artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
齋藤陽道『感動』
発行所:赤々舎
発行日:2011年11月1日
齋藤陽道の作品にはじめて出会ったのは2009年の写真新世紀の審査のときで、その「タイヤ」は僕が佳作に選んだ。走行中のトラックの巨大なタイヤを至近距離で撮影した素晴らしい迫力の作品で、どんな作者なのかと思っていたら、授賞式に現われた彼を見て驚いた。聾唖の写真家だったのだ。齋藤は次の年には「同類」で優秀賞(佐内正史選)に選ばれ、赤々舎からこの写真集『感動』を出すことになった。順調にキャリアを伸ばしているといえるだろう。
聾唖というハンディキャップについていえば、写真撮影においてはそれほど大きな傷害にはならないのかもしれない。むしろ、音のない世界で被写体に対する集中力を高めることができるからだ。福岡に井上孝治(1919~93)という写真家がいて、彼もやはり耳が不自由だった。だが、特に子どものスナップに天才的な能力を発揮し、『想い出の街』(河出書房新社、1989)、『こどものいた街』(同、2001)という心に残る写真集を刊行している。井上もそうなのだが、齋藤の写真を見ていると被写体になる人物や風景をつかみ取るときの強さと思いきりのよさを感じる。ためらいなく、すっとカメラを向け、ぐっと近くに引き寄せてシャッターを切る。その身体感覚の鋭敏さは、もしかすると聴覚障害者に特有のものなのかもしれないと思う。
この勢いと鮮度を保ちつつ、あの「タイヤ」のように、わけのわからない衝動に突き動かされた写真ももっと見てみたい。日本以外の国にもどんどん出かけてほしい。彼に対する期待がどんどん大きくふくらんできている。
2011/11/08(火)(飯沢耕太郎)
カタログ&ブックス│2011年10月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
H3331 TRANS ARTS vol.1
9月より隔月で発行する小誌では、表現が生まれる場には何があるのか? 表現はどこから生まれてくるのか? 3331にしか伝えられない情報を世界に発信していきます。[3331 Arts Chiyodaサイトより]
設計の設計
建築、技術開発、情報工学のイノベーターである若き5人、柄沢祐輔、田中浩也、ドミニク・チェン、藤村龍至、松川昌平の理論と実践に注目し、建築、空間、情報環境のこれからの設計の方法を探っていく。2010年末より半年間、「10+1 web site」で行なった好評連載「10+1 SCHOOL〈建築・都市・情報〉制作の方法」を大きく改稿、構成を更新して書籍化する。[INAX出版サイトより]
種子のデザイン──旅するかたち
身近なものから海外の見たことのないような種子のディテールまで、丁寧に撮りおろした図版で紹介。理にかなったかたちの美しさと、そこから浮き彫りになる、植物たちの繰り広げてきたサバイバル作戦をご覧頂きます。次世代への旅支度、種子の形態に秘められた、植物たちの慎ましくもたくましい知恵に触れることのできる一冊。[INAX出版サイトより]
メタボリズムの未来都市展──戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン
日本から発信され、世界の建築家やデザイナーに多大な影響を与えた建築運動「メタボリズム」。本書はその思想とビジョンを振り返る世界初の展覧会として、森美術館で開催される「メタボリズムの未来都市展──戦後日本・今甦る復興の夢とビジョン」のカタログです。...菊竹清訓、槇文彦、黒川紀章など運動の中核をになった建築家と、彼らに大きな影響を与えた丹下健三や磯崎新ら時代をともにした建築家のプロジェクト79点を豊富な写真や図面等で紹介。...またメタボリズムに関する16の論考、グローバル・メタボリズム・マップ、メタボリズム運動を支えた人びとの相関図と人物紹介、年表、文献紹介、作品リストなど、メタボリズムを理解するための充実した資料集です。[新建築社サイトより]
Hyper den-City ハイパー・デン・シティ──東京メタボリズム2
建築家、建築批評家である八束はじめによる超高密度都市「ハイパー・デン・シティ」の提案。 都市は文化的・政治経済的な影響圏域をさらに拡大させると考える八束が「超高密度都市のタイポロジー」「災害・密度・都市デザイン」「人口」等のテーマから未来都市像を描く。2008年、『10+1 No.50』に掲載し大きな話題をよんだ八束の「Tokyo Metabolism」は高度経済成長を背景に立案された丹下健三の「東京計画 1960」を50年後の東京に復元・解明するというものだった。本書はその第二弾。現在のグローバリズムの中で生じ得る極限状況にフォーカスしながら未来の都市像を考えていく。[INAX出版サイトより]
2011/10/17(月)(artscape編集部)
『ペンギンブックスのデザイン 1935-2005』
1935年に英国で創刊されたペンギンブックスの70年間にわたる表紙デザインを追った、じつに目に楽しく(図版は500点を超える)、読んで面白い(綿密な調査分析に基づく)本である。なによりもご覧のとおり、「表紙デザイン買い」をしてしまいそうな装丁。「ペンギン」のブランド・カラーであるオレンジが、本論頁の紙にも効果的に使われている。それもそのはず、著者はロンドンのセントラル・セントマーティンズ美術大学で教える傍ら、フリーランスのグラフィック・デザイナーとして活躍している人物。ブック・デザインが象徴的に示すとおり、本書は、ペンギン・ブランドがどのように構築・展開されていったかについて、会社の歴史・デザイナーの手法・各「シリーズ」「ブランド」の特徴と変遷・タイポグラフィ分析・技術的変化など、複数要素を通じて探求している。巻末にはヤン・チヒョルトが考案した「ペンギン組版規則」が掲載されてもいる。同社の歴史が、グラフィック・デザインの発展といかに轍をひとつにしてきたか、深く考えさせられる。[竹内有子]
2011/10/15(土)(SYNK)
五十嵐太郎/久保田敦/鈴木浩二/飛ヶ谷潤一郎/宮岡隆/五十嵐太郎研究室『東北大学建築学科創立60周年記念 卒業設計作品集』
発行所:東北大学工学部建築学科創立60周年記念事業実行委員会広報部
発行日:2011年10月
五十嵐研の編集と松井健太郎のデザインにより、東北大学の卒業設計作品集が完成した。1952年卒から毎年最低1名入れつつ、小田和正、藤森照信、阿部仁史、秋山伸、小野田泰明ほか、約100作品を収録している。毎年の卒計をすべて収録した本を出す大学はあるが、過去にさかのぼって歴史の縦軸で全部をカバーした本はないだろう。もっとも、こうした作業を通じて明らかになったのは、提出する側も受けとる側にも問題があるのだが、紙の同一性を失い、デジタル・データで卒計を制作するようになってからの資料の保存状況がきわめて悪いことだった。
2011/10/08(土)(五十嵐太郎)
2013 GOOD DESIGN AWARD グッドデザイン賞 受賞「S-meme」
せんだいスクール・オブ・デザインのメディア軸で制作している前衛装幀の文化批評誌「S-meme」が、グッドデザイン賞を受賞した。以下が講評文である。「極めて質の高い、かつ独創的な装丁デザインで、Webや電子書籍の時代にあえて紙に徹底的にこだわっている。紙とのインタラクションの新規性という観点からも評価できる」(http://bit.ly/GzDZCn)。紙しかない時代には当たり前だと思われていたことも、ネットメディアの時代になったからこそ、逆説的にその特徴がより強く感じられるようになった。「S-meme」は、そうした意識を反映した雑誌である。
2011/10/02(水)(五十嵐太郎)