artscapeレビュー
美術に関するレビュー/プレビュー
生誕140年記念:下村観山 展
会期:2013/12/07~2014/02/11
横浜美術館[神奈川県]
横山大観が終わったと思ったら、次は下村観山だ。横浜美術館で院展系の日本画家の回顧展が続くのは、2013年が岡倉天心の生誕150年、没後100年に当たるから。大観、観山らとともに日本美術院を創設し、近代日本画を確立させた天心は横浜出身なのだ。それにしても横山大観も下村観山も似たような名前だが、毎年のように展覧会が開かれる大観に比べ、観山のほうは珍しいというか、まとめて見るのはこれが初めてのこと。30歳でヨーロッパに留学し、ラファエロらを模写したせいか、大観より西洋度が高いようだが、竹内栖鳳ほどのリアリティはない。たとえば《獅子図屏風》を見ると、体躯や姿勢はライオンらしいけど、栖鳳のライオンとは異なり顔やたてがみは想像上の獅子。遠近感や立体感など西洋画法は採り入れたものの、写生は重視しなかったようだ。だから和洋折衷でキッチュ感は否めない。むしろそこが観山の魅力なのかも。
2013/12/06(金)(村田真)
モネ、風景をみる眼──19世紀フランス風景画の革新
会期:2013/12/07~2014/03/09
国立西洋美術館[東京都]
箱根のポーラ美術館でも見たが、今回は某文化センターの「風景画講座」の受講生を連れて上野に見学。同展にはモネだけでなく、クールベからセザンヌ、ゴッホ、点描派、ナビ派、ロダンの彫刻、ガレの花器まで出ているので、逆にモネがなにをしようとしたかが明確に浮かび上がってくる。これと「印象派を超えて──点描派の画家たち」展(国立新美術館)を併せ見れば、印象派の革命性がよくわかるはず。でもそんな教科書的な見方より、ただモネの軽快なタッチを目で楽しめばいいんだけどね。これほど描く喜びを伝えてくれる画家も少ないのだから。
2013/12/06(金)(村田真)
岡崎邦夫のコレクション展
会期:2013/12/04~2013/12/08
iTohen[大阪府]
大阪在住の眼科医で美術コレクターの岡崎邦夫氏が、自身のコレクションを披露する展覧会を行なった。この種の展覧会は自己顕示欲の発露と誤解されかねないが、本展は真逆。岡崎氏が丹念に画廊を訪ね、画廊主や美術家との交流を深めながら収集した軌跡がうかがえ、非常に好感が持てる内容だった。作品は若手のものが中心で、購入時には無名だったが今や人気作家となった者も多い(O JUN、鴻池朋子、津田直、三宅砂織、小沢さかえ、風能奈々、東義孝など)。また、ミュージアムピースはないが、それがかえって作品との親密な距離を表わしているかのようだった。他のコレクターも同様の機会を持てばよいと思う。コレクションの棚卸ができるし、なにより他者に共感される喜びは他に代え難いからだ。
2013/12/05(木)(小吹隆文)
秋山陽 展
会期:2013/12/03~2014/01/25
ARTCOURT Gallery[大阪府]
陶による立体造形で知られる秋山陽の大規模個展。3つのシリーズ作品が出品された。《放卵のかたち》は、初期の黒陶技法による造形(現存しない)を自身の根幹として、改めて制作したもの。10点あり、幾何学的形態と有機的形態が絶妙のバランスで融合している。2003年から発表している《Metavoid》は、物質性を前面に出した存在感たっぷりの大作で、作品が内包するvoid(中空)と作品と空間認識の関係で生じるvoidの両方を意識させることを主眼としている。5点が出品された。そしてもうひとつはモノタイプ版画《交信》44点で、自宅周辺で採集したクモの巣を版にした異色の作品だった。これら3つのシリーズを通して、1970年代から現在に至る秋山の造形思考が見て取れたのが本展の収穫である。広大な展示スペースを持つ画廊ならではの、優れた企画展だった。
2013/12/05(木)(小吹隆文)
アイチのチカラ! 戦後愛知のアート、70年の歩み
会期:2013/11/29~2014/02/02
愛知県美術館[愛知県]
愛知県美の「アイチのチカラ」展を見る。あいちトリエンナーレ・ビギンズ、あるいはエピソード1と言うべき内容で楽しめる。当時の桑原知事の強い意向で、1950年代に県美の前身、60年代に県芸を創設し、続いて2つの芸大も登場した。戦後の蓄積があいちトリエンナーレを実現できる環境したことがよくわかる。『中日新聞』の酷評座談会によれば、愛知県にとって現代美術はよそから持ってきた、地域を疲弊させるものらしいが、この展示を見ると、自ら培った歴史と背景がある。特に奈良美智、杉戸洋、森北伸、小林孝亘らに影響を与えた県芸の櫃田伸也の絵が印象に残った。またあいちトリエンナーレも神田知事が始めたものだが、政治が文化にもたらす影響力の大きさがうかがえる。
2013/12/04(水)(五十嵐太郎)