artscapeレビュー

美術に関するレビュー/プレビュー

茂木綾子「ノマド村」

MISAKO & ROSEN[東京都]

会期:2013/07/28~08/25(8/12~16休)

茂木綾子の名前は懐かしい。1990年代初め、「写真新世紀」の公募がスタートしたばかりの頃、若い女性モデルをふわっとした調子の画像で撮影したポートレートのシリーズが出品された。それがデビュー当時の茂木の作品で、たしか荒木経惟が優秀賞に選んだはずだ。Hiromixや蜷川実花が登場する少し前の、「ガーリー・フォト」の走りというべき作品だったのをよく覚えている。
その後、彼女はヨーロッパに渡り、ドイツ出身のアーティストのヴェルナー・ペンツェルというパートナーを得て、写真以外に映画作品なども制作するようになる。スイスの古城をアーティスト・イン・レジデンスとして開放するプロジェクトに参加した後、4年前に帰国して兵庫県淡路島に居を定めた。今回のMISAKO & ROSENの個展は、「アート、音楽、写真、映画、食、農、暮らしなどにまつわるさまざまな活動の紹介、交流授業」を展開するため、ヴェルナーとともに淡路市長澤に設立した「ノマド村」のたたずまいを撮影した写真を中心に構成されていた。
基本的には廃校になった小学校を改装した施設のディテールを、丹念に、静かに写しとったドキュメントなのだが、壁や床の有機的な素材の質感をそっと撫でるようにカメラにおさめていく眼差しに、優しさと落ち着きがある。かつての彼女の写真の、軽やかに宙を舞うような躍動感はないのだが、複数の写真を繋ぎ合わせていく手際に、細やかな気配りと表現としての成熟を感じた。今回は人の姿をあえて外したようだが、「ノマド村」の住人たちの暮らしぶりももっと見てみたいと思った。

2013/08/22(木)(飯沢耕太郎)

原芳市「天使見た街」

会期:2013/08/19~2013/08/25

Place M / M2 gallery[東京都]

銀座ニコンサロンで「常世の虫」展を開催したばかりの原芳市が、矢継ぎ早に新宿のPlace M とM2 galleryで別の作品を展示した。このところの原のコンスタントな仕事ぶりには、驚くべきものがある。今回の「天使見た街」も、見せられるものはいま全部見せておこうという気迫が伝わってくる、充実した内容の展覧会だった。
原は2000年~01年にかけて『ザ・ストリッパー・舞姫伝説』(双葉社)におさめる写真を撮影するため、日本全国の劇場を回っていた。その怒濤のような日々の後に訪れた虚脱状態のなかで、偶然「リオのカーニバル」のTV番組を目にする。あたかも啓示のように「次はこれを撮影しなければ」と思ったのだという。最初にブラジル・リオデジャネイロを訪れたのは2004年、それから06年までの3年間に計4回滞在した。最初は時差ボケの影響もあって、ほとんど朦朧とした状態で撮影していたのだが、そのうちサンバ・チーム「マンゲーラ」の関係者や貧民街ファベーラの住人たちともコンタクトがとれるようになり、彼らの生により密着した写真に結びついていった。それらをまとめたのが今回の展覧会と、同時に刊行された同名の写真集『天使見た街』(Place M)である。
会場に並んでいるのは、スナップショット的な都市風景もあるが、大部分はカメラを被写体の正面に据え、ポートレートとしての意識で撮影されたものだ。その意味では、1980年代の写真集『ストリッパー図鑑』(でる舎、1982)や『淑女録』(晩聲社、1984)の延長上にある仕事と言えるだろう。だが、カラーポジフィルムで撮影された今回のシリーズは、「図鑑」としての統一性を保っていた前作と比較すると、より自在に被写体との距離感を伸び縮みさせているように見える。それとともに、リオの住人たちの圧倒的な生のエネルギーをひたすら受けとめ、抱きとろうという原の覚悟がしっかりと伝わってきた。
原は撮り続けていくうちに、「写真機に封じ込めた彼ら彼女らが、天使以外のなにものでもないと実感した」のだという。その経過を細やかに綴った写真集の「あとがき」の文章が素晴らしい。前作の「常世の虫」と併せて見てみると、原芳市の写真世界が完全に花開いてきたという強い思いが湧き上がってくる。60歳を過ぎてからという遅咲きの開花であり、これもまた稀有な事例と言えるだろう。

2013/08/22(木)(飯沢耕太郎)

村上友重「この果ての透明な場所」

会期:2013/08/20~2013/09/20

G/P GALLERY[東京都]

村上友重は2004年に個展「球体の紡ぐ線」(新宿ニコンサロン、第6回三木淳賞受賞)でデビューして以来、一貫して風景をテーマにした作品を発表してきた。本人から見ると、いろいろな紆余曲折はあったのかもしれないが、傍目で見ると順調にキャリアを積み上げ、その作品世界も広く、深くなってきているように思える。今回はオランダの写真雑誌『Foam Magazine』が公募した「Foam Talent」賞に選出された新作の展示だった。
写真を通じて「不可知なことに近づいていくこと、または近づいてみたいと願うこと」を目指すという彼女にとって、霧に包まれた眺めという今回のテーマは必然的なものだったと言えるかもしれない。会場には1,200×1,000ミリの大判サイズに引き伸ばしたプリントが7点並ぶが、それらはすべて半ば白い霧に閉ざされた風景を撮影したものだ。霧の中から、火口らしきもの、建物らしきもの、草原らしきものの姿がぼんやりと浮かび上がってくる。見えそうでよく見えないそのたたずまいは、カメラを構えて、手探りで世界の輪郭、手触りを確認していこうという写真家の営みを暗示しているようでもある。おそらく、その霧の中に包み込まれた不透明な状態も過渡的なものであり、やがては晴れ渡ったクリアーな眺め、「この果ての透明な場所」が目の前に開けてくるのだろう。今回の個展のタイトルは、その願望を込めた名づけであるようにも思える。

2013/08/22(木)(飯沢耕太郎)

生誕250周年 谷文晁

会期:2013/07/03~2013/08/25

サントリー美術館[東京都]

近代以前の日本絵画はパターン化しているからつまらないと思っていたが、この展覧会を見ると、日本絵画のパターンはひとつではなくいくつかあって、谷文晁はそのいくつものパターンを描き分け、折衷してるからおもしろいことがわかった。これは当時、掟破りだっただろう。なにしろ狩野派から土佐派、円山四条派、中国画、洋風画までレパートリーは広く、自由に行き来していたという。いまだと油絵と日本画とスーパーリアリズムとヘタウマをひとりで同時にやっちゃうみたいな。近代以前のポストモダニストですね。

2013/08/21(水)(村田真)

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瀬戸内国際芸術祭2013 アートと島を巡る瀬戸内海の四季

会期:2013/07/20~2013/09/01

瀬戸内海の12の島+高松・宇野[香川県、岡山県]

直島へ。すごい人気の安藤ミュージアムは、外観は残しつつ、内部にコンクリートの壁を挿入しており、プンタデラドガーナの木造版だった。三分一博志さんの、直島の地域性を考慮した屋根をもち、手動で360度回転する水の上の茶室は体験としても面白い。西沢大良さんのパチンコ屋を改造したギャラリーは、静岡の教会の天井もほうふつさせる。ただ、新作に限定すると、それほど直島でまわるべき作品数は多くない。瀬戸内をまわり、ベタでもメタのレベルでも、建築博物館化の現象が起きていると思う。やはり鍵をにぎっているのは、ベネッセだ。一時的なインスタレーションではなく、建物ごとつくるわけだから、当然、お金はかかるが、世界レベルの高品質で、ちゃんと残るものを確実に蓄積していく。あいちトリエンナーレでも、こういう民間企業の関与があるとよいのだが。
写真上から、《ANDO MUSEUM》、三分一博志、西沢大良

2013/08/20(火)(五十嵐太郎)

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