artscapeレビュー

書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー

カタログ&ブックス│2009年10月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

マーティン・クリード

発行日:2009月7月
発行:広島市現代美術館
価格:1,800円(税込)
サイズ:A4変形

2009年5月23日から7月20日まで広島市現代美術館で行なわれた「マーティン・グリード」展カタログ。ターナー賞を受賞した際に展示された作品《作品番号227:ライトが点いたり消えたり》や今回の国際巡回展のために作曲された《作品番号955》など、マーティン・クリードのさまざまなメディアを使った表現を掲載。


shelter×survival

発行日:2008年
発行:広島市現代美術館
価格:2,000円(税込)
サイズ:B5

2008年2月16日から4月13日まで広島市現代美術館で行なわれた「シェルター×サバイバル」展カタログ。国籍やジャンルの違うデザイナーやアーティストたちが「シェルター」「サバイバル」というキーワードを通してもうひとつの家、生き方を表現する。カタログ自体も作品によって紙を変えるなど、不揃いのデザインとなっており、作品とカタログが融合したような一冊。


透明ランナーは走りつづける

発行日:2009年
発行:広島市現代美術館
価格:1,500円(税込)
サイズ:B5

2009年8月1日から9月27日まで広島市現代美術館で行なわれた小沢剛「透明ランナーは走りつづける」展のカタログ。展示された初期の作品から新作までを掲載。その他、食材を用いて銃を作成したのち、それを料理し、その土地の人々と食す「ベジタブル・ウェポン」シリーズの料理ブックや、作者と関係を築いてきた人々の質問に答えるなど、作品以外のページ充実。


アトリエ・ワン 空間の響き

著者:アトリエ・ワン(塚本由晴+貝島桃代)
発行日:2009年10月10日
発行:INAX出版
価格:1,890円(税込)
サイズ:A5

1992年の設立以来、建築はもとより、都市リサーチ、フィールド・ワーク、ワークショップ、展覧会、教育などのさまざまな場面で創造の手法を展開してきたアトリエ・ワン。かれらはそうした横断的取り組みによって豊かなヴォキャブラリーと思考を紡ぎ出し、建築・都市を捉え、実践するためのフレームを培ってきた。本書では、そのようなフレームの根底にある思考やそこから生まれる仮説を拾い集める。いきいきとした空間をつくりあげるための、アトリエ・ワンの思考のスクラップ・ブック。[INAX出版サイトより]


20XXの建築原理へ

著者:伊東豊雄+藤本壮介+平田晃久+佐藤淳
発行日:2009年9月30日
発行:INAX出版
価格:2,205円(税込)
サイズ:A5変形

「建築のちから」は伊東豊雄、山本理顕、藤森照信がそれぞれ1冊ずつ監修を担当する、計3冊のシリーズ。日本建築界のトップランナーである3人が、それぞれが注目する若手建築家と対話すること、架空のプロジェクトをつくることから、建築の問題や状況をあきらかにしながら、この先の可能性を考えていく。シリーズ第2弾となる本書では、伊東豊雄が選んだ若手建築家と構造家、藤本壮介、平田晃久、佐藤淳が、東京都心部の青山病院跡地に、住宅、オフィス、商業等の混在した施設を構想するという架空のプロジェクトを追う。そのプロセスで浮かび上がる都市と建築をめぐる課題に3人はどう答えていくのか。また伊東はそれをどのようにナビゲーションをしてゆくのか。カラー頁で青山病院跡地プロジェクト・プレゼンテーションを展開し、山本理顕、藤森照信も参加した講評会と座談会も収録。若手建築家たちは何を考え、どこへ向かうのか。そして、建築家たちが提案する東京再開発モデルの理想像と、21世紀の新しい建築原理とは。[INAX出版サイトより]


肉体の叛乱──舞踏1968/存在のセミオロジー

発行日:2009年3月31日
発行:慶應義塾大学
価格:1,000円(税込)
サイズ:B5変型

2008年7月12日から25日まで慶應義塾大学アート・センターでアート・アーカイブ資料展として行なわれた、土方巽の展覧会カタログ。展示では1968年に行なわれた舞踏公演『土方巽と日本人〜肉体の叛乱』をクローズアップしており、本書には公演に関する資料が収められており、それに沿って肉体の叛乱をめぐる考察や解説を掲載。

2009/10/15(木)(artscape編集部)

宮下マキ『その咲きにあるもの』

発行所:河出書房新社

発行日:2009年10月5日

1975年生まれの宮下マキは、まさに90年代の「女の子写真」世代の写真家。2000年に刊行した『部屋と下着』(小学館)も、若い女性のプラーベート・ルームを撮影するという話題性で注目された。
だが、僕は以前から彼女はいいドキュメンタリー写真家になる資質を備えていると睨んでいた。被写体に密着し、時間と空間を共有しながら、粘り強く長期にわたって撮影を続けていく。その才能は、この『その咲きにあるもの』でも充分に発揮されている。タイトルがわかりにくいのが難ではあるが、内容的にはとてもストレートな、気持ちのいいドキュメントだ。被写体になっているのは「洋子」という二人の子どもがいる女性。乳癌が発見され、乳房の切除及び再建手術を3回にわたって受ける。その間の彼女の身体や表情の変化、周囲の反応、そして季節の巡りが、センセーショナリズムを注意深く避けて淡々と描写されていく。
「いつも私とカメラの間には。ほんの短いズレがある。/ずっと、それを恥ずかしいことだと思っていた。/でも、今は違う。/今はそのズレを感じていたい。/喜びも、痛みも、生きることも、死ぬことも、少し後に感じていたい」。「ズレ」や「揺らぎ」を含み込んだ、女性形のドキュメンタリーのあり方を、宮下はしっかりと、誠実に模索し続けているのではないだろうか。

2009/10/07(水)(飯沢耕太郎)

山中学『羯諦』

発行所:ポット出版

発行日:2009年9月10日

1989年に東京・有楽町の朝日ギャラリーで開催された山中学の個展、「阿羅漢」のことはよく覚えている。ホームレスの男たちを正面から見据えたポートレートが、和紙のような大きめの紙にやや粗い粒子を強調してプリントされ並んでいた。手応えのある被写体に肉迫したいという表現の意図はよく伝わってきたが、そのたたずまいは神経を逆撫でされるようで、あまり気持ちのいいものではなかった。仏教用語を使ったタイトルも、ややとってつけたように感じた。
ところが、今回送られてきた写真集『羯諦』のページをめくって、山中がその後、驚くべき粘り強さと忍耐力を発揮して、「阿羅漢」のテーマを展開していることを知った。「不浄観」「羯諦」「童子」「浄土」「無空茫々然」と、25年以上わたってシリーズを重ねていくごとに、テーマは深められ、表現は繊細に、そして簡潔で力強いものになってくる。「奇形」の肉体に真っ向から取り組んだ「浄土」や「無空茫々然」は、いろいろ物議を醸すこともあるかもしれないが、写真を通じて生命と物質の境界を問いつめる作業の、極限値がここにあるといってよいだろう。写真集の造本・レイアウトもとても細やかで丁寧にできあがっている。

2009/10/07(水)(飯沢耕太郎)

伊東豊雄+藤本壮介+平田晃久+佐藤淳『20XXの建築原理へ』

発行所:INAX出版

発行日:2009年9月30日

伊東豊雄と3人の若手建築家・構造家による、都心再開発の架空プロジェクトのドキュメント。藤本壮介、平田晃久、佐藤淳が、2008年から複数回の研究会を重ね、青山病院跡地に未来の巨大建築を描き出す。敷地は約100メートル四方の巨大なもの。伊東のディレクションで、新しい高層建築のタイプを探求する方向へと研究会は向かう。研究会の成果をプレゼンテーションし、最終講評会には山本理顕、藤森照信も加わった。本書の出版にあわせ、INAX:GINZA7Fクリエイティブ・スペースでは、同名の展覧会が開催された(2009年9月24日から2009年10月10日)。またmosakiの大西正紀と田中元子が編集を協力している。
さて、「20XXの建築原理へ」と題されたこの架空プロジェクト、想像以上にスリリングなスタディとその変遷が興味深かった。平田と藤本の両者が「巨木」や「樹状のもの」にともに関心を持っていたことから、途中までは二人の方向性はある種似ていたが、最終段階で方向性が分かれる。平田は襞状の空間性により注目し、5つの「樹木性Tree-ness」の性質を持つTree-ness Cityを提案。いわば「樹木としての都市」である。そして根-枝-葉というように、繋がっているけれども見た目が異なるような複数のシステムを接合して、いったいであるけれども複数のシステムが混在しているような建築を目指す。一方、藤本は、「樹木」とともに途中から浮かび続けていた「山」のイメージへと舵を取り、「山的なる都市」を提案。この背景には、水田などが雪で覆われたときに、どこでも歩ける「面としての道」が立ち現われたという、藤本の空間移動感覚の原体験があったという。空間での「体験」を重視するため、システムやルールといったものにしばられない何かを目指し、建築と対極にあるものを目指したという。あえていえば、平田が「建築」指向、藤本が「空間」指向とでもいえようか。しかし単純な対立ではなく、そういった違いをすべて包摂しながら最後に現われてくるような、指向の違いであろう。新しい建築原理の萌芽を見るような刺激的なプロジェクトだった。

2009/09/30(水)(松田達)

山本兼一『火天の城』

発行所:文藝春秋

発行日:2007年6月10日

9月に公開された同名映画の原作である。織田信長の安土城の建設をめぐって、大工棟梁の視点から描いた時代小説。父と息子の物語になっているところなどは、中世のヨーロッパを舞台にしたケン・フォレットの『大聖堂』をほうふつさせる。現存しないために、さまざまな復元案があるのだが、巨大な吹抜け案なども、コンペの対案として紹介しているのは興味深い。宣教師を経由したヨーロッパの影響なども示唆している。建築界では重源が好まれ、彼を主人公にした小説も書かれているが、なるほど、安土城はエキセントリックな施主との関係もあってエンターテイメント性が高い。なお、映画では息子の代わりに福田沙紀演じる娘が登場するなど、さまざまな変更があり、その比較も楽しめる。

2009/09/30(水)(五十嵐太郎)