artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
新incubation5 生田丹代子×佐々木友恵「時代(とき)をかさねる──心と技」展
会期:2013/11/22~2013/12/26
京都芸術センター[京都府]
ベテラン作家と若手作家が互いに触発し合うことで現代美術をさまざまな角度からとらえ見通すという芸術センターの企画展「新incubation」5回目。今回は、キャリアを積んだ作家として、ガラスを用いた造形作品を制作し続けている生田丹代子、若手作家として、京都市立芸術大学で漆工技法を学び、平面や彫刻、インスタレーションなど多彩な手法の表現に取り組んでいる佐々木友恵の二人が紹介された。厚さ5ミリにカットされた板状のガラスを少しずつずらし重ね合わせた生田の作品は、角度や距離によってじつにさまざまに表情が変化して見えるから不思議。驚きと緊張感をともなうその美しさに息を飲んだ。佐々木は自身の幼少期の記憶や、感情体験をモチーフにした作品を発表。描かれた情景や物のイメージが塗り重ねられた漆の層のなかに深い奥行きをもって立ち現われるという雰囲気が儚げで印象的だ。素敵だったので2度訪れた展覧会。どちらの作品も素晴らしかった。
2013/11/29(金)(酒井千穂)
アイデアル・コピー《Money(Kyoto)》
会期:2013/11/09~2013/11/30
HAPS(東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス)[京都府]
京都市の「若手芸術家等の居住・制作・発表の場づくり」事業で、芸術家支援、地域創造、ネットワークづくりなどのミッションを掲げ、制作に必要な不動産のマッチングや、発表活動にまつわる情報提供、コーディネートなど、アーティストの相談窓口として独自の活動を行なっているHAPS(東山 アーティスツ・プレイスメント・サービス)。そのオフィスは六波羅蜜寺や清水寺といった観光名所も近い東山区の六原学区にある。勉強会やトークイベント、ワークショップ等も開催されているのだが、私はここで定期的に展覧会(ALLNight HAPS。展示時間は19:00~10:00の夜間)も開催されていると今回訪れるまで知らなかった。ギャラリースペースには、通りに面したガラスの引き戸の近くにテーブルがただひとつだけ設置されており、一枚だけ100円玉が置かれているという状態だったので、はじめは気がつかなかったのだが、引き戸のガラスの真ん中には丸い穴が空けられていた。これは以前にも東京で発表されたことのあるアイデアル・コピーによる作品展示で、もともと初日にはテーブルの上に350枚の100円硬貨が載せられていたのだそう。通り(外)からギャラリー内へ手を伸ばせる穴があり、初日には置かれていた350枚がいまは……と会期中の無人の夜間ギャラリーの様子を想像し興奮した。どんなことが起こっていたのだろう。こちらも訪れたのが遅かったのが悔やまれるが、それにしてもなんてスリリングで挑戦的な展示。ユニークなギャラリーで開催される今後の展覧会にも期待したい。
2013/11/29(金)(酒井千穂)
KABEGIWA第12回展「掲示」
会期:2013/11/25~2013/12/07
日本大学藝術学部江古田校舎西棟地下1階美術学科彫刻アトリエ前廊下[東京都]
日芸の彫刻アトリエの前の廊下にあるいくつかの掲示板を使った展示。校舎内に入るにはチェックが必要だが、廊下は個々のアトリエより公的性格が強く、不特定多数が行き交う空間。そこにある6面の掲示板がギャラリーだ。これは日芸に勤務する冨井大裕が、「絵画にホワイトキューブは必須か?」との問いにみずから「否!」と答えたうえで、それを検証するために企画したもの。掲示板はキャンバスでいうと300号とか500号の大きさがあり、表面に布が張られ、周囲に枠がはめられている。つまり掲示板自体、絵画形式とよく似ているのだ。なので、参加作家は絵画から出発した6人のアーティスト。絵具てんこ盛りの油絵を出した水戸部七絵は、もっともオーソドックスな展示だが、掲示板に貼り出す物件としては反則並みに出っ張っていた。細長い紙片をハトメで止めていった豊嶋康子は、与えられた掲示板というフィールドそのものを主題としつつ、一部がフィールドをはみ出していた。もっとも感心したのは末永史尚の《掲示》。絵画はひとつのイメージとして把握されるのではなく、さまざまな距離、いろんな角度から見た経験の総体として表象されるものであることを、掲示板に貼ったポスターを距離を変えて撮った写真によって示している。掲示板という与えられた条件を素材と主題に反転させ、なおかつ絵画の本質的な問題にまで迫っている。
2013/11/29(金)(村田真)
森川あいみ個展 ラジオ体操第一
会期:2013/11/26~2013/12/01
KUNST ARZT[京都府]
画廊の展示室には、湾曲したベニヤ板に描かれた絵画が縦横無尽に配置されていた。それらはどれも、ある視点から眺めた風景であり、動きを伴っている。どうやら展覧会タイトルに謎を解くカギがあるようだ。つまり本作は、ラジオ体操をする人間の動きと視線の経過をトレースして描かれた、絵画によるインスタレーションなのである。絵のなかに動きや時間を封じ込める表現方法は、たとえばイタリア未来派や日本の絵巻物の異時同図法のように、すでに多くの実例がある。しかし、彼女の手法はそれらとは根本的に異なる。画面を曲げ、3次元的な展示を行なうことにより、よりダイナミックな描写に成功しているのだ。可能性に満ちた独自のスタイルであり、今後の展開に期待している。
2013/11/28(木)(小吹隆文)
生誕100周年記念 中原淳一 展
会期:2013/11/09~2014/01/26
高崎市美術館[群馬県]
高崎市美術館の中原淳一展を見る。単に一世を風靡した少女趣味のイラストレータだと思っていたら、実は編集者であり、人形作家であり、ファッションからインテリアまで女性の生活へのさまざまな提言を行なっていた人物だったと知る。戦後すぐの友人を招く少女のための三畳の室内のしつらえなども興味深い。
2013/11/28(木)(五十嵐太郎)