artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
モホイ=ナジ/イン・モーション
会期:2011/07/20~2011/09/04
京都国立近代美術館[京都府]
モホイ=ナジといえば、バウハウスの教師であり、写真やコラージュの作品が有名。その程度の認識しかなかった私にとって、本展は今までの認識を一新させてくれる目の覚めるような企画だった。彼はその流浪の生涯のなかで、写真はもとより、絵画、彫刻、グラフィック・デザイン、映画、舞台美術と、まさに八面六臂の大活躍。元祖マルチアーティストというだけでなく、コミュニケーションを重視するという点で現代アートの先駆者とも呼べる人物だったのだ。もしモホイ=ナジが現代に生きていたら、デジタル機器を用いてどんな表現を見せてくれただろうか。また、モダニストだった彼には、ポストモダン以降の世界がどう映ったのだろうか。作品を見ながらそんな夢想がどんどん広がっていった。
2011/07/19(火)(小吹隆文)
川内倫子『ILLUMINANCE』
発行所:フォイル
発行日:2011年5月22日
川内倫子のデビュー写真集『うたたね』(リトルモア、2001)の刊行から10年が過ぎた。この間の彼女の活躍はめざましいものがあった。2005年のカルティエ財団美術館(フランス・パリ)での個展、2009年のニューヨークICPの「インフィニティ・アワード、芸術部門」受賞など、森山大道、荒木経惟の世代以降の若手作家としては、海外での評価が最も高い一人だろう。本書はその川内の『うたたね』以前の作品を含む15年間の軌跡を辿り直すとともに、彼女の今後の展開を占うのにふさわしい、堂々とした造りのハードカバー写真集である。
ページを繰ると、川内の作品世界がデビュー以来ほとんど変わっていないことにあらためて驚く。6×6判の魔術的といえそうなフレーミングはもちろんだが、日常の細部に目を向け、その微かな揺らぎや歪み、「気」の変化などを鋭敏に察知してシャッターを切っていく姿勢そのものがまったく同じなのだ。とはいえ、作品一点一点の深みとスケールにおいては、明らかに違いが見えてきている。また、どちらかといえばそれぞれの写真が衝突し、軋み声をあげているように見える『うたたね』と比較すると、『ILLUMINANCE』ではよりなめらかに接続しつつ一体感を保っている。光=ILLUMINANCEという主題が明確に設定され、そこに個々のイメージが集約していくような構造がくっきりと見えてきているのだ。写真集の編集・構成という点においても、彼女の成長の証しがしっかり刻みつけられているのではないだろうか。
なお、写真集の刊行にあわせてフォイル・ギャラリーで開催された「ILLUMINANCE」展(6月24日~7月23日)には、映像作品も出品されていた。数秒~数十秒の単位で日常の場面を切り取った画像をつないでいくシンプルな構成の作品だが、逆に写真を撮影するときの川内の視線のあり方が生々しく伝わってきて面白かった。
2011/07/17(日)(飯沢耕太郎)
カタログ&ブックス│2011年7月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
ル・コルビュジエは生きている 保存、再生そして世界遺産へ
ル・コルビュジエの建築を活かすためフランスでは何がおこなわれているか。建築を歴史の生きた証人として尊重し、長い時間をかけて合意を形成していくフランスの「建築文化」の姿を、ドキュメント風に描く画期的な書下ろし。[エクスナレッジサイトより]
NPOゲートシティ多賀城をとおした歴史都市・多賀城のまちづくり
史跡を活かしたまちづくりを推進するため、平成18年から活動している市民活動団体NPOゲートシティ多賀城による一冊。「歴史のみち探索ツアー」やシンポジウムの記録など、これまでの活動を紹介する一方で、五十嵐太郎や石川幹子らによるコラムを多数掲載。
photographers' gallery press no. 10
photographers' galleryによる年1回発行の機関誌。近年めざましい活躍で注目を集めているフランスの哲学者・美術史家ジョルジュ・ディディ=ユベルマンへのロングインタヴューや橋本一経による論考などを収録。
THE ULTRA 03
年に一回発行の、ウルトラファクトリーのフリーペーパー。ウルトラファクトリーの多様な活動を、さまざまな角度で伝えるべく、毎号実験的な試みが仕掛けられている。取材・編集をウルトラファクトリープレスが、またグラフィックデザインをクリティカルデザインラボが担当。学生たちの実践の場としても機能している。
以下のサイトからPDFがダウンロードが可能
・ULTRA FACTORY
http://ultrafactory.jp/magazine/
ULTRA AWARD 2010
2010年より始まった、京都造形芸術大学生・卒業生を対象としたアートコンペティションのカタログ。大賞者の作品とインタビューを主軸に、展覧会の模様を収録。審査員からのコメント、対談なども掲載。
以下のサイトからPDFがダウンロードが可能
・ULTRA FACTORY
http://ultrafactory.jp/magazine/ultra_award_catalog.html
2011/07/15(金)(artscape編集部)
竹原あき子『縞のミステリー』
工業デザイナー・竹原あき子氏の近著『縞のミステリー』は、時空を自由に行き来しながら縦横無尽に、「縞」の本性と歴史について語り尽くす。いまや日常で見慣れた「ストライプ」は、かつてエキゾティックなものだった。桃山時代に、南蛮貿易でインドや東南アジアから輸入された木綿の縞織物は「サントメ」と呼ばれて日本人に好まれ、やがては「唐桟(とうざん)」として日本各地で生産されるようになった。冒頭の舞台はそのインド南東部のマドラスだ。それから、産業・デザイン・歴史をとおして縞文様をめぐる旅が始まる。ヨーロッパとアジア、さらにはアフリカ・イスラムと「日本の縞」はどのように異なり、この国の歴代で愛し育てられ変貌を遂げてきたのか。「一瞬にして際立つ縞、コントラストのある縞の魔的な力は、見えないものを見えるものにし、この人物は普通でないと社会に差し出す。パストゥローの『悪魔の布』は、そんな縞の悪魔的な性格を強調してやまなかった。だがヨーロッパの外では縞に反社会的な意味はなかった」と著者は語りつつ、「日本の縞は、スキャンダルでもなければ、悪魔の布でもない。だが九鬼周造が語るように縞は、日本人にとって粋の極致だったのだろうか」と問いを投げ掛ける。縞文様とはロマンだ。文様は──それが幾何学的な文様であれ──物語を、私たちの住む世界がいかにして築かれてきたかについて密やかに語る。本書を読めば、著者の眼を通じて、日常にいながらにして世界中を訪れた気分になれる。[竹内有子]
2011/07/02(土)(SYNK)
布野修司『建築少年たちの夢』
『建築少年たちの夢』は、筆者も寄稿する『建築ジャーナル』が初出なので(連載時のタイトルは異なる)、ときどき読んでいたが、350ページ超の分厚い本として刊行された。布野さんの同世代からその上の建築家の評伝であると同時に、著者の個人史を重ねあわせながら、ポストメタボリズムの70年代を鮮やかに、そしてリアルに描く。活字化されていない証言やエピソードが断然おもしろい。僕の名前はA-cup絡みで登場していた。
2011/06/27(月)(五十嵐太郎)