artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

荒木経惟「人妻ノ写真」

会期:2013/11/08~2014/01/19

RAT HALL GALLERY[東京都]

荒木経惟が1998年から『週刊大衆』誌に連載している「アラーキー不倫写 人妻エロス」は、実にとんでもないシリーズへと化けつつあるのではないか。そのことを、まざまざと思い知らせてくれる展示だった。
会場には、下腹、太股をたぷたぷと波打たせ、陰毛をこれ見よがしに誇示し、染み、皺、妊娠線何でもありの、妙齢の女性たちのヌード写真がずらりと並んでいる。やや太めのモデルが多い、大伸ばしのプリント展示(20点)もよかったが、なんと言っても圧巻なのはキャビネサイズのプリントを縦24列、横21列、全部で504枚並べた「女体壁」だった。各プリントの一部には、赤、ピンク、青、緑、黄色などのペンで何やら危ない形状の物体を描いたドローイングが施されている。すべて日付入りのカメラで撮影しているということは、荒木はわざわざ「人妻エロス」の撮影現場に、日付を写し込む機能がついたコンパクトカメラを持ち込んでいるということになる。以前、モデルの首から上を全部カットした写真だけで構成された『裏切り』(2004)という写真集を発表したことがあるが、「人妻エロス」は彼にとって、さまざまな過激な実験を試みるラボラトリーとしての役目も果たしつつあるようだ。これからもその派生形が次々に登場してくるのではないだろうか。
それにしても、今さらではあるが、なぜこれらの人妻たちは荒木のカメラの前に裸身を曝したいと思ったのだろうか。そこには単純な欲望や好奇心を超えた、不気味なほどに理解不能な衝動が渦巻いているような気がする。怖いもの見たさではあるが、その正体を確かめてみたい。なお、展示された写真から140点あまりを選んで収録した同名の写真集が、RAT HALL GALLERYから刊行されている。

2013/12/07(土)(飯沢耕太郎)

東島毅「キズと光が重なる」

会期:2013/12/02~2013/12/07

ギャラリー白[大阪府]

ドローイングや小品のシリーズが展示されていた東島毅展。伸びやかで、迫力みなぎる色彩や表情豊かな線、その自由なタッチが壮快で目にも心地よく、インスピレーションを刺激してやまない。力強い大画面の作品も印象に残るものだが、ドローイングの魅力も凄いと思い知った個展。

2013/12/07(土)(酒井千穂)

ギャラリストのまなざし──Management for Artists(大阪芸術大学グループ 美の冒険者たち なんぱパークスアートプログラム vol.10)

会期:2013/11/29~2013/12/08

なんばパークス[大阪府]

大阪芸術大学出身の若手ギャラリスト6名が計10名の作家を紹介する大阪芸術大学主催の展覧展。訪れた日は、出品作家の田口美早紀によるワークショップとともに、今展のコーディネーター山中俊広氏と4名のギャラリストによるトークイベント「ギャラリーの現場で学ぶアートマネージメント」が開催されていた。会場に展示された作品は、写真、平面、立体等ジャンルもさまざまだったのだが、トークではそれぞれの解説とともに、紹介された作家や作品にまつわる各ギャラリストの視点、アートの現場に携わる「裏方」としてのスタンスなど、普段展覧会という表舞台の場ではあまり聞くことができないだろう内容が繰り広げられた。作家とともにアートマネジメントに関わる人々、その仕事にアプローチするこの企画の意義、今後のアートシーンを担う若いギャラリストの言葉など、それぞれ展望が感じられたのが貴重な機会だった。

2013/12/07(土)(酒井千穂)

かたちとシミュレーション 北代省三の写真と実験

会期:2013/10/19~2014/01/13

川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]

川崎市岡本太郎美術館で2003年に開催された「風の模型 北代省三と実験工房展」は、大きな驚きを与えてくれた。もちろん、北代が1950年代の実験工房の主要メンバーのひとりであり、後に商業写真家としても活動したことは知っていたのだが、彼の写真の仕事の広がりとクオリティの高さは予想をはるかに超えていたのだ。今回の「かたちとシミュレーション 北代省三の写真と実験」展は、前回の展覧会後に川崎市岡本太郎美術館に寄贈された「北代省三アーカイブ」の作品と資料を整理して再構築したもので、さらに細やかに写真家としての業績をふり返っている。そのことによって、これまでほとんど取り上げられてこなかった写真群が出現してくることになり、あらためて驚きを誘う展示となった。
そのひとつは、1971年頃に15ミリという超広角レンズ、ホロゴンで撮影し、自ら「ホロゴン・コンポラ風」と名づけて保存していたというシリーズである。北代はこのレンズで街頭の情景を撮影しているのだが、それらは被写体のフォルムや質感にこだわってきたそれまでの彼の写真とは、かなり異質なものになっている。「コンポラ風」というのは言うまでもなく、当時若い写真家たちの間で流行の兆しを見せていた、「カメラの機能を最も単純素朴な形で」使って、「日常ありふれた何気ない事象」を捉えたスナップショットを示している。この「コンポラ写真」の定義は、北代の実験工房の頃からの盟友である大辻清司によるものだが、大辻とともに北代もまた、この新たな現実把握の方法論に新鮮な興味を覚えていたことがよくわかる。「ホロゴン・コンポラ風」の写真制作を実践することで、彼はむしろそれまでこだわり続けてきた「かたちとシミュレーション」への志向からの脱却を図ろうとしていたのではないだろうか。
残念なことに、これ以後北代の興味は模型飛行機や手づくりカメラの製作に移る。写真家としての仕事をもっと続けていれば、何か大きな展開があったのではないかと思うが、それは結局果たされなかった。それでも「北代省三アーカイブ」にはフィルムの密着プリントを整理した100冊近いコンタクト・アルバムをはじめとして、フィルムやヴィンテージ・プリントなど多数の資料、作品が保存されているという。これらを丁寧に見直していけば、写真家・北代省三のさらなる可能性が見えてくるはずだ。

2013/12/06(金)(飯沢耕太郎)

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バック・トゥ・バック・シアター「ガネーシャ VS. 第三帝国」

会期:2013/12/06~2013/12/08

東京芸術劇場プレイハウス[東京都]

フェスティバル/トーキョーのプログラムで、オーストラリアの劇団バック・トゥ・バック・シアターの公演。これはおもしろかった。この劇団は知的障害者とともに舞台をつくりあげることで知られているそうだが、そこで演じられるのは、インド神話のガネーシャが第三帝国(ナチスドイツ)に奪われた「卍」を取り戻しに行くという冒険譚。ところが、その劇の制作プロセスそのものが本公演の筋書きをなしていて、つまり「ガネーシャ VS. 第三帝国」というドラマが劇中劇として語られるという入れ子構造になっているのだ。しかもそれを演じているのが知的障害者であってみれば、虚と実の境界が確定しがたく、さらに迷宮は深みを増していく。知的障害者による劇というのは、アウトサイダー・アート以上にややこしい可能性を秘めてるような気がする。

2013/12/06(金)(村田真)