2020年07月01日号
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artscapeレビュー

かたちとシミュレーション 北代省三の写真と実験

2014年01月15日号

会期:2013/10/19~2014/01/13

川崎市岡本太郎美術館[神奈川県]

川崎市岡本太郎美術館で2003年に開催された「風の模型 北代省三と実験工房展」は、大きな驚きを与えてくれた。もちろん、北代が1950年代の実験工房の主要メンバーのひとりであり、後に商業写真家としても活動したことは知っていたのだが、彼の写真の仕事の広がりとクオリティの高さは予想をはるかに超えていたのだ。今回の「かたちとシミュレーション 北代省三の写真と実験」展は、前回の展覧会後に川崎市岡本太郎美術館に寄贈された「北代省三アーカイブ」の作品と資料を整理して再構築したもので、さらに細やかに写真家としての業績をふり返っている。そのことによって、これまでほとんど取り上げられてこなかった写真群が出現してくることになり、あらためて驚きを誘う展示となった。
そのひとつは、1971年頃に15ミリという超広角レンズ、ホロゴンで撮影し、自ら「ホロゴン・コンポラ風」と名づけて保存していたというシリーズである。北代はこのレンズで街頭の情景を撮影しているのだが、それらは被写体のフォルムや質感にこだわってきたそれまでの彼の写真とは、かなり異質なものになっている。「コンポラ風」というのは言うまでもなく、当時若い写真家たちの間で流行の兆しを見せていた、「カメラの機能を最も単純素朴な形で」使って、「日常ありふれた何気ない事象」を捉えたスナップショットを示している。この「コンポラ写真」の定義は、北代の実験工房の頃からの盟友である大辻清司によるものだが、大辻とともに北代もまた、この新たな現実把握の方法論に新鮮な興味を覚えていたことがよくわかる。「ホロゴン・コンポラ風」の写真制作を実践することで、彼はむしろそれまでこだわり続けてきた「かたちとシミュレーション」への志向からの脱却を図ろうとしていたのではないだろうか。
残念なことに、これ以後北代の興味は模型飛行機や手づくりカメラの製作に移る。写真家としての仕事をもっと続けていれば、何か大きな展開があったのではないかと思うが、それは結局果たされなかった。それでも「北代省三アーカイブ」にはフィルムの密着プリントを整理した100冊近いコンタクト・アルバムをはじめとして、フィルムやヴィンテージ・プリントなど多数の資料、作品が保存されているという。これらを丁寧に見直していけば、写真家・北代省三のさらなる可能性が見えてくるはずだ。

2013/12/06(金)(飯沢耕太郎)

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