artscapeレビュー

書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー

牛腸茂雄『見慣れた街の中で』

発行所:山羊舍

発行日:2013年9月1日

山羊舍から限定500部で刊行された『見慣れた街の中で』は、牛腸茂雄の作品世界を新たな角度から読み解いていくきっかけになる写真集ではないだろうか。『見慣れた街の中で』は、『日々』(関口正夫との共著、1971)、『SELF AND OTHERS』(1977)に次ぐ、牛腸の3冊目の写真集で、1981年に刊行された。83年の逝去の2年前、生前の最後の写真集になる。写真集には、東京や横浜で撮影されたカラー写真によるスナップショット47点がおさめられている。ところが、写真集刊行後の82年に東京・新宿のミノルタ・フォトスペースで開催された同名の個展には、74点の作品が展示されていた。今回の新装版の『見慣れた街の中で』には、その写真集に未収録だった27点が加えられた。さらにスキャニングと印刷の精度が上がったことにより、牛腸が撮影したカラーポジフィルム(コダクローム)の色味が、より鮮やかによみがえってきている。
最大の驚きは、新たに付け加えられた27点の写真が発する異様な力である。むろん、内容的には、これまでの写真群とそれほど大きな違いがあるわけではない。だが、より曖昧で浮遊感の強い写真が多いように感じる。牛腸は旧版の『見慣れた街の中に』の序文に「そのような拡散された日常の表層の背後に、時として、人間存在の不可解な影のよぎりをひきずる」と記している。彼の言う「不可解な影のよぎり」は、確かにこのシリーズの基調低音と言えるものだが、それが写真集の巻末に収められた27点では、よりくっきりとあらわれてきているのだ。特に街の雑踏から子どもたちの姿を切り出してくる眼差しに、ただならぬこだわりを感じてしまう。本書の刊行によって、牛腸が『見慣れた街の中で』で何を目指していたのか、そしてそれが彼の最晩年の仕事となった『幼年の「時間(とき)」』のシリーズにどうつながっていくのかを確かめていくことが、今後の大きな課題として浮上してきたと言える。

2013/10/26(土)(飯沢耕太郎)

カタログ&ブックス│2013年10月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

キュレーション 「現代アート」をつくったキュレーターたち

著者:ハンス・ウルリッヒ・オブリスト
翻訳:村上華子
発行日:2013年08月28日
発行所:フィルムアート社
サイズ:四六判、360頁
定価:2,520円(税込)

世界的なキュレーター、H. U. オブリストが迫る、現代アートのシステムがつくられるまでの歴史。
キュレーションという概念の黎明期に活躍したキュレーター11名に、ハンス・ウルリッヒ・オブリストが行なったインタビューを収録。1960年代から1970年代の初期インディペンデント・キュレーティングから、実験的なアートプログラムの台頭、ドクメンタや国際展の発展を通じてヨーロッパからアメリカにキュレーションが広がっていった様を、オブリストによる鋭く深いインタビューは鮮やかに描き出しています。
キュレーターは職業としてどのように成立してきたか、展示の方法や展覧会の作り方はどのように進化してきたか、今後キュレーションはどのような方向へ向かうのか。アートとキュレーションの関係を考える上で決定的な1冊です。
フィルムアート社より]



Mn'M Workbook 2:
Tokyo Dérive───In Search of Urban Intensities
東京漂流──都市の強度を探して

編者:ダルコ・ラドヴィッチ
発行日:2013年6月
発行所:フリックスタジオ
サイズ:B5、109頁
定価:1,143円(税込)

『10の都市における都市の強度』において、アジア、オーストラリア、ヨーロッパから集まった建築家とアーバニストの専門家グループは、自分たちが生活と仕事を営んでいる都市を取り上げ、その都市を決定的に定義付ける重要な現象に注目することによって、「都市的なるもの」の複雑性についての考察を行なった。その考察からは30のキーワードとフレーズが生まれ、これを骨組みとして本プロジェクトの中心テーマ──都市の強度が浮き彫りになった。本書は、考察の次なる段階として、より規模の大きなMn'M研究チームが2012年11月に東京で実施したフィールドワークお結果の一部を示すものである。
[本書プロローグより]


建設ドキュメント1988──イサム・ノグチとモエレ沼公園

著者:川村純一、斉藤浩二
構成:戸矢晃一
発行日:2013年10月1日
定価:2,520円(税込)
サイズ:四六判、272頁

1988年彫刻家イサム・ノグチが完成を見ずに逝き、続行も危ぶまれたモエレ沼公園計画は17年後に完成した。ゴミの埋立地が「大地の彫刻」に変貌した軌跡を設計統括を担当した建築家とランドスケープデザイナーが明かす。残された僅かな図面を頼りにそのコンセプトは如何に読み解かれ実現されたのか?初めて明らかになるその舞台裏。
学芸出版社サイトより]

2013/10/15(火)(artscape編集部)

カタログ&ブックス│2013年9月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

ヴィクトリア時代の室内装飾 -女性たちのユートピア-

著者:川端有子、村上リコ、吉村典子
発行日:2013年08月31日
発行所:LIXIL出版
サイズ:210×205mm、72頁
価格:1,890円(税込)

本書では、人々が室内で表現した「くつろぎ」のかたちを図版豊富に展開します。その実例として、現存するヴィクトリアン・ハウス、雑誌『パンチ』の風刺画家L.サンボーン邸の紹介をはじめ、女性たちが趣味と心地よさの表現舞台とした「ドローイングルーム(英国固有の女性主体の部屋)」を中心に、当時続々と出版された雑誌等の指南書からキーアイテムを掲載します。その他、装飾材の主要アイテムだったタイル、同時代に活躍したウイリアム・モリスの壁紙からも当時の装飾デザインの動きを追います。また、使用人など別の立場からみた室内を分析する論考も必読です。
一気にものが溢れた時代を反映した「ヴィクトリアン・コンフォート」の空間へと読者を誘います。当時の絵本からの抜粋版ミニ絵本付き。
LIXIL出版サイトより]



かじこ──旅する場所の108日間の記録

編著:かじこ管理人(蛇谷りえ、三宅航太郎、小森真樹)
発行日:2013年7月16日
定価:1,000円(税込・送料別)
サイズ:140ページ

岡山県岡山市にて古民家を活用した108日間(2010年7月16日〜10月31日)実施されたアートスペース「かじこ」の記録集。かじこの機能や活動が、「システム」「メディア」「エッセイ」の章に分けて収録されている。巻末には、かじこに訪れた参加者たちが、3年前を振り返って綴った日記を収録。


現代建築家コンセプト・シリーズ16 中村竜治 コントロールされた線とされない線

著者:中村竜治
発行日:2013年8月30日
定価:1,890円(税込)
サイズ:A5、160ページ

日常の些細なものから建築に至るまでに生じている、コントロールされたものとされないものせめぎあい。中村竜治は、ものや空間を根源的に成立させているこの2つの作用に向き合い、デザインするとはどういうことかを考える。そうした視点からつくられた30あまりの作品──小作品、インスタレーション、展覧会会場構成、商業空間、住宅──は、線を面に、面を立体に、弱さを強さに変え、構造と仕上げの境界を自由に横断する。それはときに可視と不可視の領域も行き来しながら、見る者の常識を揺さぶり、私たちの日常への繊細な感覚と喜びを呼び覚ます。バイリンガル。
LIXIL出版サイトより]

2013/09/17(火)(artscape編集部)

藤井豊『僕、馬』

発行所:りいぶる・とふん

発行日:2013年6月21日

東日本大震災から2年半が過ぎ、アーティストたちが未曾有の事態にどのように反応し、作品として結晶させていったかも、かなりくっきりと見えてきた。だが今回、仙台の古書店「火星の庭」で、藤井豊の写真集『僕、馬』を何気なく手にして、油断することなく網を張り、探索を続けていかなければならないことがよくわかった。それはまさに「こんな所にもこんな表現が芽生えていたのか!」という驚きと感動を与えてくれる作品集だったのだ。
藤井は1970年岡山県生まれ。独学で写真を学び、沖縄や東京での活動を経て2002年に岡山に帰郷した。彼は震災のひと月後の2013年4月11日から5月20日にかけて、何かに突き動かされるように青森、岩手、宮城、福島の沿岸部から内陸に抜ける旅に出る。その「おおむね鉄道、徒歩、車による」旅の途上で、ずっとモノクロームフィルムで撮影を続けた。今回の写真集は、それらのネガから厳選した約200カットを、ほぼ旅の日程に沿って並べ直したものだ(編集、レイアウトは扉野良人)。
気負いなく撮影されたスナップショットであり、ドキュメントとしての気配りよりは、自分が見た(経験した)出来事を、そのまま何の修飾も加えず提示しようという意志が貫かれている。にもかかわらず、それらの素っ気ないたたずまいの写真群には、同時期に撮影された他の写真家の作品には感じられないリアリティがある。沿岸部の瓦礫や津波の生々しい爪痕はもちろん写っているが、それ以上に藤井が、遅い春を迎えて一斉に生命力を開花させようとしている植物群や、日常を取り戻しつつある人々の営みに、鋭敏に反応してシャッターを切っている様子が伝わってくるのだ。
このような、下手すれば埋もれていきかねない写真家の営みが、こうして写真集として形をとり、京都(メリーゴーランド京都)と東京(ブックギャラリーポポタム)で同名の展覧会も開催されたのは素晴らしいことだと思う。『僕、馬』というタイトルもなかなかいい。これはおそらく、藤井自身が青森県のパートに登場する野生馬に成り代わって、東北を旅したことを暗示しているのだろう。

2013/09/08(日)(飯沢耕太郎)

カタログ&ブックス│2013年8月

展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。

質問する その1(2009-2013)

著者:田中功起
共同執筆:土屋誠一、成相肇、保坂健二朗、冨井大裕、沢山遼、林卓行、片岡真実、西川美穂子
発行日:2013年7月10日
発行元:アートイット
サイズ:四六判変、360頁
定価:1,995円(税込)

第55回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展 日本館(特別表彰 受賞)代表アーティスト田中功起が、気鋭のキュレーター、作家、批評家ら8名と交わした「つくること」「みること」「作品」をめぐる往復書簡 [アートイットサイトより]




楽園 / Heaven

著者:Zevs 発行日:2013年8月6日
発行所:The Container
サイズ:215×215mm、76頁

2013年4月29日〜7月14日まで、The Containerにて開催された展覧会「楽園 / Heaven」展のカタログ。The Containerでの展示では、グラフィティ・アーティストZevs自身がデザインしニューヨークの街頭に貼り出した《Adam & Eve》(2013)という題の二枚組ポスターが展示された。


クリエイティブリユース──廃材と循環するモノ・コト・ヒト

編著:大月ヒロ子 中台澄之 田中浩也 山崎亮 伏見唯
発行日:2013年8月30日 発行所:millegraph サイズ:178×116mm、288頁
定価:2,100円(税込)

廃材・廃棄物に新しい価値を発見すること。既に身の回りにあるモノに工夫を加えて活用すること。自らの手でモノをつくる喜びや楽しさ。クリエイティブリユースは、見捨てられているモノを観察し、想像力と創造力によって再び循環させることです。本書はクリエイティブリユースとは何かを伝え、世界中にあるさまざまな活動や事例を紹介します。
[広報資料より]


Kenzo Tange Architecture for the World

編集:Seng Kuan、Yukio Lippit
発行日:2012年10月
発行所:Lars Muller Publishers
サイズ:207×250mm、192頁、ハードカバー
価格:50ユーロ/60USドル 言語:英語

20世紀の建築界において、その才能・影響力の点において比類なき存在である丹下健三。広島平和記念資料館、東京計画1960、代々木体育館等、豊富な図面と写真で語られる。

2013/08/19(月)(artscape編集部)