artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
南洋堂書店企画の建築トランプ第二弾「ARCHIBOX in JAPAN」(選者:倉方俊輔、イラスト:TOKUMA)
発行所:南洋堂
発行日:2011年3月
南洋堂の建築トランプ第二弾。第一弾は、筆者による建築のセレクションと『日経アーキテクチュア』の編集者、宮沢洋のイラストで作成したが、完売につき、第二弾の近代建築トランプ「アーキボックス・イン・ジャパン」が新しく大阪市立大に赴任した建築史の倉方俊輔による選定とTOKUMAの図柄で発売された。とりあげる建築は、大浦天主堂から東京スカイツリーの最新物件まで。今回のトランプでは、市役所、美術館、図書館、小学校、ビル、自邸など、13のビルディングタイプを数字に対応させ、4種の絵柄は、スペード=1924年以前/ハート=1925-49年/クラブ=1950-74年/ダイヤ=1975年以後という時代区分のマトリクスを使う。ジョーカーには、建築のユニークなディテールを用いる。全部を知っていれば、建築ツウを自慢できるだろう。ちなみに、こうした建築トランプは、すでに海外で90年代につくられており、モダニズム、ポストモダン、ディコンストラクティヴィズムなどを類型化していた。
2011/04/01(金)(五十嵐太郎)
カタログ&ブックス│2011年3月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
アーキペラゴ 海と島と山を渡る──みるきくあるくフィールドワークショップ
2010年11月25日から11月28日に石川直樹をゲスト・アーティストにむかえ、おこなわれた「アーキペラゴ/海と島と山を渡る──みるきくあるくフィールドワークショップ」をまとめた写真集。民俗学者・宮本常一の軌跡をたどる。
文学のミニマル・イメージ モーリス・ブランショ論
20世紀、文学という芸術の本質について、最も徹底的な思索を重ねたモーリス・ブランショ。その最深部にはいかなる逆説が潜んでいるのか? デリダ、ディディ=ユベルマンらのイメージをめぐる哲学を視野に、詳細にブランショの文学概念をたどり、現代文学研究の到達点を示す。フランス文学研究の新たな才能・郷原佳以の誕生を告げる1冊![左右社サイトより]
セヴェラルネス+ 事物連鎖と都市・建築・人間
時の移ろいを組入れた建築・都市論、増補版。桂離宮、ローマ都市からメタボリズムまで、古今東西の事物と人間との創造的な連鎖の関係を明らかにし、よりよい環境づくりへの根源を示す。「先行形態論」を新たに追加。[鹿島出版会サイトより]
私は生まれなおしている 日記とノート 1947-1963
スーザン・ソンタグ14歳から30歳までの日記。激動する時代に対峙する思索の記録であり、10代での結婚、出産、離婚、同性愛の幸福と不幸に揺れる姿までもが赤裸々に綴られる衝撃の書![河出書房新社サイトより]
愉快な家 西村伊作の建築
2011年3月5日から11月19日までINAXギャラリーを巡回する「愉快な家−西村伊作の建築− Houses for Comfort」展の展覧会カタログ。大正から昭和にかけて自由闊達に、鮮烈に生きた人物、西村伊作(1884-1964)。彼の理想の住まい・暮らしのユートピアを記録した貴重な一冊。[INAX出版サイトより]
ディドロの唯物論 群れと変容の哲学
神もなく、弁証法的統一もない物質世界のうちに、不定形で「怪物的な」自然の秩序を発見したディドロ。百科全書的体系知の根底にうごめく「奇形」への眼差し、同時代の化学や生理学にもとづくラディカルな自然史的認識はいかに形成されたのか。その著作群への鋭利で精密な分析を通じて、唯物論的一元論者としてのディドロのアクチュアリティを示し、従来の哲学者像を大きく書き換える力作。[大学出版部協会サイトより]
ゴダール的方法
その音‐映像を0.1秒オーダーで注視せよ。高解像度の分析によって浮かび上がる未聞のJLG的映画原理。映画史=20世紀史を一身に引き受けようとするゴダールは、映画に何を賭しているのか? そして21世紀のゴダールはどこへ向かうのか? 映画論の「方法」を更新する新鋭の初単著。ゴダールとともに、知覚経験の臨界へ![INSCRIPT correspondenceより]
2011/03/15(artscape編集部)
鬼海弘雄『アナトリア』
発行所:クレヴィス
発行日:2011年1月25日
鬼海弘雄はこれまで3つのシリーズを並行して制作してきた。ひとつは浅草雷門に群れ集う異形の人びとを撮影した「浅草のポートレート」、もうひとつは『東京夢譚』(草思社、2007)に代表される建物や街並みの記録である。これらが東京周辺で6×6判の中判カメラで撮影されているのに対して、35ミリ判のカメラで撮影されたスナップショットのシリーズもある。撮影場所は1980年代~90年代にかけてはインドで、写真集『インディア』(みすず書房、1992)にまとめられた。今回の『アナトリア』はその続編というべきもので、1994年から2009年までの間に6度にわたってトルコを訪れて撮影したものだ。
鬼海が好んで歩きまわったのは、トルコのアジア側、アナトリア半島の街々である。小アジアともいわれるこの地域は、紀元前から古代文明が栄えた土地だったが、いまは近代化から完全に取り残され、素朴な暮らしぶりが残っている。あとがきにも記されているように、鬼海の生まれ故郷である山形県西村山郡醍醐村(現寒河江市)の、戦後すぐくらいの情景を髣髴とさせるところがあるようだ。だが彼がめざしているのは、そのようなノスタルジアを喚起することではない。写真家としての彼の興味は、岩山に囲まれ、真冬には凍てつくような寒さになる荒涼とした大地に根ざすように生きる人びとの、不思議に懐かしい表情や身振りに集中している。鍛え抜かれた、なめらかで正確なスナップショットの技術によって捉えられた人びとは、地方性や時代性を越えた「普遍的な」姿として定着されているように思える。人間という存在の基本型とは何かという長年にわたる探求の、見事な成果がそこにはある。思わず「うん、これだよね」と深くうなずきたくなる写真集だ。
2011/03/06(日)(飯沢耕太郎)
鷹野隆大『カスババ』
発行所:大和プレス(発売:アートイット)
発行日:2011年1月1日
「カスババ」とは「カス婆」ではなく「滓のような場所」の略だという。その複数形なので「カスババ」。この国に暮らしていれば、誰でも日々出会っている「あまりにも当たり前で、どうしようもなく退屈な場所」ということだ。分厚い写真集には、たしかにそのような身もふたもない場所の写真が170枚もおさめられている。なんの変哲もないビル、無秩序に幅を利かせる看板類、どうしようもなく直立する電柱や信号機、自動車やバイクや自転車がわが物顔に路上を行き交い、どこからともなく通行人が湧き出しては、不意にカメラの前に飛び出してくる。撮影場所は作者の鷹野隆大が住んでいる東京が多いが、広島や仙台や沖縄の那覇のような地方都市もある。もっとも、とりたてて地方性が強調されているわけではなく、沖縄と東京の写真が並んでいてもほとんど見分けがつかない。
いったいこんな「カスババ」だけを集めて写真集が成立するのかと思う人もいるだろうが、ページをめくるうちに不思議な興奮を抑えられなくなってくる。
面白いのだ。写真を見ていると、たしかにこのとりとめのなさ、つまらなさこそが、奇妙な輝きを発していることに気がつく。それは撮影者の鷹野も同じように感じているようで、あとがきに「明確な憎しみの対象として、踏みつぶすように撮り続けて来たのだが、長年付き合ううちに、いつのまにか『嫌な嫌なイイ感じ』へと変化してしまった」と書いている。
どうしてそんな魔法じみた「変化」が起きてしまうかといえば、それは鷹野が「カスババ」を撮影する態度にかかっている気がする。「踏みつぶすように」と書いているが、悪意をあらわに乱暴に被写体に向かうのではなく、かといっておざなりにでもなく、いわば「平静な放心状態」を保つことで、街や人がそこにあるがままに呼び込まれているのだ。「滓のような場所」がまさに「滓のような場所」として見えてくることを、1カット1カット、シャッターを切るごとに、歓びを抑え切れず確認しているようでもある。もしかすると、「嫌な嫌なイイ感じ」というのは、日本の都市風景に対するわれわれのベーシックな感情なのではないかという気もしてくる。
2011/03/05(土)(飯沢耕太郎)
カタログ&ブックス│2011年2月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
建築のあたらしい大きさ
2010年9月18日〜12月26日まで豊田市美術館にて開催された同名の展覧会カタログ。金獅子賞受賞後に初めて展開された5つのプロジェクトを紹介。展覧会では、極小から極大へ、その視点をめくるめく変化させながら、未来の建築の可能性を示唆した。各プロジェクトの会場風景や模型写真、科学的な資料を用いて、石上自身がそれぞれのコンセプトについて語る。
建築とは〈からまりしろ〉をつくることである
世界の階層性について、ヒトの生物学的進化について、農耕の始まりについて、自然と人工について、生命と倫理について等々、これまで建築家が視野の外に置いてきた大きなテーマを取り込みながら、平田晃久が構想する新しい建築観。bilingual。[INAX出版サイトより]
建築とは何か──藤森照信の言葉
「X-Knouledge HOME」誌に掲載された、藤森照信氏の言葉を「建築とは何か」をテーマに再編集。さらに藤森ケンチクを代表する傑作「高過庵」の構成から完成までに描かれた全スケッチを特別収録。藤森氏の考える「建築」がこの1冊で分かります。[エクスナレッジサイトより]
建築家・松村正恒ともうひとつのモダニズム
戦後間もない愛媛県八幡浜市役所の一職員として、珠玉の学校建築や病院関連施設を設計した建築家、松村正恒。本書は、著者花田の博士学位論文をもとに構成された、松村とその建築に関する初の本格的論考。600頁を超える大著。
アーキテクチャとクラウド──情報による空間の変容
建築・都市・空間について、それぞれ専門の著者による、対談・インタビュー・リサーチを編集した一冊。
2011/02/15(火)(artscape編集部)