artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

How is this connected to that?/山本雄教 展

会期:2014/03/21~2014/03/31

つくるビル[京都府]

若手画家の山本雄教が、アトリエを構えるビル全体を使って大規模な個展を開催した。会場は1階から4階まであり、1階の空き部屋以外は廊下での展示である。作品は、米粒をモチーフにしたシリーズ、ブルーシートに描いた富士山、1円玉をフロッタージュして描いた肖像画、点字ブロックなどの同一モチーフを集積して風景を表現したシリーズなど。各作品には詳細なキャプションが添付され、作品の意図や関係性が詳しく説明されている。つまり、山本のこれまでの歩みを一望するプチ回顧展なのだ。彼が本展に込めた意図は何か。一見無秩序に見える作品の関係を明らかにし、作家像を明確にしようと思ったのであろう。細部まで心配りされた質の高い展覧会であり、同年代の若手にも示唆に富む機会であった。

2014/03/25(火)(小吹隆文)

北島敬三「UNTITLED RECORDS Vol.1」

会期:2014/03/21~2014/04/20

photographers’ gallery[東京都]

北島敬三がphotographers’ galleryを舞台に新たなプロジェクトに着手した。北海道から沖縄まで全国各地の風景を撮影し、それらを「年4回のペースで全20冊以上」の写真集として出版、同時に写真展を開催するという息の長いシリーズだ。その第一弾として『UNTITLED RECORDS Vol.1』(KULA)が刊行され、同名の写真展が開催された。
だが、写真展の会場に足を運んだ者は、いかにも北島らしい仕掛けに驚きかつ戸惑うのではないだろうか。写真集の方は1999~2003年に広島、青森、東京、横浜、長野、八戸、千葉、沖縄で撮影された写真群からなる。ところが、会場に展示されているのは「石巻2011.10.13」「大船渡2011.6.2」「女川2011.6.27」、つまり東日本大震災と津波によって大きく破壊された建物とその周辺を撮影した3枚の写真なのだ。
おそらく東日本大震災の被災地を訪れて撮影するという経験が、北島にそれまで撮り続けてきた「無名の記録」の意味を再考させる契機になったのだろう。写真を撮るという行為を「かつてそこにあったもの」の姿を留めるというだけでなく、現在も大きく変貌しつつある状況といかにアクティブにかかわらせていくのか、そのことへの真摯な問いかけが、このような引き裂かれた展示と出版物という形をとったのではないだろうか。プロジェクトが、今後どのように展開していくのかを見守っていきたい。

2014/03/25(火)(飯沢耕太郎)

熊谷聖司「EACH LITTLE THING」

会期:2014/03/17~2014/03/30

蒼穹舍[東京都]

このところの熊谷聖司の動き方を見ていると、水がどこからともなく湧き出し、流れていくような気持のよさを感じる。昨年から今年にかけて、かなりたくさんの数の個展を開催しているのだが、あまり無理をしているようには見えない。かつて「もりとでじゃねいろ」(1994)でデビューした頃の勢いのよさが、いい具合に脱力感のある表現に変質しつつあるのだが、写真そのもののクオリティは決して落ちてはいない。それどころか、その融通無碍の作風は、あまり類を見ないユニークなものに育ちつつあるのではないだろうか。
「EACH LITTLE THING」は、文字通り日々目にする「小さなもの」をつかみ取っては撒き散らした作品群。ひょいひょいと被写体をつまみ上げる手つきの軽やかさは、鮮やかとしかいいようがない。思わず笑ってしまうような写真も多く、俳句というよりは川柳の趣もある。展示作品には、サインペンでなんともいい味わいのドローイングや言葉の描き込みをしているものもあり、それが幸福感あふれる画像ととてもうまくマッチしていた。
だが、会場のコメントに次のようにあるのを読むと、熊谷が「軽み」だけに頼っているのではないことがよくわかる。
「2011.3.11以降 写真を撮ること それを発表することについて 考えてきた 『わたしの欲望とは何か』 それを常に見つめていきたい」
「欲望」というのは言うまでもなく、写真家にとっての基本的な欲求である「撮ること」、「それを発表すること」を指しているのだろう。そのことの意味を、熊谷はこのシリーズを編み上げながら、いつも生真面目に問い直し続けているのだ。なお「EACH LITTLE THING」は各22~23枚の写真がおさめられた10冊の写真集として刊行される予定だ。現在はそのうち5冊目まで刊行済みである。

2014/03/25(火)(飯沢耕太郎)

続 木内貴志とその時代~さようならキウチさん~/続続 木内貴志とその時代~帰ってきたキウチさん~

続 木内貴志とその時代~さようならキウチさん~(2014/03/21~2014/04/06、Gallery PARC[京都府])
続続 木内貴志とその時代~帰ってきたキウチさん~(2014/03/24~2014/04/12、GALLERY wks.[大阪府])

美術家の木内貴志が、京都と大阪で同時に個展を開催した。木内は美術史や自分自身のプライベートを素材に、ベタな笑いと自虐精神に満ちた、批評的かつコンセプチュアルな作品で知られている。今回のダブル個展では、京都と大阪で内容が対照的だった。京都は新作中心で、作品を整然と並べるオーソドックスな展示であったのに対し、大阪は過去作品中心で、会場に作品が散乱していたのだ(画像)。この二重人格的な構成により、観客は木内の多面性と一貫性を知ったであろう。同時に、木内貴志というシャイで実直なアーティストが放つ美術への愛の深さにも気づいたのではないか。

2014/03/24(月)・2014/03/25(火)(小吹隆文)

101年目のロバート・キャパ

会期:2014/03/22~2014/05/11

東京都写真美術館 地下1階展示室[東京都]

昨年はロバート・キャパの「生誕100年」ということで、あらためて彼の生涯と作品にスポットが当たった。その余波はまだ続いているようで、今回は「101年目」の展覧会が開催された。というより、キャパの抜群の知名度の高さと、写真の人気を考えると、毎年展覧会を開催してもかなりの観客動員が考えられるということだろう。とはいえ、これだけ何度も同工異曲の企画が続くと、いささか食傷気味になってくる。
今回は世界有数の規模を誇る東京富士美術館のロバート・キャパのコレクションを中心とした展示で、「時代」「戦渦」「つかの間の安らぎ」「友人たち」「人々とともに」の5部構成で、約150点の写真が展示されていた。展示構成はオーソドックスかつ堅実なもので、代表作が過不足なく入っている。やや目新しい視点としては、第4章の「友人たち」のパートにヘミングウェイ、ピカソ、バーグマンといった、彼の生涯を大きく左右した人物たちのポートレートが多数集められていることだろうか。これらを見ると大芸術家や大女優から、これほどまでに人間的な魅力溢れる表情を引き出した、キャパの写真家としての手腕と、そのコミュニケーション能力の高さにあらためて驚かされる。
そのなかに、恋人であり、「ロバート・キャパ」という架空の写真家をともにつくり上げたゲルダ・タローのポートレートも含まれていた。幸せそうな笑みを口元に浮かべ、ベッドに横たわるゲルダの姿には、ほかの写真にはない無防備な雰囲気が表われていて、二人の親密な関係が暗示されている。この写真が撮影されてから約1年後、ゲルダはスペイン戦線で落命するわけで、写真家と写真との数奇な運命の綾を感じないわけにはいかない。

2014/03/24(月)(飯沢耕太郎)

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