artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
新建築臨時増刊『日本の建築空間』
発行所:新建築社
発行日:2005年11月9日
新建築社の創刊80周年記念号。『建築20世紀 PART 1』『建築20世紀 PART 2』『現代建築の軌跡』と同じ新建築臨時増刊シリーズ。監修は、青木淳+後藤治+田中禎彦+西和夫+西沢大良。筆者が桑沢デザイン研究所にて今村創平氏とともに受け持つ授業にて、この大著を編集された橋本純氏に、毎年特別講義に来て頂いている関係で、よく読ませていただいている。アーカイブ的な本であるが、繰り返し取り上げる意義は大きいだろう。「日本の建築空間」というタイトルに、この本の核心が込められている。そもそも、寺社仏閣など古典的な日本建築と、西洋化以降の現代建築には大きな断絶があるように扱われており、ブルーノ・タウトが桂離宮にモダニズム的なものを発見するなど一部を除けば、両者を貫く視点はほとんどなかった。しかし本書は、その歴史上の断絶を接続しようとする。これが第一の核心である。第二の核心は、その断絶をつなぐ視点が「空間」であることである。西洋で建築学に「空間」という言葉が初めて学術的に取り入れたのは、19世紀末のA.シュマルゾーといわれる。つまり、建築における「空間」という概念は、比較的新しく、当然日本語ではもっと新しい。西和夫が巻頭で語るよう、日本建築はこれまで外観で語られることが多かった。しかし内部の「空間」に目を付けたときに、はじめて「日本の建築空間」が一貫した流れの中に存在していることが見えてくるだろう。なお、「日本『の』建築空間」というタイトルは、明らかに井上充夫の『日本建築の空間』(1969)を意識したものでもあろう。重点が「日本建築」よりも、「建築空間」そのものに移っているといえるのではないか。
2009/09/13(日)(松田達)
Christian Holstad『Fellow Travelers』/Buku Akiyama『Composition No.2 "an exceptional state": with equipments owned by hiromiyoshii』/Eiki Mori+Komichi Kobayashi『Crows and Pearls』
発行所:edition nord
発行日:2009年
これらはデザイン事務所のschtüccoが、edition nordという出版レーベルを立ちあげて、手がけた本である。一冊目は、Hiromi yoshiiのクリスチャン・ホルスタッドが用いた素人写真を再現し、箱詰めにしたもの。本というよりは、限定の美術作品である。二冊目は、秋山ブクのインスタレーションを山本真人が写真におさめたドキュメント。いったん製本されたものを手作業によって表紙を剥がしているから、厳密に言うと、まったく同じ本は存在しない。三冊目は写真家の森栄喜と小説家の小林小路のコラボレーション。カードの集積になっており、作家らが包装を行なう。本ではあるが、大量生産の印刷物ではない。アーツ・アンド・クラフト的というか、手の痕跡を強く残した贅沢な書物たちである。部数が多くないからこそ、製作が可能になっており、限定版を所有する愉しみが感じられる。
2009/08/31(月)(五十嵐太郎)
星裕之『建築学生の「就活」完全マニュアル』
発行所:エクスナレッジ
発行日:2009年8月21日
星裕之『建築学生の「就活」完全マニュアル』エクスナレッジ
筆者の編著による『建築学生のハローワーク』が業種の広がりと読み物的な要素をめざしていたとすれば、こちらはタイトル通り、面接のポイント、エントリーシートやポートフォリオなどの書き方もとりあげ、具体的な就職活動の「マニュアル」に徹底し、建築系の業種における必勝法を説く。参考書のような体裁、鈴木茜のイラストなどもユニーク。
2009/08/31(月)(五十嵐太郎)
都築響一『現代美術場外乱闘』/『デザイン豚よ木に登れ』
発行所:usimaoda
発行日:2009年6月6日
エロ・グロの秘宝館やラブホテルなど、アートの越境線を疾走する事例の数々が紹介され、「かっこ悪い」と「かっこいい」のあいだをゆさぶられ、ぐるぐるめぐり、(良識的な人は)目眩をおこしそうな本である。実際、以前にフィレンツェの動物学博物館を訪れたとき、医学解剖の人体標本をつくる職人と芸術家が紙一重であることを痛感した。実は、これらの本は筆者の仕事と重なりあう部分も多く、『過防備都市』でとりあげた排除型ベンチや『ヤンキー文化論序説』の先駆者として、都築の仕事からは目が離せない。
2009/08/31(月)(五十嵐太郎)
大山顕『高架下建築』
発行所:洋泉社 2009
発行日:2009年3月4日
先日、別府を訪れたとき、高架下にアジア的なマーケットが展開されている風景に感心したが、新しい景観への感性を表明した『工場萌え』の大山顕が高架下の建築を紹介した本である。高架下の額縁に入れられた絵のようという表現は言い得て妙。神戸、大阪、首都圏のフィールドワークを通じて、土木と親密な空間の接合を探る。考えてみると、ル・コルビュジエのアルジェの計画も、高架下建築だった。
2009/08/31(月)(五十嵐太郎)