artscapeレビュー

書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー

カタログ&ブックス│2011年1月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

アルブレヒト・デューラー版画・素描展 宗教/肖像/自然

発行日:2010年
発行:国立西洋美術館・西洋美術振興財団
価格:2,300円(税込)
サイズ:257×183mm


2010年10月26日〜2011年1月16日まで国立西洋美術館にて開催された「アルブレヒト・デューラー版画・素描展 宗教/肖像/自然」展本カタログ。図版160点、モノクロ170点を収録。


Behaviorology

著者:アトリエ・ワン
発行日:2010年5月4日
発売元:Rizzoli
価格:$65.00(US Price)
サイズ:304×219mm


塚本由晴と貝島桃代による建築家ユニット「アトリエ・ワン」の作品集。住宅に加えて、国内外でのモバイルプロジェクト、インスタレーション、リサーチ、フィールドワークなど多彩な活動も紹介。


FILM SOCIALISME

発行日:2010年12月18日
発売元:東宝(株)出版・商品事業室
価格:700円(税込)
サイズ:257×182mm


2009年製作、2010年公開、ジャン=リュック・ゴダール監督によるフランス・スイス合作の長篇劇映画「ゴダール・ソシアリスム」の内容をまとめたカタログ。


にっぽんの客船 タイムトリップ

著者:野間恒、志澤政勝、笠原一人、丸山雅子
発行日:2010年12月20日
発売元:INAX出版
価格:1,575円(税込)
サイズ:208×202mm


INAXギャラリーの巡回展「にっぽんの客船 タイムトリップ」展カタログ。日本のデザインの完成形をみることができる客船として、大阪商船(現・商船三井)の「あるぜんちな丸」と、東京湾汽船(現・東海汽船)の「橘丸」を中心に、当時、限られた人々のみが搭乗を許された優雅な空間や趣向を凝らしたおもてなしなどを紹介。


デザイナーズ集合住宅の過去・現在・未来 展

発行日:2010年3月10日
発売元:ミサワホーム株式会社営業事業本部Aプロジェクト室
サイズ:257×182mm


「デザイナーズ集合住宅」はなぜ、ガラス張りのトイレやお風呂ばかりなのでしょうか? そこには、どんな人が住んでいるのでしょうか? 本カタログは、2010年3月10日〜3月20日まで新宿NSビルにて開催されていた「デザイナーズ集合住宅の過去・現在・未来 展」にあわせて編集された一冊。

2011/01/17(artscape編集部)

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石上純也『石上純也──建築のあたらしい大きさ』

発行所:青幻舎

発行日:2010年12月27日

豊田市美術館で開催された石上純也の個展のカタログである。巻頭のテキストにおいて、建築をシェルターとしてではなく、われわれを取り巻く環境そのものとしてとらえることを唱えるように、彼は雲や雨など、自然現象のメタファーを使う。ポストモダンの時代であれば、記号的な形態として扱ったと思われるが、石上はベタに考える。筆者も同書に長文の論考を寄稿したが、完成した実物が届けられて初めて、本の全体がわかった。ル・コルビュジエは新しいモダニズムのイメージを伝えるために、『建築をめざして』に機械や自動車の写真を混入させたが、石上は自身の作品と、大気の層、積乱雲の発達の様子、シュレーディンガーの電子雲、超伝導の磁場内の環など、さまざまな自然・物理現象のイメージを等価に並べていく。彼らしいブック・デザインである。2011年に刊行予定のテムズ・アンド・ハドソンの本にも通じるテイストだろう。

2010/12/31(金)(五十嵐太郎)

石川直樹『CORONA』

発行所:青土社

発行日:2010年12月20日

このところ、毎年年末になると石川直樹から立派なハードカバーの写真集が送られてくる。それとともに、「ああ、また木村伊兵衛写真賞の季節だな」と思うことになる。石川がここ数年、木村伊兵衛写真賞の最終候補に残っては落ち続けているのは周知の事実だろう。これまでの経歴、業績とも申し分なく、今後の写真界を担っていく期待の人材であることは誰しもが認めつつ、どういうわけか受賞を逃し続けている。もちろん、こういうことは文芸や美術の世界でもありがちなことで、ある賞に縁が遠いというか、選ばれないでいるうちにますます選びにくくなってしまうというのは珍しいことではない。そうなると本人も意地になってしまうわけで、石川の場合も「今年こそは」という思いが写真集作りのモチベーションを高めているのは間違いないだろう。それにしても、毎年ボルテージを落とさずに、力のこもった写真集を出し続けるエネルギーには脱帽するしかない。
というわけで、今年の『CORONA』はどうかといえば、残念ながら、僕が見る限りは絶対的な決め手は感じることができなかった。「ハワイ、ニュージーランド、イースター島を繋いだ三角圏」、その「ポリネシア・トライアングル」を10年にわたって旅して撮影してきた労作であることは認める。昨年の日本列島の成り立ちを探り直す『ARCHIPELAGO』(集英社)の延長上の仕事として、過不足のない出来栄えといえるだろう。だが、これはいつも感じることだが、写真の配置、構成、レイアウトにもう一つ説得力がない。スケールの大きな神話的なイメージと、旅の途中での日常的なスナップをシャッフルして繋いでいく手法は、これまでの写真集でも試みられたものだが、どうも雑駁でとりとめないように見えてしまうのだ。「これを見た」「これを見せたい」という集中力、緊張感を感じさせる写真の間に、それらを欠いた写真が挟み込まれることで、見る者を遠くへ、別な場所へ連れ去っていく力が決定的に弱まってしまう。
石川は一度立ち止まって、自分の写真、自分が見てきたもの、伝えたい事柄についてじっくりと熟考する時期に来ているのではないだろうか。もっと落ちついて、カメラをしっかりと構え、丁寧に撮影し、無駄な写真はカットし、イメージを精選してほしい。各写真にきちんとつけるべきキャプションが割愛されているのも、おざなりな印象を与えてしまう。既にキャリアのある写真家にこんなことを書くのは失礼だとは思うが、雑な撮り方、見せ方をしている写真が多すぎるのではないか。石川が今回、木村伊兵衛写真賞を受賞できるかどうかは僕にはわからない。だが、もし取れたとしても、取れなかったとしても、彼の行動力と構想力に対する期待感の大きさに変わりはない。納得できる写真集、写真展をぜひ見たいと思っている。

2010/12/25(土)(飯沢耕太郎)

カタログ&ブックス│2010年12月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

科学と芸術の出会い メディア・アート創世記

著者:坂根厳夫
発行日:2010年10月20日
発行:工作舎
価格:3,360円(税込)
サイズ:210×130mm


著者の坂根厳夫は、1960年代よりジャーナリストとしてメディア・アートを紹介してきた教育界の第一人者。著者とエッシャー、岩井俊雄などの表現者たちとの交流を収録。アナログからデジタルへその波を越えた著者ならではの視点から具体的に境界領域アートの半世紀にわたる歴史をたどる。


キャラクター文化入門

著者:倉沢剛巳
発行日:2010年11月25日
発売元:NTT出版
価格:1,890円(税込)
サイズ:188×128mm


オタク文化が一般に浸透するとともに、地方自治体が顧客層の開拓としてキャラクターを採用するなど、キャラクターへの関心が高まっている。現代のキャラクターの受容は、商品としての流通形態やメディアでの展開、政府のコンテンツ政策にまで多様化している。本書は、個々のキャラクターの歴史的系譜や人気の背景などを分析した文化論の立場から、現在のキャラクターの受容について、文化・ビジネス・メディアを切り口に明らかにする。


肉体のアナーキズム 1960年代・日本美術におけるパフォーマンスの地下水脈

著者:黒ダライ児
発行日:2010年9月16日
発売元:grambooks
価格:4,410円(税込)
サイズ:212×158×60


高度経済成長による都市の肥大化、マスメディアの浸透により社会が激変した1960年代の日本前衛美術におけるパフォーマンスを検証。60年代の安保闘争とその敗北から、アングラ文化などに、美術家たちはどのように反応し、行動し、忘却されてきたのかを、公共空間での反体制的な文化を体現するパフォーマンスを検証し、アナーキズム傾向の文化的・政治的な文脈に位置づけようと試みる。


前衛下着道 鴨居羊子とその時代

著者:川崎市岡本太郎美術館/ジョルダンブックス・編
発行日:2010年4月28日
発売元:ジョルダンブックス
価格:3,200円(税込)
サイズ:210×150×24


鴨居羊子は新聞記者から下着デザイナーとなり、日本で初めてナイロン素材を使った下着を制作した人物。本書は川崎市岡本太郎美術館にて2010年4月17日〜7月4日まで開催されていた「前衛下着道──鴨居羊子とその時代岡本太郎・今東光・司馬遼太郎・具体美術協会 展」にあわせて編集された一冊。下着と身体の概念を変えた、「下着ぶんか論」を収録。


泉太郎 こねる

発行:神奈川県民ホールギャラリー
発行日:2010年11月
価格:2,000円(税込)
サイズ:A5判


2010年11月2日〜27日まで神奈川県民ホールギャラリーにて行なわれた「泉太郎 こねる」展カタログ。国内のみならずアメリカ、スイス、フランス、韓国、タイなど世界中で斬新な作品を発表し、気鋭の映像作家として注目を集める泉太郎。これまでの泉の作品を191ページにわたり収録。

2010/12/15(artscape編集部)

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下園詠子『きずな』

発行所:東京ビジュアルアーツ/名古屋ビジュアルアーツ/ビジュアルアーツ専門学校・大阪/九州ビジュアルアーツ(発売=青幻舎)

発行日:2010年11月30日

下園詠子は1979年鹿児島県生まれ。九州ビジュアルアーツ卒業後、2001年に個展「現の燈」(コニカプラザ)でデビューし、早くから将来を嘱望されていた。だが2010年度の第8回ビジュアルアーツフォトアワードで大賞を受賞し、この写真集『きずな』の刊行にこぎつけるまではかなり時間がかかった。その10年余りの紆余曲折が決して無駄ではなかったことが、写真集を見るとよくわかる。試行錯誤の積み重ねによって、説得力のある表現に達しつつあるのだ。ビジュアルアーツフォトアワードの審査後に、僕が書いた選評を引用しておこう。
「下園詠子のポートレートを見ていると、被写体からまっすぐに放射される『気』のようなものを強く感じる。ヒトはそれぞれそのヒトに特有の『気』の形を持っているのだが、彼女はそれをまっすぐに受けとめて投げ返す。2001年の最初の個展「現の燈」に展示されたものと近作を比較すると、そのエネルギーのやり取りの精度が高まり、激しさだけでなく柔らかみが生じてきている。彼女の成長の証しだろう」
さらに、彼女が常用している6×6判のカメラの真四角の画面から発する魔力が、より増してきていることも付け加えておきたい。「気」を呼び込むための装置もまた、以前にくらべると自在に使いこなすことができるようになったということだ。

2010/12/08(水)(飯沢耕太郎)