artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
山内宏泰『写真のプロフェッショナル』
発行所:パイ インターナショナル
発行日:2011年4月5日
これは大変な労作である。著者の山内宏泰は『彼女たち Female Photographers Now』(ぺりかん社、2008)など、インタビューの構成には定評のある書き手だが、日本の写真関係者70人にインタビューしてまとめた本書は、まさに力業としかいいようがない。その顔ぶれがすごい。東松照明、篠山紀信、森山大道、蜷川実花といった大物から、よくこんな写真家までフォローしているなと思うような若手まで、しっかり目配りされている。今年の木村伊兵衛写真賞受賞作家の下薗詠子と土門拳賞受賞作家の石川直樹がちゃんと入っているあたりも、さすがとしかいいようがない。それに加えて、ツァイト・フォト・サロンのオーナーの石原悦郎や東京都写真美術館館長の福原義春など、「写真に携わる人々」にも話を聞いている。2011年現在における日本の写真界の見取り図を知るために、必携のガイドマップになるのではないだろうか。
帯に大書されているように、たしかに日本は「写真大国」である。では、なぜ日本人が写真好きなのかということについて、山内が後書きで興味深い意見を述べている。彼によれば「日本文化を読み解くうえでよく持ち出される『はかなさ』や『もののあわれ』が、写真にはもともと含まれている」こと「俳句や短歌、茶事に生け花と、日本人の心をとらえてきた慣習と相通ずる」のではないかというのだ。これはまったく同感。日本人の文化や心性をあらためて写真家の仕事を通じてとらえ直していく視点が、これから先にはとても重要になっていくのではないかと思う。
2011/05/28(土)(飯沢耕太郎)
『民芸運動と建築』
「それまで見過ごされてきた日常の生活用具類などに美的価値を認めようと、柳宗悦、河井寛次郎、濱田庄司らによって大正末年・昭和初年に始められた運動。短く辞書風に書くならば「民芸運動」はこのように紹介されるだろう」とはじまる本書は、こうした民芸運動と建築との関係を、広い視野で展望したもの。「濱田庄司邸」「日本民藝館」「河井寛次郎記念館」「倉敷民藝館」など、民芸運動に関わりのある建物や調度品が豊富な写真とともに紹介されている。また、1998年に発見され話題となった、「三国荘」や「高林兵衛邸」など、書籍として初公開の建築も多い。民芸運動や建築の専門家5人による最新の研究成果や情報も充実している。「民芸の建築」を楽しめる写真集として、あるいはこれまで部分的にしか語られなかった「民芸運動と建築との関わり」を知る研究書として、意味のある一冊だ。
[金相美]
2011/05/20(金)(SYNK)
『倉俣史朗 着想のかたち──4人のクリエイターが語る。』
本書は1960年代から1990年代初頭にかけて日本の商業インテリアデザインとプロダクトデザインを牽引したデザイナー、倉俣史朗(1934-1991)について、4人のクリエイターにインタビューを行ない、それを収録したものである。掲載順に小説家の平野啓一郎氏、建築家の伊東豊雄氏、クリエイティブディレクターの小池一子氏、プロダクトデザイナーの深澤直人氏へのインタビューが収められているが、もし、小池氏、伊東氏、深澤氏、平野氏の順に読めば、倉俣のデザインについての入門書として本書は読めるかもしれない。小池氏は倉俣の活動していた時代のアート・デザイン・ファッションの交錯の状況、伊東氏は建築とインテリアの関係性と差異からみた倉俣デザイン、そして深澤氏はデザインとしての倉俣デザインの特異性、という視点からおのおの語っているからだ。異色なのは造形ではなく言葉を生業とする平野氏へのインタビューで、小説の創作プロセスとデザインのそれとの関わりがおもに語られている。インタビュ─以外に倉俣自身の言葉も本書は収めている。
倉俣のデザインは生前から注目されたため、これまで多数の批評や本人による言説が発表されているが、その大部分は雑誌掲載記事である。したがって、倉俣の同時代人である小池氏と伊東氏の章が過去の言説の繰り返しの感は否めず(実際、両人とも過去に倉俣に関する文をさんざん執筆しているのだから仕方がない)、深澤氏による倉俣の解釈もやや新鮮味を欠くとはいえ、それらがバラバラな記事ではなく単行書としてまとめられたことは意義深い。しかし、どのインタビューにも言えるのは、示唆的な言葉が登場し、その意味を知りたいと思っても、別の話題にすぐ移ってしまうことだ。これは、インタビュー形式ゆえの難点だろう。平野氏の章では、デザイン一般に対する彼の考えが語られているのは興味深かったが、結局それと倉俣デザインに対する彼の思いがどう繋がっていくのかがわからなかった。インタビューではなくエッセイの形式をとれば、こうした未消化な部分は避けられたように思う。
日本では1960年代以降のデザインの流れがいまだ検証されていないという現況があり、それが本書(に限らないが)がもたらす未消化な読後感の遠因には違いない。最後の川床優氏によるエピローグは、それを補うべくデザインの歩みの中に倉俣を位置づけようとする意図がうかがえた。例えば美術史、建築史のようにデザイン史が普及している状況があれば、深澤氏などは、倉俣についての基本的な理解から話し始めることをせず、もっと彼自身の独創的な解釈を授けられたのではないか。本書が示唆するコンセプチュアルな側面からのデザイン研究の成熟が望まれる。[橋本啓子]
2011/05/20(金)(SYNK)
カタログ&ブックス│2011年5月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
青森公立大学 国際芸術センター青森(ACAC) アーティスト・イン・レジデンス2010 反応連鎖 PLATFORM 1「24 OUR TELEVISION」
青森公立大学 国際芸術センター青森(ACAC)の展開するAIR事業の一環として、アーティスト・ユニット Nadegata Instant Partyを招聘し進められたプロジェクト「反応連鎖 PLATFORM 1」の活動記録集。「24 OUR TELEVISION」と題し、USTREAMによる24時間だけの生放送テレビ局が開局された。プロジェクトの制作過程、24時間生放送の様子、また放送終了後に開催された展覧会の記録が収録されている。
AC2 12号(通算13号)
青森公立大学 国際芸術センター青森(ACAC)の定期刊行誌『AC2』の12号。ACACにおける2010年の活動記録のほか、センター開館10周年記念の特集記事が収録されている。
青森公立大学 国際芸術センター青森 アーティスト・イン・レジデンス・プログラム 2010/秋 「吃驚」カタログ
青森公立大学国際芸術センター青森において2010年秋に行なわれたAIR事業「吃驚 BIKKURI」の活動記録集。本事業の招聘アーティストはアンジー・アトマジャヤ、ソン・サンヒ、狩野哲郎、津田道子、山本聖子の計5名。アーティストの滞在中に開催された展覧会の様子が会場の写真と学芸員の解説によって報告されている。
ダブルネガティヴス アーキテクチャー ──塵の眼、塵の建築
ダブルネガティヴス アーキテクチャー(dNA)は、建築家・市川創太を中心に、構造家、デザイナー、メディア・アーティスト、音楽家などから構成され、1998年から活動をつづけています。 彼らの関心はまず、現在、建築を可能にしているさまざまな単位、記号、平面図や立面図・断面図、パースなどのノーテーションそのものに向けられ、「建築家の言語の限界は、建築の限界か?」と問うことからはじまります。昆虫のような複眼がなめらかに連続した「Super Eye」を携え、塵に変態して、目を、耳を、感覚を、認識を変化させてみると、空間や建築はどのような形をとり、どのような可能性を獲得するのでしょうか。リンデンマイヤーシステム、人工生命、セル・オートマトン、スモール・ワールド・ネットワーク、アルゴリズム、データマイニングなどの知見を蓄えつつ実践へと結実していく、複雑かつ実験的なプロセスを約200点の図や写真とともに徹底的に紹介し、もうひとつの空間・建築像を展開する、実験的な一冊です。[INAX出版サイトより]
山本糾展──落下する水 カタログ
青森公立大学国際芸術センター青森において2010年4月24日〜6月13日の会期で開催された「山本糾展─落下する水」のカタログである。近藤由紀(国際芸術センター青森学芸員)による解説文、作品の図版、出品作品リストなどが収録されている。
映画空間 400選
スクリーンに映る建築や都市、場所、風景、そしてそこでの人物の躍動、生きた空間……。映画の空間は19世紀末の映画誕生から、私たちを刺激し、憧れを抱かせ、ある時は考え込ませ、ある時は勇気づけ、楽しませてきました。 本書はこの空間という切り口で、映画史115年を横断しながら作品の紹介・解説をする「映画と空間の基本書」です。1895年から2010年までの400本の映画作品紹介と、空間に関するキーワードをめぐってのコラム、充実の年表と資料編も掲載。執筆陣は、建築家、映画監督、小説家など、映画の作り手や専門家、また各分野の無類の映画好きたち。映画の空間を考えることで、映画の見方や建築・都市・場所・風景の読み方が豊かに広がっていくことを目指した一冊です。[INAX出版サイトより]
述 4号 特集=文学10年代
近畿大学国際人文科学研究所紀要の第4号。特集「文学10年代」には、人文研を中心とした近大の教員・卒業生などにより執筆された論考が掲載されている。また、人文研の初代所長であり、2010年に『世界史の構造』を刊行した柄谷行人のインタビューも収録。
稲門建築会機関誌「WA」2011特別号 早稲田建築
2010年に創設100周年を迎えた早稲田大学創造理工学部建築学科の記念事業の一環として、稲門建築会の沿革がまとめられた冊子である。稲門建築会の元教員・学外会員による建築作品や様々な活動が各時代ごとに紹介されている。
2011/05/16(artscape編集部)
柏木博『探偵小説の室内』
デザイン評論家・柏木博による、「人々の存在あるいは内面と結びつくものとして、〈室内〉を主題とした」意欲作。本書は、ヴァルター・ベンヤミンの『パサージュ論』に記された、「推理小説が室内の観相学となっている」という指摘から着想されている。また柏木は、「19世紀が〈室内の時代〉であって、ブルジョワジーたちが室内に幻想を抱き続けるようになった」というベンヤミンの記述を挙げ、近代的な個人主義の成立と「室内へのこだわり」との結びつきを強調する。確かにインテリアは持ち主の人となり、内面や精神までをも表わす。だから、部屋(=事件現場・手掛かり)から犯人像を読み解く推理小説においては、室内表象のされかたがどうなっているかについての考察は興味深いし、著者の着眼点はとてもユニークだ。ただ『探偵小説の室内』というタイトルから期待されるほど、純粋な推理小説作家が多く扱われていないのが少し残念だ。ポール・オースターやベルンハルト・シュリンク等々の作品を考察した章は、それはそれでもちろん面白いのだが。例えば現代ミステリ・ファンにあってみれば、女性探偵を主人公とした作品や女性作家の眼がもう少し取り上げられていたら、より楽しみが増えただろう。[竹内有子]
2011/05/15(日)(SYNK)