artscapeレビュー
郷司理恵「SENSO」
2013年11月15日号
会期:2013/09/30~2013/10/08
ポスターハリスギャラリー[東京都]
耽美的なエロティック・アートを得意としているポスターハリスギャラリーにふさわしい展示と言えそうだ。日本での初個展を開催した郷司理恵の写真の主なテーマは花々や果実だが、多種多様なアクセサリーに彩られ、時には羽根や生肉等で象嵌されたその作品世界は一筋縄ではいかない。深紅の花弁は、内蔵やある種の器官のように艶かしくうごめき、果肉ならぬ「花肉」と言えそうな趣を呈している。郷司が本格的に写真作家として活動し始めたのは2003年頃だというから、まだキャリアは長いとは言えない。だが、すでに独特の芳香を放つ領域に踏み込みつつあるのではないかと思う。
今回の展示に並んでいる作品の大部分は小品だが、近作だという大判サイズの作品に、これまでとは違った可能性を感じた。花そのものの官能美に収束していくような、やや求心的な作品群とは異なる、より広がりのある空間へと向かう志向があるように思えたからだ。ゴージャスな色彩と奇妙なフォルムを備えた花々を組み合わせて、オペラの舞台のような雰囲気を醸し出す舞台装置をつくり上げることができるのではないか。
今後さらに試みていってほしいのは、物語(できれば自作の)の要素をより積極的に取り入れた連作である。だが、すでにベルリンでは「卒塔婆小町」に題材をとった作品を発表しているとのことで、心配しなくてもそちらの方向に進んでいくのではないだろうか。
2013/10/02(水)(飯沢耕太郎)