artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

プレビュー:プライベート・ユートピア ここだけの場所 ブリティッシュ・カウンシル・コレクションにみる英国美術の現在

会期:2014/04/12~2014/05/25

伊丹市立美術館、伊丹市立工芸センター[兵庫県]

英国の公的な国際文化交流機関ブリティッシュ・カウンシルが所蔵する、絵画、写真、映像、立体など約120作品で、英国美術の動向を紹介する。1990年代に一世を風靡したYBA(ヤング・ブリティッシュ・アート)世代のギャリー・ヒューム、サラ・ルーカス、ジェイク・アンド・ディノス・チャップマンら、ターナー賞を受賞したマーティン・クリード、グレイソン・ペリー、サイモン・スターリングなど、28作家・計30名のアーティストが出品。関西初紹介の作家も数多く含まれるということで、1990年代以降の英国現代美術を知る絶好の機会となりそうだ。

2014/03/20(木)(小吹隆文)

中村一美 展

会期:2014/03/19~2014/05/19

国立新美術館 企画展示室1E[東京都]

内覧会に遅れて行ったため終了まで小1時間しかなかったが、それでも十分見られると思ったのが大間違い。1点1点じっくり見ていったら時間切れ、クライマックスともいうべき「ウォール・ペインティング」を含む3部屋ほど残して追い出されてしまった(急ぎ足で見たが)。これは体調を整えてもういちど見に行かなければいけない。それほど「見甲斐」のある展覧会だった。それは初期のY型から斜め格子、曲線の出現、蛍光色の使用、デコレーションのような絵具のテンコ盛りと徐々に展開する作品内容もさることながら、なにより作品の大きさと数によるところが大きい。質より量をホメるというのもなんだが、だだっ広いこの美術館の展示室を埋め尽くして余りある作品の物量にまず圧倒される。驚くのは、初期のころから100号、200号の大作を量産していること。セコい話だが、木枠とキャンバスだけで何万円もするし、厚塗りだから絵具の量もハンパじゃない。それを年に何十点も量産しているのだ。まるで30年も前から国立美術館で個展を開くことを想定して制作してきたかのような姿勢。もうそれだけで愕然としてしまう。これは尋常ならざる自信と覚悟がなければできないこと。とりあえず量だけで満腹、いや感服しました。

2014/03/18(火)(村田真)

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大きいゴジラ 小さいゴジラ

会期:2014/02/25~2014/03/30

川越市立美術館[埼玉県]

映画『ゴジラ』が公開された1954年は、アメリカによる水爆実験「キャッスル作戦」がマーシャル諸島のビキニ環礁で行なわれ、第五福竜丸を巻き込んで被爆させた年である。その一方、同年は当時中曽根康弘らによって原子力研究開発予算が国会に提出され、読売新聞社主催の「誰でもわかる原子力展」が新宿伊勢丹で催されたように、日本の原子力政策の原点が刻まれた年でもある。ゴジラは被爆と原子力の平和利用という矛盾が凝縮した時代に誕生したのである。
それから60年後。ゴジラをめぐる社会状況が激変したことは言うまでもない。美術家の長沢秀之は映画のゴジラを「大きいゴジラ」としたうえで、東日本大震災によって「小さいゴジラ」が生まれたと設定した。本展は、その「小さいゴジラ」という未見のイメージを、美術家や美大生、小学生らが想像的に造形化した作品を一挙に展示したもの。市民参加やワークショップの体裁を採用しながら、そうした限界芸術の地平から現在進行形の同時代性を獲得した、非常に画期的な展覧会である。
窪田夏穂による《デモンストレーション・ゴジラ》は、9枚の短編マンガ。ゴジラの救出を訴える街頭デモをめぐる人間模様を筆ペンで簡潔に描いた。作画には黒田硫黄の影響が少なからず見受けられるものの、熱を帯びたデモ参加者と、彼らに注がれる冷ややかな視線のギャップの描写が生々しい。ここでのゴジラに「脱原発」が重ねられていることは明らかだが、ゴジラの被り物に身を入れることで初めてデモに参加することができた主人公の身ぶりには、正面切って脱原発を訴えることの難しさと、脱原発運動がゴジラのような求心力のある明確な象徴を依然として持ちえていない難しさという、二重の困難が投影されているように思われた。
《日常のゴジラ(2012年の夏)》で野間祥子と藤田遼子が描いたのは、都市の日常的な光景。一見するとなんの変哲もない街並みだが、よく見ると画面の奥のビル群はいずれも奇妙に歪み、傾いている。大きいゴジラは街を滅茶苦茶に破壊したが、まさしく東日本大震災に端を発する放射能汚染がそうであるように、小さいゴジラの脅威は見えにくいということなのだろう。逃げ出してくる人びとを尻目にスマホをいじる人物像は、知覚しえない脅威に想像力を働かすことのない現代人の肖像なのだ。
小さいゴジラを創出する道筋をつけた本展の意義は大きい。時代を正視することを避けるアーティストが多いなか、この経験はひとつの光明である。

2014/03/18(火)(福住廉)

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カタログ&ブックス│2014年3月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

藤田嗣治画集「巴里」「異郷」「追憶」(全3巻)

著者:林洋子
発行日:2014年02月20日
発行所:小学館
サイズ:B5判、各128頁
価格:各3,800円+税

日本を代表する国際的な画家・藤田嗣治(レオナール・フジタ/1886〜1968)の多面的で多層的な画業を「巴里」「異郷」「追憶」という三つのテーマ、3巻で概観。藤田嗣治の画業をたどる上で欠かせない「基準作」となる作品を厳選し、美麗な図版で紹介するとともに、第一線の研究者による最新の研究成果に基づくテキストで、作品の内容と制作の背景などについて詳細に解説します。[小学館サイトより]


亜洲狂詩曲 アジアンラプソディ

著者:中野正貴
発行日:2013年12月17日
発行所:株式会社クレヴィス
サイズ:226×300mm
価格:2,800円+税

誰もいない東京を撮ったベストセラー写真集『TOKYO NOBODY』、木村伊兵衛写真賞の受賞作『東京窓景』など話題となる作品集を発表し続ける中野正貴が、35年にわたって撮りためていた「アジア」をまとめた、約5年ぶりとなる写真集。
「縦文字と横文字が混在する重層な文化を持つアジアの日常の様々な断片をシャッフルして、アジアというひとつの国を構築してみた。複数の楽曲を自由に構成して仕上げる狂詩曲(ラプソディ)のように」[本書帯より]


没後50年 上田宇三郎展─もうひとつの時間へ─

執筆・編集:吉田暁子(福岡市美術館)
デザイン:藤田公一
発行日:2013年12月
発行:福岡市美術館
サイズ:225×297mm、63頁
価格:1,500円(税込)

2013年12月18日〜2014年2月26日まで、福岡市美術館にて開催された「没後50年 上田宇三郎展─もうひとつの時間へ─」図録。全出品作品をカラー図版で掲載。作品解説や学芸員によるエッセイのほか、宇三郎の日記を掲載したCD付き。


想像しなおし In Search of Critical Imagination 展覧会図録

執筆・編集:正路佐知子(福岡市美術館)
デザイン:尾中俊介(Calamari inc.)
発行日:2014年2月10日
発行:福岡市美術館
サイズ:200×257mm、176頁
価格:1,800円(税込)

2014年1月5日〜2月23日まで、福岡詩美術館にて開催された「想像しなおし In Search of Critical Imagination」展カタログ。
テッサ・モーリス=スズキ「世界を再想像する」 (書き下ろしエッセイ)、本展企画者・正路佐知子[福岡市美術館]によるエッセイ、展覧会風景、出品作品のカラー写真(撮影:山中慎太郎)などを収録。[展覧会サイトより]

2014/03/17(月)(artscape編集部)

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混流温泉文化祭

会期:2014/03/08~2014/03/23

丸屋ビル、仲見世通り商店街、平和通り商店街[静岡県]

久しぶりに熱海を訪問した。近年は人が減っていると思いきや、日曜だからなのか、それとも若者が海外に行かなくなったからなのか、想像以上ににぎわっていた。熱海に移住した戸井田雄(せんだいデザインリーグ2006で、地面に穴を掘ったファイナリスト)が企画した混流温泉文化祭を開催しており、駅前の商店街からuwabamiの作品が各店舗のショーウィンドウに展開する。メイン会場は、銀座通りの丸屋ビルの1階と地下である。かつてパチンコ屋だった建物の内部で、勝正光の鉛筆画、近藤洋平による椅子のインスタレーション、眞島竜男による温泉での着替え映像作品、田原唯之の交換する水のインスピレーション、木村恒介の横縞になった風景写真、机の傷に蓄光性の塗料をすり込んだ戸井田の作品が楽しめる。このイベントは、岩室温泉のある新潟からのサポートで実現できたらしい。銀座通り周辺の街歩きを行なう。震災と津波、そして大火のために戦前の建物はなくなり、20世紀後半のものだが、昭和の時層を感じる味のある建物が多く、なかなか面白い。その後、アートと街づくりをめぐって、藤浩志とトークを行なう。あいちトリエンナーレとかぶり、彼がディレクションした十和田奥入瀬芸術祭に行けなかったのが惜しまれる。

写真:近藤洋平による椅子のインスタレーション

2014/03/16(日)(五十嵐太郎)