってしまう。吉永マサユキや森山大道の手法を後追いし続けた結果、彼らの「縮小再生産」になりつつあるのではないかと懸念するのだ。
たとえば、出品者のひとりの星玄人は、東京・新宿のサードディストリクトギャラリーでも発表を重ねている写真家で、本点の出品作である「大阪西成」も、不穏な気配が全面に漂う力作だ。だが、その彼の写真が、ほかの写真家たちの作品と同化し、むしろパワーダウンしているように感じられた。もうそろそろ、resistという枠組そのものを、流動的に解体していく時期にきているのではないだろうか。
2014/03/15(土)(飯沢耕太郎)
ハイレッド・センター:「直接行動」の軌跡展
会期:2014/02/11~2014/03/23
渋谷区立松濤美術館[東京都]
高松次郎、赤瀬川原平、中西夏之が1963年5月に開催した「第5次ミキサー計画」に際して結成され、公式的には1964年10月の「首都圏清掃整理促進運動」まで継続したアート・パフォーマンス・グループ、ハイレッド・センター(Hi-Red Center、以下HRC)。本展は多くの作品・資料を通じて、その全貌と正体を詳らかにしようとする意欲的な企画である。
ここでは、HRCと写真メディアについてあらためて考えてみることにしよう。彼らの代表作のひとつである帝国ホテルを舞台とした「シェルター計画」(1964年1月)では、来客を前後左右、上下から撮影したり、赤瀬川原平の「模型千円札」では、本物の千円札を写真製版で印刷したりするなど、HRCは積極的に写真を作品に取り込もうとしていた。だが、より重要なのは、彼らのメインの活動というべき「直接行動」(パフォーマンス)が、写真なしでは成り立たなかったということである。ロープを至るところに張り巡らせたり、ビルの屋上からさまざまな物体を落下させたり(「ドロッピング・ショー」1064年10月)、都内各地の舗道などを雑巾で「清掃」したりする彼らの活動は、そもそも一過性のものであり、写真を撮影しておかないかぎりは雲散霧消してしまう。パフォーミング・アートの記録の手段として、写真は大きな意味を持っているが、HRCにおいてはまさに決定的な役割を果たしたと言えるだろう。
その意味では、記録者(写真家)の存在も大きくなるわけで、「ドロッピング・ショー」や「首都圏清掃整理促進運動」を撮影した平田実の写真などは、その写真家としての能力の高さによって、単純な記録を超えた価値を持ち始めていると思う。もしもこれらの写真が存在せず、作品とテキストだけの展示だったとしたなら、HRCの活動の面白さはほとんど伝わらないのではないだろうか。何よりも写真によって、彼らの活動のバックグラウンドとなった1960年代の空気感が、いきいきと伝わってくるのが大きい。
2014/03/15(土)(飯沢耕太郎)
HUB-IBARAKI ART COMPETITION EXHIBITION
会期:2014/03/07~6カ月間(予定)
茨木市立生涯学習センターきらめき、茨木市市民総合文化センター(クリエイトセンター)、茨木市市民会館(ユーアイホール)、茨木市立市民体育会館、茨木市福祉文化会館(オークシアター)、茨木市立男女共同センターローズWAM、茨木市立中央図書館[大阪府]
大阪府茨木市の公共施設を舞台に、公募審査を通過した美術家たちが作品を制作・展示するプロジェクト。中島麦、山城優摩、N N.P.O、小宮太郎、高木義隆、藤本絢子、稲垣元則の7組が審査を通過し、それぞれのプランをつくり上げた。作品ジャンルは、絵画、立体、インスタレーション、写真などさまざまで、なかには地元市民を取材して小学校の記憶を模型とスケッチで再現する作品もあった。実際、作品の完成度には差があり、高いハードルを乗り越えて実現したと思しき作品がある一方、残念と言わざるをえないケースも幾つか見受けられた。今年が初回ということもあり、施設サイドとの意思疎通が不調だったのかもしれない。展示期間が約半年と長いので、今後も関係各位がコミュニケーションを図ってプロジェクトの質を高めていってほしい。来年以降もプロジェクトを継続すれば、市民の関心も徐々に高まって良質な催しに育つのではなかろうか。
2014/03/15(土)(小吹隆文)
VOCA展2014「現代美術の展望──新しい平面の作家たち」
会期:2014/03/15~2014/03/30
上野の森美術館[東京都]
いまさら具象も抽象もないけれど、あえて分ければ、VOCA展の初期のころは抽象絵画が多かったのに、次第に具象が大半を占めるようになり、近年再び抽象が復活し始めている気がする。といってもカッコつきの「抽象」で、モダニズム華やかなりしころの抽象絵画とは似て非なるものかもしれない。今回でいえば秋吉風人、大槻英世、小川晴輝、片山真妃、高橋大輔らだ。支持体を透明にしたり(秋吉)、ユーモラスなだまし絵風にしたり(大槻)、イリュージョニズムを導入したり(小川)、作画に過剰なルールを課したり(片山)、絵具を立体的に盛り上げたり(高橋)と、モダニズム(フォーマリズムと置き換えてもいい)の作法を踏み外す掟破りの「抽象」が多い。これは従来の抽象絵画を相対化するメタ抽象ともいえるし、抽象絵画のパロディといえなくもない。かつての藤枝晃雄の言葉を借りれば「芸術としての芸術」ではなく「芸術についての芸術」ということだ。もっともそれが彼らの受賞できなかった理由ではないだろう。実際、彼らの作品が今回の受賞作より質が低いとは思えないのだけど。
2014/03/14(金)(村田真)