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美術に関するレビュー/プレビュー

生誕100年 松田正平展

会期:2013/06/08~2013/09/01

神奈川県立近代美術館鎌倉[神奈川県]

葉山に行ったついでに鎌倉にも寄ってみる。松田正平という画家は初耳だが、鎌倉で回顧展を開くほどだからきっといい絵に違いない。山田洋次や片岡鶴太郎らファンも多いらしく、洲之内徹など「比類のない美しい絵肌」と絶賛したらしい。チラシにも「飄々とした」とか「味わい深い」とか「洒脱な中にも厳しさを兼ね備えた詩情豊かな」とか、それこそ「詩情豊かな」言葉が並ぶ。しかしざっと駆け足で見たが、なにがいいんだか、どこが味わい深いんだか、なんで詩情豊かなんだかさっぱりわからなかった。こういうのは一生「わからない」だろうなあ。

2013/08/11(日)(村田真)

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戦争/美術 1940-1950 モダニズムの連鎖と変容

会期:2013/07/06~2013/10/14

神奈川県立近代美術館葉山[神奈川県]

神奈近葉山の開館10周年記念展。10周年なのに、なぜはるか昔の第2次大戦を挟む40年代展を企画したのかというと、神奈近が鎌倉に開館するのが1951年なので、それ以前の10年間を振り返ってみようということらしい(出品作品の制作年は1935~60年)。まあ理由づけなんかどうでもいい。興味があるのは、戦争画とそれ以外、とくに敗戦後の絵画との対比だ。ところが予想に反して戦争画は少なく、東京近美所蔵の「作戦記録画」は藤田嗣治の《ソロモン海域に於ける米兵の末路》と《ブキテマの夜戦》、山口蓬春の《香港島最後の総攻撃図》のわずか3点のみ。さすがに戦中は戦争画ではなくても戦争に関連する絵が多いが、日常的な主題の絵も少なくない。ざっくりいうと、日本の美術史は40年代に戦争画が割り込むによって戦前と戦後に分断され、しかも戦争画を抜いたら戦前・戦後は「前衛」によって接続可能だと思っていたが、そんな図式的にきっちり変化したわけじゃなく、グラデーションのように徐々に変化していったことがわかる。サブタイトルの「連鎖と変容」はそういうことだった。

2013/08/11(日)(村田真)

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あいちトリエンナーレ2013 揺れる大地─われわれはどこに立っているのか:場所、記憶、そして復活

会期:2013/08/10~2013/10/27

愛知芸術文化センター、東岡崎会場、松本町会場[愛知県]

実行委員会の岡崎会場視察に同行し、作品を案内する。ユニークな空間をもつ木造アーケードの松本町会場、空きスペースができた百貨店と駅ビル。それぞれに地方の都市ならではの、大都市・名古屋とは違うアプローチを提示することができたと思う。視察の終了後、岡崎から芸文センターへ直行する。オープンの日、ヤノベケンジさんの作品「太陽の結婚式」で最初の結婚式が行なわれ、最初にあいさつの言葉を依頼されていたからだ。ぎりぎり間に合う。やはり、実際の結婚式がなされることで、この空間はさらに魅力を増し、生き生きとする。ちなみに、まだあいちトリエンナーレ期間中の挙式は募集中である。

2013/08/10(土)(五十嵐太郎)

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第29回東川賞受賞作家作品展

会期:2013/08/10~2013/09/04

東川町文化ギャラリー[北海道]

1985年に北海道上川郡東川町でスタートした東川町国際写真フェスティバル(東川町フォトフェスタ)も、今年で29回目を迎えた。「写真の街」を宣言し、高校生の写真部員が集う「写真甲子園」も20回目になるなど、夏の北の大地を彩る恒例行事として完全に定着している。ほかにもポートフォリオレビュー、トーク、スライドショーなどの多彩な行事が繰り広げられた。
東川町文化ギャラリーでは、本年度も東川賞受賞者による作品展が開催された。海外作家賞は、多民族国家の社会状況を軽やかに指し示す連作を発表するマレーシアの女性写真家、ミンストレル・キュイク・チン・チェー。ほかに国内作家賞の川内倫子、新人作家賞の初沢亜利、北海道をテーマにした作品に与えられる特別作家賞の中藤毅彦、長年写真界に貢献した写真家に与えられる飛騨野数右衛門賞の山田實の作品が展示された。いつものように、まったく作風も経歴も違う写真家たちの作品の展示だが、不思議とバランスがとれているように感じるのが興味深い。また、1950年代から沖縄の庶民の暮らしを記録し続けてきた山田實のような、あまりじっくり見る機会のない写真家の代表作が並んでいるのも嬉しい。晴れがましい賞にはそれほど縁がなさそうな写真家たち(今回で言えば初沢亜利や中藤毅彦がそうだ)にきちんと目配りしているのが東川賞の特徴であり、彼らの作品を受賞作家作品展で見るだけでも、わざわざこの街まで足を運ぶ価値があるのではないだろうか。
僕自身は「赤レンガ公開ポートフォリオオーディション2013」の審査員を務めた。同オーディションの審査も今年で3回目になるが、毎回力作が寄せられる。今年グランプリをダブル受賞した青木陽、堀井ヒロツグの作品のレベルの高さは、特筆に値するものだった。
8月10日の夜は、ビールを手にジンギスカンに舌鼓を打ちながら、受賞者、ゲスト、ボランティア、観客などが一堂に会する「ミーティングプレイス」で大いに盛り上がった。フォトフェスタは、多くの写真関係者の出会いと交流の場としても大事な役割を果たしている。

2013/08/10(土)(飯沢耕太郎)

あいちトリエンナーレ2013 揺れる大地 われわれはどこに立っているのか 場所、記憶、そして復活

会期:2013/08/10~2013/10/27

名古屋エリア、岡崎エリア[愛知県]

芸術監督に建築学の五十嵐太郎を迎え、東日本大震災後を強く意識させるテーマを掲げた「あいちトリエンナーレ2013」。このテーマを最も体現していたのは、愛知県美術館8階に展示されていた宮本佳明の《福島第一原発神社》だった。本作は昨年に大阪の橘画廊で発表され大きな注目を集めたが、今回はそれを何倍にもスケールアップさせ、インパクトのある提案をさらに加速させていた。また、宮本は愛知県美術館の吹き抜け部分と福島第一原発建屋のスケールがほぼ相似であることに着目して、美術館の床や壁面に原発の図面をテープでトレースする作品も発表しており、今回の主役ともいうべき活躍を見せていた。名古屋エリア全体でいうと、愛知県美術館と納屋橋会場の出来がよく、地震や被災といったテーマ直結の作品だけでなく、コミュニティの境界や分断、明日への希望を掲げた作品など、質の高い表現がバリエーション豊かに出品されていた。また今回新たに会場に加わった岡崎エリアでも、岡崎シビコでの志賀理江子をはじめとする面々による展示が力強く、とても見応えがあった。そんな今回のトリエンナーレにあえて注文を付けるとすれば、会場間の移動をよりスムーズに行なえる方策を考えてほしい。導入済みのベロタクシーに加え、レンタサイクルを実施すれば歓迎されるのではないか。次回に向け是非検討してほしい。

2013/08/09(金)・10(土)(小吹隆文)

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