artscapeレビュー
デザインに関するレビュー/プレビュー
東洋+西洋=伊東忠太──よみがえった西本願寺「伝道院」
会期:2012/06/09~2012/07/08
大阪くらしの今昔館[大阪府]
19世紀ヴィクトリア朝的なレンガと石造りの外装、イスラム風のドーム屋根とアーチ型の窓、そして洋館風の木造階段が印象的な内装。とても不思議な建物だ。しかもその建物があるのは京都市下京区。京都の町にイスラム風ヴィクトリア朝建築とは、おかしいといえばおかしいし、大胆といえば大胆だ。それは西本願寺伝道院で、設計者は伊東忠太(1867-1954)である。東京帝国大学教授で建築家だった伊東は「建築進化論」をもとに、「新しい日本の様式建築」を探し求め、東洋と西洋を折衷した独特な様式の建築を残している。彼のいう「建築進化論」とは、建築も生物のように進化していくのが自然で、伝統的な建築に新たな造形を加え、独自の様式へと「進化」させることのようだ。伝道院を中心に伊東忠太が手がけた建築作品や関連資料を紹介し、その建築思想を再考する展覧会である。[金相美]
2012/06/14(木)(SYNK)
ザ・タワー──都市と塔のものがたり
会期:2012/05/23~2012/07/16
大阪歴史博物館[大阪府]
先日、電波塔として世界一の高さを誇る「東京スカイツリー」が開業し注目を集めた。7月には大阪のシンボルタワー「通天閣」が開業100周年を迎えるという。同展は、このふたつのビックイベントにあわせて企画されたもの。エッフェル塔、東京タワー、通天閣など、19~20世紀にパリ、東京、大阪の3都市に建設された、近代を代表する塔が展示の中心となっている。予想通り、会場には塔の模型、設計図、関連資料、絵葉書などの記念品が紹介されていたが、なかでも目を引いたのは、塔を画題にした錦絵と、昭和30、40年代に発行された通天閣の観光葉書や東京タワーの案内パンフレット。時代を感じさせるどこか懐かしいデザインが多いが、高級車の前でポーズをとる若い女性をローアングルで撮った写真を表紙で大きく使用するなど、いま見ても斬新な構図の写真やレイアウトもあって興味深い(極端なローアングルは、東京タワーを写し入れるために必要だったかもしれないが)。また、二科展で入選暦のあるプロの画家が表紙や挿絵を手がけたものもあるようだ。企画者は「塔が街の中に建つことで、人は上から見下ろすという視点を得て、街全体を把握できるようになった。塔は人と街を結びつけるメディアである」という。塔は街の風景や生活を変えるだけでなく、人々の知覚パターンまでも変えてしまうのだ。同展は、塔と街と人との関わりを問いかけるものである。[金相美]
2012/06/07(木)(SYNK)
第7回ベルリン・ビエンナーレ
会期:2012/04/27~2012/06/01
KW Institute for Contemporary Art[ドイツ・ベルリン]
政治色を強く打ち出した過激な内容で話題になったのが、ベルリン・ビエンナーレである。メイン会場のエントランスには、ここはミュージアムではなく、活動の場なのだと書かれており、あちこちにアジテーションのチラシが貼られ、絶えず討議が行なわれていた。学生運動が盛んだった頃の大学のキャンパスのような雰囲気であり、個人的には駒場寮の空間が思い出される。次のビエンナーレのディレクターは動物にやらせろ、といった落書きで埋め尽された元教会の会場も強烈だった。巨大画面に投影された妊娠から出産までのジョアンナ・ラジコフスカによる映像作品《born in berlin》は、ただのプライベートな出産ビデオのようでもあり、これもアートか? という古典的な問いを発する。もっとも印象的だったのが、道路を黒い壁で遮断した作品だ。本当によく実現させたと感心したのだが、車の交通を止め、しかも街の階層の差も可視化している。その結果、この壁はまわりの憎悪を引き受け、落書きだらけになっていた。実際、この作品は広く物議をかもし、近くの商店の売上げも落ちたことから、会期の終了を待たずに撤去される。だが、与えられたハコの中で60年代の熱気を再現したような他の作品や活動に比べて、社会と直接的に向きあい、破壊されたという点において黒い壁の試みを評価したい。ベルリン・ビエンナーレのキュレーターであり、美術家のアルチュール・ジミエフスキーと面会する機会を得たが、アートはツールだと言い切っていた。
写真:上=落書きだらけの教会、下=道路を遮断した黒い壁
2012/06/02(土)(五十嵐太郎)
VITSŒ ディーター・ラムスがデザインした美しい棚
会期:2012/05/16~2012/06/11
デザインギャラリー1953[東京都]
ブラウン社のデザイナーとして活躍し、さまざまな家電製品のデザインを手掛けたディーター・ラムスのもうひとつの仕事が、VITSŒ(ヴィツゥ)社の家具デザインである。ヴィツゥはラムスがデザインした家具をつくるために、1959年にニールズ・ヴァイス・ヴィツゥとオットー・ツァップが設立した会社である(当時はVitsœ + Zapf)。1960年にラムスがデザインした606 Universal Shelving Systemは、アルミ製の支持具を壁に取り付け、そこに棚やキャビネットなどを自在に設置できる製品である。シンプルな構造で、組み上がった姿はとても美しい。基本的な構造は変わらないので、過去の製品にあたらしい棚を追加することもできる。同様のコンセプトによるユニット家具はこれまでにも多数つくられてきたが、現在まで50年以上にわたって共通の仕様でつくられ続けている点で606は特筆すべき存在であろう。また、ブラウンにおけるラムスのデザインはチームワークで行なわれていたが、ヴィツゥでの仕事はブラウンでの仕事以上にラムスの思想──Less, but better──が徹底しているとも言える。
家電製品で利用される技術は変化が激しく、長期にわたって同じものを作り続けることは難しい。業界の変動も激しく、ブラウンは1980年代にはオーディオ製造を止め、1984年にジレットの子会社に、2005年にはP&G傘下になり、シェーバーを中心とした製品を製造する企業へと変わった。ヴィツゥが変わらない製品を作り続けることができるのはそれが家具だからとはいえ、その姿勢は使い捨てされないものづくりに対するひとつの答えである。[新川徳彦]
2012/06/02(土)(SYNK)
WITHOUT THOUGHT Vol.12「手を洗う|WASHING HANDS」
会期:2012/05/24~2012/06/03
アクシスギャラリー シンポジア[東京都]
「WITHOUT THOUGHT」とは「思わず……」の意味。人々の無意識の行動をテーマとして、プロダクト・デザイナー深澤直人がディレクションするワークショップの作品展である。2000年から始まったワークショップの12回目のテーマは「手を洗う」。参加者はさまざまな企業で働く現役のデザイナーたちである。蛇口のハンドルの形をしたスチールソープ、せっけんのかたちをしたブラシやミラー、それらを文様化した手ぬぐいなど、手洗いに用いる道具をメタファーとしている作品もある。腕時計や指輪を外して脇に置く、ネクタイが濡れないように胸ポケットに押し込む等々、手や顔を洗うときに無意識のうちに行なっているしぐさを形や文様に落とし込んだデザインもある。かたち、色、柄、触感が人々に「手を洗う」ことを想起させ、その仕掛けに気づいたときに「思わず」微笑んでしまう。ものと人との自然な共生関係を示す優れた提案の数々であった。[新川徳彦]
2012/06/02(土)(SYNK)