artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
山田幸司『VectorWorksで学ぶ ラクラク建築パース作成マニュアル』
発行所:エクスナレッジ
発行日:2009年7月15日
3DCADの使い手として知られる建築家山田幸司によるVectorWorksのマニュアル本。VectorWorksは二次元及び三次元のデータ作成が可能なCADソフトウェアであるが、一般的には二次元CADとして用いている人が多いかもしれない。しかし本書はVectorWorksの三次元CADとしての側面に焦点を当て、パース作成を主な目的とした本である。実はこの種の本は多くはない。二次元だけだったり、二次元と三次元の両方を扱った教本は多いが、三次元だけに絞った本というのはかなり少ないはずである。実際、二次元から三次元に進む段階で足踏みをしてしまう建築学生や建築関係者は多いであろう。そのため二次元CADとしてのVectorWorksをマスターし、3Dに挑戦したいがハードルの高さを感じている人には、うってつけのマニュアル本と言えるだろう。3Dモデリングの基本にはじまり、建築物のボリュームの作り方、ディテールの仕上げ方、テクスチャーなどリアリティの出し方へと進む。さらに、著者独自の山田流モデリングテクニックやアニメーション作成にも触れている。同種の本に比べ、特に作業時ディスプレイの図版が多く、順を追って3Dをマスターできるので親切である。
さらに他の教本と違う重要な点がある。本書にはかなり直感的な記述が含まれており、マニュアル本であるのに淡々とした印象がない。むしろ読み始めると何故か楽しくなってくる記述に出くわす、ひと味違うマニュアル本である。
2009/07/24(金)(松田達)
カタログ&ブックス│2009年7月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
モリスが先導したアーツ・アンド・クラフツ イギリス・アメリカ
汐留ミュージアム、郡山市立美術館にて開催された「アーツ・アンド・クラフツ イギリス・アメリカ」展カタログ。産業革命にともない出現した 機械文明に、強く意義をとなえ、手工業の価値の見直しを求めた19世紀のアーツ・アンド・クラフツ運動。本書では、アーツ・アンド・クラフツ運 動に焦点をあて、この運動の発祥の地、イギリスと、独自の発展を遂げたアメリカの作品約150点を紹介。
FOLK TOYS NIPPON にっぽんの郷土玩具
日本全国から選りすぐった郷土玩具を紹介。郷土玩具のデザインの「面白さ」、不思議な「いい伝え」を一冊に凝縮。日本人ならではの楽しみが盛 りだくさんな一冊となっている。[ビー ・エヌ・エヌ新社サイトより]
静岡の美術Ⅸ 柳澤紀子展─水邊の庭─
2009年5月26日〜7月5日に静岡県立美術館で開催された「柳澤紀子展─水邊の庭─」のカタログ。インスタレーションやミクストメディア、版画作 品など、一貫して「身体」をテーマとした展示作品101点をカラーで掲載。美術評論家、建畠哲との対談も収録。
震災のためにデザインは何が可能か
日本が世界に先駆けて直面している課題(先駆性)であり、世界中で解決が求められている課題(緊急性)である「震災」について、「震災後の避 難生活」に焦点をあて、新しいアプローチ(デザインの力)による課題解決の方策を提言する。[NTT出版サイトより]
七宝──色と細密の世界
光を受けて輝く様が宝石にも例えられる七宝。この技術は古代より世界各地で使われ、日本でも古くから建築や家具、道具類と、様々なものを彩っ てきた。 本書ではその至高の細密と美の世界を、写真と文章でひもといていく。近代日本に花開いた優美の技をじっくりと味わえる一冊となっている。[INAX出版サイトより]
2009/07/15(水)(artscape編集部)
馬場正尊『「新しい郊外」の家』
発行所:太田出版
発行日:2009年1月14日
著者は、房総半島の海岸の近くに土地を購入し、自邸と6棟の賃貸住宅を建設した。そしてその地を「新しい郊外」と呼ぶ。東京に通うためのベッドタウンではなく、積極的な自意識をもって住む郊外では、サーフィン、魚介類、農作物を楽しむ。著者は、概念を唱えるだけではなく、自ら実践し、その過程で起きるさまざまな苦労の記録を本書に記した。波瀾万丈の個人史とも重ね合わせているが、新しい不動産のあり方への提案としても興味深い。
詳細:http://www.ohtabooks.com/publish/2009/01/14155934.html
2009/06/30(火)(五十嵐太郎)
『シャルロット・ペリアン自伝』
発行所:みすず書房
発行日:2009年6月10日
ル・コルビュジエのもとでしばらく働いたシャルロット・ペリアンのチャーミングな自伝である。ほぼ20世紀と重なる、一世紀に近い生涯は、彼女にモダニズムの現場の証言者としての役割を与える。大河ロマンのごとき、劇的な物語のなかに、著名な建築家や芸術家を散りばめ、素晴らしい脇役というべきもうひとつの視点から20世紀のデザイン史を追いかけられる。スタッフの立場から、ル・コルビュジエの仕事ぶりや緊張感あふれるアトリエの様子を記述していることも興味深い。また男ばかりの建築界において、女性のデザイナーがどのように活動していたかを知ることができ、ジェンダー論の視点からも読めるだろう。そしてペリアンが工芸の指導のために来日し、ブルーノ・タウトのごとく滞在していたことから、異国人の目から日本近代のデザインの状況が理解できる。彼女は、フランスでは創造のブレーキとなる過去のスタイルを背負いこまないために、日本では白紙の状態からフォルムを生みだせる可能性を指摘している。わかりやす過ぎるタウトの日本論とは違う。伝統的な建築における規格化と標準化という現代性を発見した。
詳細:http://www.msz.co.jp/book/detail/07444.html
2009/06/30(火)(五十嵐太郎)
『震災のためにデザインは何が可能か』
発行所:NTT出版
発行日:2009年5月29日
震災は日本にとっていつも重要なテーマである。一秒でも早く予知するためのシステムづくりにも大量の研究費が投じられる。だが、本書はカタストロフィーとしての地震に悲壮感をもって立ち向かうものではない。デザインという知的な営為を通じて、いかに震災がもたらす具体的な場面とつきあうのかを考えさせる。デザインとは視覚的なカッコよさを追求するだけではない。むしろ、生活と全般的に関わることを改めて教えてくれるだろう。ランドスケープ・デザイナーの山崎亮が関わるStudio-Lと、Hakuhodo+designがワークショップを行ない、その成果をもとに本書が執筆された。
詳細:http://www.nttpub.co.jp/search/books/detail/100001978
2009/06/30(火)(五十嵐太郎)