artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
カタログ&ブックス│2014年3月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
藤田嗣治画集「巴里」「異郷」「追憶」(全3巻)
日本を代表する国際的な画家・藤田嗣治(レオナール・フジタ/1886〜1968)の多面的で多層的な画業を「巴里」「異郷」「追憶」という三つのテーマ、3巻で概観。藤田嗣治の画業をたどる上で欠かせない「基準作」となる作品を厳選し、美麗な図版で紹介するとともに、第一線の研究者による最新の研究成果に基づくテキストで、作品の内容と制作の背景などについて詳細に解説します。[小学館サイトより]
亜洲狂詩曲 アジアンラプソディ
誰もいない東京を撮ったベストセラー写真集『TOKYO NOBODY』、木村伊兵衛写真賞の受賞作『東京窓景』など話題となる作品集を発表し続ける中野正貴が、35年にわたって撮りためていた「アジア」をまとめた、約5年ぶりとなる写真集。
「縦文字と横文字が混在する重層な文化を持つアジアの日常の様々な断片をシャッフルして、アジアというひとつの国を構築してみた。複数の楽曲を自由に構成して仕上げる狂詩曲(ラプソディ)のように」[本書帯より]
没後50年 上田宇三郎展─もうひとつの時間へ─
2013年12月18日〜2014年2月26日まで、福岡市美術館にて開催された「没後50年 上田宇三郎展─もうひとつの時間へ─」図録。全出品作品をカラー図版で掲載。作品解説や学芸員によるエッセイのほか、宇三郎の日記を掲載したCD付き。
想像しなおし In Search of Critical Imagination 展覧会図録
2014年1月5日〜2月23日まで、福岡詩美術館にて開催された「想像しなおし In Search of Critical Imagination」展カタログ。
テッサ・モーリス=スズキ「世界を再想像する」 (書き下ろしエッセイ)、本展企画者・正路佐知子[福岡市美術館]によるエッセイ、展覧会風景、出品作品のカラー写真(撮影:山中慎太郎)などを収録。[展覧会サイトより]
2014/03/17(月)(artscape編集部)
カタログ&ブックス│2014年2月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
torii
シリーズ[torii]は、「日本の国境の外側に残された鳥居」を撮影した下道基行の代表作のひとつ。前作写真集「戦争のかたち」(リトルモア)から8年、韓国光州ビエンナーレ2012での新人賞受賞や東京都現代美術館での企画展「MOTアニュアル2012/風が吹けば桶屋が儲かる」などで話題になった本シリーズが写真集になります。未発表も含む30点の写真、他にも台湾日記や取材メモなどフィールドワークの記録も掲載。シリーズの集大成。装丁は新進気鋭のデザイナー橋詰宗氏、プリンティングディレクターは熊倉桂三氏。[Michi Laboratoryサイトより]
うさぎスマッシュ 世界に触れるアートとデザイン
社会がより複雑化した21世紀に入り、デザインも大きな変化を遂げています。絶え間なく消費される「新しさ」を生むデザインとは異なり、社会に対する人々の意識に変化を与えるデザインが、今より重要性を増しているといえます。東京都現代美術館での展覧会「うさぎスマッシュ─世界に触れるアートとデザイン」では、そのようなデザインの実践に焦点を当て、高度に情報化された現代社会の様々な出来事を取り上げ、私たちの手にとれる形にデザインして届ける国内外のデザイナー、アーティスト、建築家、21組の表現を紹介します。[フィルムアート社サイトより]
福永敦展「ハリーバリーコーラス─まちなかの交響、墨田と浅草」ドキュメント
今回福永が注目するのは、東京下町の代名詞、墨田と浅草エリア。そこで集めた音を素材に、アサヒ・アートスクエアの空間を、合唱のような「音声」で満たされた体験型インスタレーション作品に変換します。この土地の様々な地域性や、ときに時代性が混じり合う、多様な文化の音風景があなたの前に立ち上がります。[Asahi Art Squareサイトより]
犬のための建築
犬のための建築は、今や人間にとって最も身近なパートナーとなった犬の尺度で建築(環境)を捉えなおすことで新たな建築の可能性を模索するとともに、人と犬との新しいコミュニケーションのかたちを提案するプロジェクトです。...本書では作家による作品解説の他、制作過程のアイディア、そして実際につくることができる図面やつくり方も掲載。また、原研哉氏と、本プロジェクトを共同企画した米投資会社のImprint Venture Lab代表取締役のジュリア・ファング氏、そして参加作家のひとりである藤本壮介氏の3人による鼎談も収録。藤本氏の作品「NO DOG, NO LIFE!」の制作秘話も明かされます。[TOTO出版サイトより]
福島第一原発観光地化計画
本書は、標題のとおり、二〇一一年の三月に深刻な事故を起こした福島第一原子力発電所の跡地と周辺地域を、後世のため「観光地化」するべきだ、という提言書です。「観光地化」とは、ここでは、事故跡地を観光客へ開放し、だれもが見ることができる、見たいと思う場所にするという意味で用いています。遊園地を作る、温泉を掘るという短絡的な意味ではありません。[本書「福島第一原発観光地化計画とは」より]
2014/02/17(月)(artscape編集部)
せんだいスクール・オブ・デザイン 2013年度秋学期学内講評会
東北大学片平キャンパス都市建築学専攻仮設校舎プロジェクト室1・2、ギャラリートンチク[宮城県]
せんだいスクール・オブ・デザインの学内発表会を行う。筆者が担当するメディア軸は、『S-meme』7号を制作した。今回の前衛的な装幀は、全ページがリング状につながり、その表裏に印刷されたリバーシブルである。したがって、本が広がり、その中をくぐったり、数人で回転寿司のように読むことができる。本が空間を獲得し、オブジェのような形態にも変わる。7号のテーマは、「仙台文学・映画の想像力」だ。メイン講師の文芸批評家・編集者の仲俣暁生と、荒蝦夷の編集者・土方正志のレクチャーを収録しつつ、震災後文学の書評を数多く掲載し(黒川創、古川日出男、川上弘美、佐伯一麦2冊、高橋源一郎、三浦明博、伊坂幸太郎、いとうせいこう2冊、瀬名秀明、橋本治、玄侑宗久、熊谷達也、絲山秋子など)、受講生の議論によって、S-meme震災後文学賞を決定した。その結果、選ばれたのは、玄侑の『光の山』である。また全員で仙台文学館を訪れ、こう改良したらいいという提案20を練って、担当の学芸室長とトークを行った内容や、ここの資料を活用した宮城の文芸誌の装幀史も含む。ほかに文学系では、西村京太郎と伊坂幸太郎の仙台を描いた小説の比較、文学に描かれた仙台のX橋論など。映像サイドでは、せんだいメディアテークの小川直人のレクチャー、仙台を描いたアニメ『Wake Up, Girls!』論。またオーストラリアのクイーンズランド大学とのワークショップで、映画化された伊坂の『ゴールデンスランバー』をブリスベンでロケハンする作業を通じて、二都市の比較を行った。
2014/02/14(金)(五十嵐太郎)
玄侑宗久『光の山』
発行所:新潮社
発行日:2013/04/26
福島在住僧侶である玄侑宗久の小説『光の山』を読む。虫、仮設住宅、家族の喪失、そして放射線の線量をめぐる短編集だが、やはり表題作『光の山』が印象的だった。これは3.11、東京震災、富士山噴火後の遠い未来を描く。老人が福島の汚染土を自宅の広大な敷地で引き受け、それがどんどん集まり、いつしか山となった。彼が亡くなった後、山は発光し、やがて宗教的な場が観光地となる物語である。思いもかけない未来の神話だ。
2014/01/29(水)(五十嵐太郎)
第29回梓会出版文化賞 贈呈式
日本出版クラブ会館[東京都]
日本出版クラブ会館で行なわれた第29回梓会出版文化賞の贈呈式に出席した。出版社の活動を顕彰するもので、上野千鶴子、斎藤美奈子、外岡秀俊、竹内薫らとともに審査を担当した。梓会出版文化賞は童心社、同特別賞は赤々舎と深夜叢書社。今年は五十嵐が全体の講評を担当したので、以下にアートとも関わりをもつ童心社と赤々舎の部分を抜粋する。「童心社は、1957年に創立し、長きにわたり、児童図書、紙芝居、絵本を出版してきました。ネットの時代において、本でしかできない手と紙のインターフェイスを大事にしています。……注目されたのは、アーサー・ビナード『さがしています』と、日・中・韓平和絵本のシリーズ。前者は時計や軍手など、広島で被爆したモノたちが失われたものを探すというユニークな語り口の本。また太平洋戦争をテーマとする三か国共同出版の後者は、それぞれの言語で刊行する企画で、絵本史上初の試み」。「赤々舎はまだ若い出版社ですが、すでに写真集を中心に、現代美術に関して存在感のある本を刊行してきました。志賀理江子による二冊の本と、大竹昭子の『NY1980』は、写真家がなぜ撮るのかというテキストと、写真集が組合わさったものです。海辺の集落に移住した後、津波で被災した志賀は……仙台の個展で奇蹟的な写真の空間を実現しました。一般的に展覧会の書籍化は難しいですが、地霊に触れた自身の経験と思考を搾りだすように語る写真論としての本と、大判の写真集に収められ、新しい命が与えられました。さらにネットにはできない良質のブックデザインが、希有な本に輝きを与えています」。
2014/01/16(木)(五十嵐太郎)