artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
大友真志『GRACE ISLANDS──南大東島、北大東島』
発行所:KULA
発行日:2011年8月23日
大友真志は2004年からphotographers’ galleryに参加し、2010年には1年間(全13回)にわたって故郷の北海道北広島市の実家の周辺と家族を撮影した「Mourai」のシリーズを発表するなど、その表現力を深めてきた。その彼の最初の写真集として、photographers’ galleryが新たに立ち上げた出版部門KULAから刊行されたのが、『GRACE ISLANDS』である。
大友が撮影したのは「琉球弧からはじき出されたように太平洋に浮かぶ」南大東島と北大東島である。たまたま2007年に彼自身が実行委員として参加した「写真0年 沖縄」展(那覇市民ギャラリー)で大東島のことを知り、その後10日間ほど滞在した。持っていった300本のフィルムをすべて使い切ったという。彼のなかに、自分の故郷とは対極の場所(北と南)という意識はあったに違いないが、結果としてみれば大東島の写真は、「Mourai」と受ける印象としてはそれほど違いのないものになった。物寂しい、草むらが大きな部分を占める風景への向き合い方、倉石信乃の解説の文章を借りれば「主題や被写体と呼びうるものからの遠ざかりと、風景を『そこ』に停留させておくことへの意志」が共通しているのだ。とはいえ、たしかに「主題や被写体と呼びうるもの」の影は薄いが、この写真集からは拒絶や疎外などネガティブな感情は見えてこない。むしろこのような風景のあり方を、できうる限り節度を保ちつつ、受容していこうとする強い意志を感じる。『GRACE ISLANDS』というタイトルは、やや意外な感じがするかもしれないが、写真集のページをめくっていくうちに大友がこのタイトルを選んだ思いが伝わってくる気がした。
なお写真集の刊行にあわせて、2011年8月23日~9月30日にphotographers’ galleryで同名の展覧会が開催された。
2011/10/01(土)(飯沢耕太郎)
カタログ&ブックス│2011年9月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
現代建築家コンセプト・シリーズ 10 西沢大良 木造作品集2004-2010
西沢大良の7つの近作から、建築の読み方/設計コンセプトを明らかにする。
本書に掲載する7つの作品は木造の建物である。
「日本には木造建築の長い伝統が、良くも悪くもある。「良くも悪くも」とは、日本には木造にたいする一定の常識(つまり固定観念)が出来上がっているために、かえって木造の可能性を自由に発想することが少ないからである。けれども海外の観客は、何のためらいもなく木造の建物をひとつの現代建築として理解しようとするし、こちらの固定観念をくつがえすような新鮮な意見をぶつけてくる。筆者はそうしたやりとりから多くのことを教えられてきた。」と西沢は述べる。木造の可能性に気づくようになったのも、海外講演の最中のことだったという。
日本の木造にはどんな特徴があり、どんな可能性があるのか。「木造による現代建築」の可能性を西沢大良の仕事から探っていく一冊。[INAX出版サイトより]
Supergraphics 空間の変容:壁面、建築、空間のためのグラフィックデザイン
3次元(建築)と2次元(グラフィック)を繋ぐスーパーグラフィックの誕生した1960年代から現在までの系譜。写真とともに各時代に活躍したアーティストのインタビューも集録。バーバラ・スタウファカー・ソロモン、バリー・ブリスコー、ジャン=フィリップ・ランクロほか。
建築の還元 更地から考えるために
現代において建築は、還元/構成という試行をその時々において徹底することでしか成立し得ないー思想と建築とを切り結ぶ可能性の地平を切り拓き、復興期新精神の土台を提供する俊英による本格建築論集。[本書帯より]
日常のインスタレーション 第1回「養生の力」
本連載企画は、日常の中で感じた違和感、すなわちインスタレーション「ぽい」について、その原因を探ることを通して違和感についての謎をひも解くものである。芸術など、ある特化した分野からみるのではなく、誰もが目にした事のある日常の中の違和感のある風景を対象とすることで特定の視野からでなく親しみを持ってほしい。 CUT02では連載の第1回として「養生の力」を取り上げる。[maremagazineより]
奇跡(DVD&Blu-ray)
是枝裕和監督オリジナル最新作が、早くもDVD&BDになってリリース。「九州新幹線全線開業の朝、博多から南下する“つばめ”と、鹿児島から北上する“さくら”、二つの新幹線の一番列車がすれ違う瞬間に奇跡が起きて、願いが叶う──。そんな噂を耳にした小学6年生の航一(前田航基)は、離れて暮らす4年生の弟の龍之介(前田旺志郎)と共に奇跡を起こし、家族4人の絆を取り戻したいと願う。...兄弟は、友達や両親、周りの大人たちを巻き込んだ壮大で無謀な計画を立て始める。そしてその計画は、人々に思いもよらない奇跡を起こしていくのだった──」[広報資料より]
2011/09/15(木)(artscape編集部)
森岡督行/平野太呂(写真)『写真集』
発行所:平凡社(コロナ・ブックス)
発行日:2011年9月7日
「写真集の写真集」。このアイディアは以前から形にしたいと思っていたのだが、残念ながら先を越されてしまった。しかも、かなり理想に近い形で。
本書に収録された写真集は、すべて東京・茅場町の森岡書店で扱っているものである。森岡書店は、著者の森岡督行が1926(昭和2)年建造という古いビルの一室に、2006年に開業した古書店である。白壁と焦茶色の床の室内には、趣味のいい書棚と机が並べられ、そこにゆったりと、これまた趣味よく写真集を中心にした本が並べられている。壁の一部はギャラリーとしても使われていて、僕も個展を開催させていただいたことがあった(飯沢耕太郎コラージュ展「ストーンタウン・グラフィティ」2010年12月13日~18日)。個人的にも、とても好きな空間なのだが、ヨーロッパや日本の戦前の写真集など、古書店としての品揃えもしっかりしていて、定期的に足を運ぶお客も多い。本書はその森岡書店の粒ぞろいの写真集を、店主自ら解説して紹介するというなかなか贅沢な企画である。大竹昭子、平松洋子、ピーコ、しまおまほ、藤本壮介など、縁のある人々に森岡が写真集を手紙つきで送るという想定で書かれた文章も、しっかりと丁寧に綴られている。
だが、本書の最大の魅力は、何といっても平野太呂によって撮影された書影の素晴らしさだろう。むろん単なる複写ではない。この本はここに、こんなふうに置かれるべきだという思いがそれぞれ見事に実現されていて、ページをめくるたびに新しい世界が開けてくる。センスのよさだけではなく、写真集そのものに対する理解度の深さが伝わってくるのだ。実物で確認してほしいので、ここではあまり具体的なことは書きたくないが、ひとつだけ。エドワード・スタイケン編の『The Family of Man』が、白いハンガーにぶら下がっている写真を見て、思わず笑ってしまった。
2011/09/14(水)(飯沢耕太郎)
カタログ&ブックス│2011年8月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
パウル・クレー│おわらないアトリエ(日本語版)
京都国立近代美術館(2011年3月12日〜5月15日)及び東京国立近代美術館(5月31日〜7月31日)を巡回した同名の展覧会カタログ。展示作品に加え、クレー研究の最新成果をふまえた論文も多数収録。
新たなる船出 A see-worthy vessel(今治市伊東豊雄建築ミュージアム開館記念展公式カタログ)
オープニングを飾る展覧会の展示、コンセプトなどを収めた公式カタログ。展覧会に併せて公募した「みんなの家」のドローイングの一部(伊東豊雄、山本理顕、内藤廣、隈研吾、妹島和世)、本展覧会のために撮りおろした畠山直哉の写真、伊東豊雄インタビュー、太田浩史・山名善之らによる建築ミュージアムの楽しみ方、利用のし方など、見どころ読みどころ満載。[今治市伊東豊雄建築ミュージアムウェブサイトより]
せんだいスクール・オブ・デザイン 2010年度年次報告書
東北大学都市・建築学専攻が仙台市と連携し、2010年秋から行なっている新たな教育プログラム「せんだいスクール・オブ・デザイン(SSD)」の第一期成果報告書。BankART1929代表の池田修らを招いたレクチャーシリーズや、各教員によって開講されたスタジオの活動内容などを、豊富な図版とともに紹介している。
彼らが写真を手にした切実さを──《日本写真》の50年
戦後写真のヒーロー森山大道・中平卓馬から90年代以降新潮流を作った佐内正史・ホンマタカシまで、10人の写真人生の切実さに斬り込む。写真の核心に触れる渾身の一冊。[平凡社ウェブサイトより]
レオナール・フジタ──私のパリ、私のアトリエ
ポーラ美術館にて開催中の展覧会「レオナール・フジタ〜私のパリ、私のアトリエ〜」(2011年3月19〜2012年1月15日)図録。1920年代の絵画をはじめ、挿絵本や版画、職人に扮した子どもをユーモラスに描いた晩年のタイル画の連作など、初公開作品11点を含む約80点を収録。パリへの想いや職人気質が伝わる挿絵本や木工などの手仕事も紹介。
2011/08/15(月)(artscape編集部)
田附勝『東北』
発行所:リトルモア
発行日:2011年7月30日
東日本大震災を契機に多くの作品の意味が変わってしまった。田附勝の新しい写真集『東北』もそのひとつだろう。2006年から東北6県の「山の民と海の民」の暮らしぶり、祭りや年中行事、風景やオブジェを6×6判のカメラで丹念に蒐集・記録した写真集である。闇の奥からぐっと前に迫り出してくるような写真群は、魂を直に揺さぶるような迫力がある。こってりと、ディープな色味を強調したカラー写真も、前作『DECOTORA』(リトルモア、2007年)以来の田附のトレードマークとして定着してきた。
だが、「3・11」によって、彼のなかにこのまま写真集を出していいのかという疑いが芽生えたようだ。岩手県釜石市で撮影された「April 1, 2011」の日付がある2枚の写真が、巻末に付け加えられている。だが重要なことは、この写真集に写しとられている風土と人物のたたずまいそのものが、東北の地霊を呼び出すような力を秘めていることだろう。以前、岡本太郎が1950~60年代に撮影した日本各地の祭礼の写真を見ていて、東北と沖縄の写真だけが突出したエネルギーの波動を感じさせるのに驚いたことがある。田附の『東北』からも、この土地に縄文以来のシャーマニズムの伝統がしっかりと根づいていることが伝わってきた。
おそらく震災以後、東北は大きく変貌せざるをえないだろう。何が変わり、何が続いていくのか、できれば田附にはこれ以後も長く撮影を続けていってほしい。
2011/08/12(金)(飯沢耕太郎)