artscapeレビュー
書籍・Webサイトに関するレビュー/プレビュー
永井一正『つくることば いきることば』
発行日:2012年3月
永井一正の銅版画に、彼自身の覚え書きとポエムをひとつにした詩画集。永井一正といえば、1960年に日本デザインセンターの創設に参加し、札幌冬季オリンピックをはじめ、数々の企業のCIやマーク、ポスターを手がけてきた、日本を代表するグラフィックデザイナーの一人である。1980年代後半から動植物をモチーフとした「LIFE」シリーズのポスターを展開し、2003年から銅版画へと発展する。本書は命をテーマにした銅版画集『生命のうた』(2007)をベースに新作版画とことばを大幅に加えたものだという。とても短いことばなのに、その深さと力強さには心を打たれる。創作者としての長い経験と命の尊さへの思いが凝縮されているからだろう。さらに不思議な鳥や魚、花たちに話しかけられているような独特な雰囲気も魅力的な一冊である。
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わたしが描く動物が人間みたいな目をしているのは、
人間と対等なものとして存在するからということ。
生きものを描くことで
わたし自身が生きる勇気をもらっている。
(永井一正『つくることば いきることば』26-28頁)
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[金相美]
2013/03/01(金)(SYNK)
カタログ&ブックス│2013年2月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
会田誠作品集 天才でごめんなさい
2012年11月17日(土)〜2013年3月31日(日)まで、森美術館で開催中の「会田誠 天才でごめんなさい」展カタログ。「デビュー以来一貫して自らが生きる社会を凝視し続け、批評、風刺あふれるセンセーショナルな作品を発表し続ける会田誠。そのタブーに挑む表現から真の評価が遅れてきた会田の全貌を検証する」[青幻舎サイトより]
SUPER RAT
芸術実行犯Chim↑Pomの全貌! 2005年結成からパルコミュージアムでの個展「Chim↑Pom」までの代表作をすべて網羅。さらに国内外の評論家やキュレーターによるさまざまな論考を併載し、話題沸騰のアーティスト集団に迫る。[パルコ出版サイトより]
アシュラブック
興福寺 阿修羅像から東大寺 不空羂索観音像へ
興福寺の阿修羅像が美少年になった理由とは? 興福寺の阿修羅像は、日本の仏像の中でナンバーワンの「美少年」です。ですが、阿修羅のルーツをたどっていくと、ある疑問にぶつかります。阿修羅はそもそも鬼の神。インドや中国など各地でつくられた像の多くは、すさまじい形相をしているものが多々あり、美少年のイメージから遠くかけはなれています。では、なぜ興福寺の阿修羅像が生まれたのでしょうか? 本書では、美少年が生まれるヒストリーの裏に隠された、人間のさまざまなドラマに迫ります。また、最近の研究により新事実の発覚した、東大寺不空羂索観音像との関係もクローズアップ。さらに、奈良の美仏も多数収録。奈良の仏像の「美しさ」を徹底的に解説。仏像好き必見の一冊です。[美術出版社サイトより]
写真画報
荒木経惟「淫夢」×佐内正史「撮っている」
ふたりの写真家を選出し、それぞれの作品をほぼ同じページ数で掲載する新しい表現スタイルの写真雑誌です。写真表現を拡張する可能性を探りつつ、写真家の本質を対比によって表出させます。特集ではインポッシブルのインスタントフィルムで撮影した新作を発表する荒木経惟と、ストレートで純粋な表現で挑む佐内正史のふたりを取り上げます。それぞれ60 ページに渡るボリューム満点の撮り下ろしの作品ページとインタビューは、見応え十分です。他に最新写真ニュースやブックレビューなどのコラムを掲載しています。
[玄光社サイトより]
地域を変えるソフトパワー
アートプロジェクトがつなぐ人の知恵、まちの経験
東日本大震災が起きる以前から、地域社会の疲弊に対して多くの振興策が実施されてきた。しかし、それらはじゅうぶんな成果を上げられなかった。公共事業による箱モノ行政や、大規模商業施設の誘致がいっときのカンフル剤として機能したとしても、高度成長期より徐々に進んできた地方の過疎化と大都市への一極集中は食い止められず、地域社会は疲弊したままである。そうしたなか、新たな地域再生の試みが少しずつ成果を上げ始めている。多様な地域資源を再活用し、人々のコミュニケーションを応援し、2000年以降地域コミュニティ再生に不可欠な存在として浮かび上がってきたのが、アートプロジェクトである。このアートを社会に開く活動は、地域における小さな拠点開発に長けており、大規模の施設を必要とせず、最小の投資を最大限に活かすことができる。私たちは、全国の様々なアートプロジェクトが備えているそんな機能を、「ソフトパワー」と名付けてみたいと思う。地域に暮らす、あるいは関わる人々の「もやもやとした思い」を受け止め、様々な実践へと展開していくこと。着実に成果を生んでいる各地の取り組みを取材し、一つひとつ紐解いてみたい。柔軟な社会変革、だからソフトパワーなのである。[地域を変えるソフトパワー特設サイトより]
建築映画 マテリアル・サスペンス
建築家・鈴木了二は、建築・都市があたかも主役であるかのようにスクリーンに現れる映画を「建築映画」と定義します。「アクション映画」、「SF映画」や「恋愛映画」といった映画ジャンルとしての「建築映画」。この「建築映画」の出現により、映画は物語から解き放たれ生き生きと語りだし、一方建築は、眠っていた建築性を目覚めさせます。鈴木は近年の作品のなかに「建築映画」の気配を強く感じると語ります。現在という時間・空間における可能性のありかを考察するために欠かすことができないもの、それが「建築映画」なのです。ヴァルター・ベンヤミン、ロラン・バルト、アーウィン・パノフスキーやマーク・ロスコの言葉にも導かれながら発見される、建築と映画のまったく新しい語り方。本書で語られる7人の映画作家たち:ジョン・カサヴェテス、黒沢清、青山真治、ペドロ・コスタ、ブライアン・デ・パルマ、二人のジャック(ジャック・ターナー、ジャック・ロジエ)。黒沢清、ペドロ・コスタとの対話も収録。[LIXIL出版サイトより]
2013/02/15(金)(artscape編集部)
梅佳代『のと』
発行所:新潮社
発行日:2013年4月25日
東京オペラシティアートギャラリーで開催された「梅佳代展」(2013年4月13日~6月23日)に合わせるかたちで、写真集『のと』が刊行された。以前この欄で、「そこに住む家族と故郷の人々を愛おしさと批評的な距離感を絶妙にブレンドして撮り続けているこの連作は、梅佳代にとってライフワークとなるべきものだろう」と書いたのだが、その直感がまさに的中しつつあることが、この写真集で証明されたのではないかと思う。
日付入りコンパクトカメラで撮影されている写真が多いので、撮影年月日を特定しやすいのだが、それを見ると2002年頃から13年まで、10年以上のスパンに達している。生まれ故郷の石川県能都町との関係は、100歳近い「じいちゃんさま」の存在もあって、梅佳代にとって特別濃いものなのだろう。これから先も長く撮り続けていくことになるだろうし、さらにシリーズとしての厚みを増すにつれて「撮れそうで撮れない」彼女の写真の希少価値が際立ってくるのではないだろうか。
とはいえ、梅佳代の『のと』では、多くの写真家たちが取り組んでいるような地域の特殊性が強調されることはほとんどない。冬の雪の光景や「能登のお祭り館 キリコ会館」のような珍しい場所が、たまたま背景として写り込んでいることがあっても、多くの写真にあらわれているのはピースマークを出してカメラに笑いかける中高生のような、日本のどの地域でもありそうな情景ばかりだ。誰が見ても既視感に誘われる写真ばかりなのだが、全体を通してみると「これが『のと』」としかいいようのないゆるゆるとした空気感が、しっかり写り込んでいることに気がつく。
植田正治の山陰の光景のように、梅佳代の『のと』も、ローカルでありながら普遍的な写真のあり方を指し示しているともいえる。こうなると日本以外のアジアやヨーロッパの観客が、これらの写真にどんなふうに反応するかも知りたくなってくる。
2013/02/11(月)(飯沢耕太郎)
『五十嵐太郎研究室アーカイブス2005-2012』
発行日:2013年01月
東北大学の五十嵐研の8年間の活動をまとめた全208頁の本、『五十嵐太郎研究室アーカイブス2005-2012』が完成した。10年という節目ではなく、これを制作したのは、いまがちょうど五十嵐研の第一期が終わった頃と判断したからである(あいちトリエンナーレ2013が始まる今年が第二期のスタートになるだろう)。家型、広場、窓学、温室、聖地などのリサーチ、ヴェネチア・ビエンナーレ、横浜トリエンナーレ、3.11以降の建築展などの設営、出版や執筆の企画、『ユリイカ』のOMA事典や『美術手帳』のSANAAキーワード、南相馬の仮設住宅地計画など、さまざまなプロジェクトを紹介している。ほかには、五十嵐研の学生による東京建築コレクションの最優秀、卒計日本一決定戦の日本二、同ファイナリスト3作品を含む、全国レベルでの評価を獲得した5作品も収録した。
2013/01/25(金)(五十嵐太郎)
カタログ&ブックス│2013年1月
展覧会カタログ、アートにまつわる近刊書籍をアートスケープ編集部が紹介します。
集落が育てる設計図 アフリカ・インドネシアの住まい
LIXILギャラリーで行なわれている「集落が育てる設計図–アフリカ・インドネシアの住まい」展のカタログ。本書では、50ヵ国500もの集落を実測記録してきたフィールドワークの中から、住居づくりの原点である「土」からなるアフリカと「木」からなるインドネシアのユニークな住まいを2本柱に、集落ごとの独自性と共通性を、味わいのある線描写の立体図面や平面図また写真を多用し、分かりやすく読み解いていく。調査リーダー・藤井明氏の丁寧な解説付きで、暮らしの原点に通じる英知と空間に潜む考察が繰り広げられる。調査に同行した元研究生らのインタビューも収録。建築家の目で行ってきたフィールドワークの成果を凝縮した一冊。
同展覧会は、2013年2月21日までLIXIL大阪ギャラリー、2013年3月6日〜5月25日にはギャラリー1(東京)にて行なわれる。
[LIXIL出版サイトより]
冥府の建築家 ジルベール・クラヴェル伝
幼少期の結核が元で宿痾をかかえたジルベールは、イタリア未来派の演劇活動として未来派演劇の監督、さらに「自殺協会」と題された幻想小説の作家であり、アヴァンギャルドにして、南イタリアはポジターノの岩礁を爆破し穿孔して建てた洞窟住居の建築家である。本書は、バーゼル、マッジャ、ローマ、ポジターノなど、スイスとイタリアの各地に分散した遺稿や資料を可能なかぎりすべて調査し、この知られざる特異な作家/建築家の生涯と妄執を辿り直した、世界でも初めての評伝である。
[書籍帯等より構成]
マグリット 光と闇に隠された素顔
日本人初のベルギー王立美術館公認解説者・森耕治氏による、マグリットの作品を新しい解釈で読み解いた作品解説書です。《光の帝国》《大家族》《ピレネーの城》といった日本でも有名な作品はもちろん、マグリットの人生を解き明かすうえでかかせないシュルレアリスム以前の作品や、これまで日本では画集に掲載されたことのない貴重な作品なども収録した、画集としても充実の1冊です。作品のほかに、当時のモノクロフィルムや、現在のマグリットゆかりの地の写真も豊富に掲載! “イメージの魔術師”の異名を持つマグリットが追い求めたもの。それが人類普遍の願いであることに、あなたもきっと驚くはずです。
[マール社サイトより]
TOKYO INTELLIGENT TRIP 02 TOKYO研究所紀行
最先端科学から宇宙研究、暮らしの最新技術まで実際に訪れて、見学できる研究所を集めました。ほんの少し先の未来を感じられる場所へ、小さな旅に出かけてみませんか。
「TOKYO図書館紀行」に続く、TOKYO INTELLIGENT TRIPシリーズ第2弾!!
好奇心が刺激される最新研究所を紹介します。福岡伸一、枝廣淳子書き下ろしエッセイ、べつやくれい研究所コミック、瀬名秀明、福江翼インタビューなども収録。
最新の研究を知ることができる、これまでになかった研究所ガイドです。
[玄光社特設サイトより]
7iP♯03 KOJI KAkiuchi
建築を完成させるまでの行程を丁寧に繙いていきました。
プロジェクトによって変化する建築家の考え方、 作り上げるための構造、設備、施工のアイデア。クライアントをはじめ、携わる人とのコミュニケーション… 1つのプロジェクトだけを特集した本。
1冊で1プロジェクト、シングル盤のような本をつくりました。
この目的のもとすすめられる7inchProjectの第3弾。100年前から建つ京都の町家を、垣内光司と素人である施主(作り手=住み手)が ゼロから作り上げていくプロセスを通して、DIYの社会性とその未来を探る。
[7inchiprojectサイトより]
TOKYO BOOK SCENE
読書体験をシェアする。新しい本の楽しみ方ガイド
本書は、“新しい読書体験のビギナー”に向け、東京近郊の「本を介したコミュニケーションの場」を紹介するブックカルチャーガイドです。気になる個性派本屋、おしゃれなブックカフェはもちろん、それぞれ課題図書を読んできて、感想を話し合う読書会、珍しい本との出会いに誘う古本市など…。
これまでは読書と言えば、個人で楽しむものでしたが、最近はSNSなどを通じて“みんなで本を楽しむ”新しい読書スタイルの提案などもしています。
本好きの方はもちろん、新しいブックカルチャーに触れてみたい方、知的な趣味を探している方などにも、ぜひ手にとっていただきたい一冊となっています。
[玄光社サイトより]
2013/01/15(火)(artscape編集部)