artscapeレビュー
VITSŒ ディーター・ラムスがデザインした美しい棚
2012年07月01日号
会期:2012/05/16~2012/06/11
デザインギャラリー1953[東京都]
ブラウン社のデザイナーとして活躍し、さまざまな家電製品のデザインを手掛けたディーター・ラムスのもうひとつの仕事が、VITSŒ(ヴィツゥ)社の家具デザインである。ヴィツゥはラムスがデザインした家具をつくるために、1959年にニールズ・ヴァイス・ヴィツゥとオットー・ツァップが設立した会社である(当時はVitsœ + Zapf)。1960年にラムスがデザインした606 Universal Shelving Systemは、アルミ製の支持具を壁に取り付け、そこに棚やキャビネットなどを自在に設置できる製品である。シンプルな構造で、組み上がった姿はとても美しい。基本的な構造は変わらないので、過去の製品にあたらしい棚を追加することもできる。同様のコンセプトによるユニット家具はこれまでにも多数つくられてきたが、現在まで50年以上にわたって共通の仕様でつくられ続けている点で606は特筆すべき存在であろう。また、ブラウンにおけるラムスのデザインはチームワークで行なわれていたが、ヴィツゥでの仕事はブラウンでの仕事以上にラムスの思想──Less, but better──が徹底しているとも言える。
家電製品で利用される技術は変化が激しく、長期にわたって同じものを作り続けることは難しい。業界の変動も激しく、ブラウンは1980年代にはオーディオ製造を止め、1984年にジレットの子会社に、2005年にはP&G傘下になり、シェーバーを中心とした製品を製造する企業へと変わった。ヴィツゥが変わらない製品を作り続けることができるのはそれが家具だからとはいえ、その姿勢は使い捨てされないものづくりに対するひとつの答えである。[新川徳彦]
2012/06/02(土)(SYNK)