artscapeレビュー

書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー

カタログ&ブックス│2009年6月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

「ヴィデオを待ちながら─映像、60年代から今日へ」カタログ

発行日:2009年3月
編集:三輪健仁、蔵屋美香(東京国立近代美術館)
翻訳:石岡良治、小川紀久子、木下哲夫、山本仁志、三輪健仁
デザイン:森大志郎+松本直樹
発行:東京国立近代美術館
サイズ:A6判/295頁
価格:1,400円(税込)

現代美術における映像作品の萌芽期1960-1970年代に焦点をあてた「ヴィデオを待ちながら─映像、60年代から今日へ」展のカタログ。開場に展示されたアメリカ、ヨーロッパ、日本の映像作品51点、全ての解説に加え、ロザリンド・クラウス「ヴィデオ:ナルシシズムの美学」ほか、文献3本の初邦訳を収録。


戦後民主主義と少女漫画

著者:飯沢耕太郎
発行日:2009年6月1日
発行:PHP研究所
サイズ:新書判/234頁(モノクロ)
価格:740円(税別)

一九七〇年代から現在に至るまで、巨大な潮流をつくってきた少女漫画の歴史を、<純粋少女>をキーワードに読み解く。とくに“二十四年組”を中心に花開いた<少女漫画>の魅力とその高度な達成について──大島弓子の『バナナブレッドのプディング』、萩尾望都の『トーマの心臓』、そして岡崎京子の『ヘルタースケルター』を主な手がかりに──戦後文化論として読み解く。少女漫画のヒロインたちが抱える繊細な“怯え”は、大人の論理が強要する安易な成熟の拒否であり、無意識の抵抗だったのではないか。今日に至るまで連綿と受け継がれてきた“震え”や“怯え”の伝達装置としての<純粋少女>たちに、高度消費社会の諸矛盾を、戦後民主主義の限界を乗りこえる可能性をみる。巻末に「少女漫画の名作一覧」を収録。[PHP研究所サイトより]


ル・コルビュジエー近代建築を広報した男

著者:暮沢剛巳
発行日:2009年6月25日
発行:朝日新聞出版
サイズ:B6判/270頁
価格:1,200円(税別)

20世紀最大の建築家と呼ばれる、ル・コルビュジエ。2009年6月現在、フランス政府は各国と連絡を図り、その建築作品の一括世界遺産登録に向け、全精力を注ぐ。その中には日本で唯一の作品、国立西洋美術館も含まれる。フランス建築界でスターダムに上り詰めたル・コルビュジエは、早くも大正期に日本に紹介され、前川國男、丹下健三ら日本を代表する近代建築家に多大な影響を及ぼした。「ドミノ・システム」「近代建築の5原則」「住宅は住むための機会」を標榜、建築同様、熱心に取り組んだメディア戦略で自らを近代化のシンボルとした巨匠。「近代建築を広報した男」ル・コルビュジエの、建築、アート、デザインの創造の軌跡を追う。[本書より]


建築家の原点─大谷幸夫 建築は誰のために

著者:大谷幸夫+大谷幸夫研究会
企画:建築家会館
発行:企業組合建築ジャーナル
発行日:2009年5月20日
サイズ:A5判/120頁(モノクロ、一部カラー)
価格:1,890円(税込)

「国立京都国際会館」を筆頭に、人間と建築のかかわりを追求し続ける大谷幸夫。魂を揺さぶる建築のありようを語りつくしたインタビューと、珠玉の論考を収録。


思想地図 vol.3 特集=アーキテクチャ

編集:東浩紀+北田暁大
発行:日本放送出版協会
発行日:2009年5月
サイズ:B6判/291頁
価格:1,365円(税込)

東浩紀・北田暁大編集による雑誌「思想地図」第三弾。
浅田彰+東浩紀+磯崎新+宇野常寛+濱野智史+宮台真司による巻頭共同討議「アーキテクチャと思想の場所」のほか、藤村龍至、鈴木謙介、安藤馨による論考を掲載。

2009/06/15(月)(artscape編集部)

村上心『THE GRAND TOUR ライカと巡る世界の建築風景』

発行所:建築ジャーナル

発行日:2009年3月1日

建築を学び始めた人にぜひ手に取ってもらいたい一冊である。写真家であり建築研究者でもある村上心氏にいただいた。平易なテキストで、世界のさまざまな都市への旅の内容とともに描かれるエッセイ。そのなかには建築を学ぶための基本的な用語の解説も含まれている。建築を学ぶのに旅は不可欠であることは多くの建築家が語るところであり、旅に一眼レフのカメラを持っていく人も多いだろう。本書には写真の撮り方に触れられているページもある。建築風景という言葉が新しく感じた。風景として写真に撮られる建築は、街の一部として、建築と都市の熟成した関係を示している。風景と建築をつなげる思考というのも面白そうだと思った。

2009/06/01(月)(松田達)

『10+1 No.48 特集:アルゴリズム的思考と建築』

発行所:INAX出版

発行日:2007年9月30日

建築におけるアルゴリズムという概念の火付け役の一つとなった本。その先見性が素晴らしい。編集協力は柄沢祐輔。単にアルゴリズムを新しい建築用語として持ち出そうとしているわけではない。柄沢は、アルゴリズムを「決定ルールの時系列をともなった連なり」として定義し、広義な文脈に結びつける。巻頭には磯崎新、伊東豊雄らへのロング・インタビューもあり、もっともハードコアな建築家の思考のなかに「アルゴリズム的思考」の痕跡を見つけ、現在の流れへと結びつけていく。過去の建築や、建築以外の分野からも「アルゴリズム的思考」を抽出する。おそらく、早すぎた特集だったともいえる。筆者も本書に関わっていたのだが、最近になって読み直してみて、新しく理解できた部分が多かった。
例えば『計算不可能性を設計する──ITアーキテクトの未来への挑戦』の著者である神成淳司へのインタビューは、コンピュータ・サイエンスの話だと思って当初は読み飛ばしていたのだが、四つの計算不可能性をめぐって情報レベルと建築レベルの話が仮構されており、アルゴリズムというより、情報科学の見地から建築を考える思考にまで至っていて興味深かった。計算不可能性を分類して見いだすことで、それを乗り越える新しい可能性を見つけるという思考を、建築にも適用しようとしているのだ。

2009/05/31(日)(松田達)

村上心『THE GRAND TOUR ライカと巡る世界の建築風景』

発行所:建築ジャーナル

発行日:2009年4月

建築再生の研究者が、海外の調査やワークショップのあいだに、撮りためた写真をもとにして、「建てない勇気」や「これからの建築家職能」など、幾つかのテーマを設定し、エッセイを綴る。これをグランドツアーに見立て、パリに始まり、シドニーやソウル、アムステルダムやハワイを経て、再びパリに戻る。いわゆる建築写真ではない。街の風景をとらえた写真である。これらを見ると、旅の気分を感じながら、さまざまな思考をめぐらすことができる。

2009/05/31(日)(五十嵐太郎)

ホンマタカシ『たのしい写真 よい子のための写真教室』

発行所:平凡社

発行日:2009年5月

建築の本ではないが、郊外の風景や金沢21世紀美術館など、現代建築の撮影でも知られる写真家、ホンマタカシの本である。この春には、『アサヒカメラ』の連載枠で鼎談もさせていただいたが、彼は建築への興味ももつ。サブタイトルに、「よい子のための写真教室」とあるように、わかりやすく本人の言葉で(借り物ではなく)、第1章で写真の歴史をコンパクトにふりかえりつつ、第2章はワークショップを通じて、具体的な作品の分析と批評を行なう。おまけでは、同じ写真家の立場から行なった、アメリカの建築写真家の大御所、ジュリウス・シュルマンとの対話も収録されている。建築の世界でも、こんな「たのしい建築」の本があったら良い。

2009/05/31(日)(五十嵐太郎)