artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
竹内昌義 他『未来の住宅』
発行所:バジリコ
発行日:2009年8月21日
刊行直後から、本書には追い風が吹いている。民主党の鳩山首相が、CO2など温室効果ガスを25%削減するという大胆な目標を掲げたからだ。まさに、このテーマを建築界がどのように受け止めるべきかを考えたのが、本書である。サブタイトルは、「カーボンニュートラルハウスの教科書」。CO2を排出しない家ということだ。竹内昌義は、そのために必要なことは、徹底的な省エネルギーをはかること、そして化石燃料ではなく、再生可能エネルギーを使うことだという。本書は、質疑形式を用いながら、わかりやすく、断熱やデザインなど、具体的な方策を開示していく。そして森林を手入れしつつ、日本の木材を使うことが推奨される。それは伝統的な建築の姿に重なるからだ。妹島和世の設計した《梅林の家》の施主が登場するのも興味深い。また本書は、200年住宅にも疑問を投げかける。
2009/09/30(水)(五十嵐太郎)
マシュー・フレデリック『建築デザイン101のアイデア』
発行所:フィルム・アート社
発行日:2009年8月10日
本書の意図は明快である。建築デザインの教えをアフォリズム的な言葉によって並べること。先にイラストがあって、次に力強い言葉が続く。見開きでセットになっている。一番目は「どのような線で描くべきか」から始まり、35番目の「眺めるのも好きだけど、眺めに背を向けるのも悪くない」という発想の転換を混ぜたりしながら、最後は「ひたすら何かを描きなさい」「気の効いた名前をつけてみなさい」「建築家というものは遅咲きなのです」で終わる。実際、建築の設計とは、さまざまなことを同時に考える複雑な作業だが、ここではなるべく分解し、チェックすべき事項を挙げているのだ。デザインに行き詰まったときに、開いてみるのもよいだろう。
2009/09/30(水)(五十嵐太郎)
真壁智治 チームカワイイ『カワイイパラダイムデザイン研究』
発行所:平凡社
発行日:2009年9月
数年前から真壁智治が、研究室の学生によって結成されたチームカワイイとともに、カワイイをテーマに現代のデザインを調査した成果が一冊の本として発表された。軽そうなトピックに思われるかもしれないが、400ページに及ぶ大著である。真壁によるコンセプトの論文、デザインの事例紹介、現代建築の検証など、二回のシンポジウムやリサーチをすべてつぎ込んだ総力戦だ。なるほど、かわいいという感性が重視されているのは間違いない。今後カワイイについての考察を深めていくうえでの基礎資料集成といったおもむきである。筆者も、本書に「かわいい建築論をめぐって考えておくべきこと」というテキストを寄稿した。
2009/09/30(水)(五十嵐太郎)
杉浦貴美子『壁の本』
発行所:洋泉社
発行日:2009年9月3日
カバーに「街中に絵があふれている」と書かれたように、壁を撮影する「壁嬢」(石川初・談)こと、杉浦貴美子による初の写真集である。壁の写真といえば、筆者が編集委員長を担当している『建築雑誌』の表紙である、赤や緑など、全体がひとつの色に塗られたさまざまな壁を撮影する、佐々木光のシリーズもそうだが、杉浦のそれはさまざまな要素といろいろな色がせめぎあうキャンバスとして壁を切りとる。その結果、厳選された写真は、偶発的に生まれたコラージュだったり、抽象絵画のような美しさをもつ。巻末の絵解きも愉しい。一方、写真家の小山泰治は、超高解像度のデジタル写真によって東京の表面をスキャンしていくが、もとの意味を引きはがし、宇宙の誕生を目撃するかのような壮大なイメージを与える。こうして比較すると、杉浦の『壁の本』は、壁の履歴に注目し、路上観察学にも通じる対象への愛を強く感じさせるものだ。
2009/09/30(水)(五十嵐太郎)
カタログ&ブックス│2009年9月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
アイ・ウェイウェイ 何に因って?
2009年7月25日から11月8日まで森美術館で開催の「アイ・ウェイウェイ展──何に因って?」展カタログ。2008年北京オリンピックのシンボルとなった《北京国立競技場》など、最新作を含む約30点の主要作品をはじめ、建築プロジェクト、ニューヨーク在住時代の写真や学芸員による論考など、幅広い活躍を紹介。各作品の制作過程のメイキング写真と解説文も掲載。
北島敬三 1975-1991
2009年8月29日から10月18日まで東京都写真美術館で開催の「北島敬三 1975-1991」展カタログ。コザ、東京、ニューヨーク、東欧、ソ連と1975年から1991年にかけて撮影した約190点の写真を収録。1991年以降ストリート・スナップから離れた北島の過去に撮りためたスナップショットの再提示。
ゑびす大黒──笑顔の神さま
2009年9月5日から11月19日までINAXギャラリー大阪で開催の「ゑびす大黒──笑顔の神さま」展カタログ。脈々と受け継がれてきた身近で親しい神様として、ゑびす様と大黒様の暖かなパワーが感じられる縁起本、招福笑顔が満載の一冊。かつて各家々に祀られていた愛らしい木彫のご神像たちが約100点登場。
Fellow Travelers
クリスチャン・ホルスタッドはアメリカで最も注目されている若手アーティストのひとり。2010年には、地元NYのMOMAでの個展も予定されている。このエディションは、2007年に東京・清澄のギャラリーhiromi yoshii で発表されたインスタレーション作品「BloodBath & Beyond」のために彼が収集した素人写真を、サイズや色、紙質や表面塗工、裏面の記載、周囲の型抜き装飾までをも忠実に複製し、箱におさめたもの。
Crows and Pearls
写真家・森栄喜の東京の少年たちを彼ら自身の部屋で撮影したポートレイトと小説家・小林小路の短篇『夏の底』によるコラボレーション。一見序列のない16枚の写真カードの裏で密かに小説が進行する。16枚の写真カードは内側に小説の英訳が記載されたごく薄い包装紙に包まれ、ステッカーで留められている。写真と小説には直接の意味的なつながりは無いが、カードの束という形式の中で緩やかに結びつき、時間的持続を経ることで、読者は自らの想像上の映画の中で、自由にそれらの関係性を創造する。
2009/09/15(月)(artscape編集部)