artscapeレビュー
天貝義教『応用美術思想導入の歴史──ウィーン博参同より意匠条例制定まで』
2012年02月01日号
近年、明治期のデザインおよび美術に関する諸研究がますます充実してきている。本書は、ヨーロッパから明治初期の日本に導入された「応用美術思想」の展開を論じた大著。「美術を製品に応用する」という思想が、1870年代初頭のウィーン万博参加から80年代末の意匠条例制定までの期間、美術・工芸界においていかに指導的役割をはたしたかについて、綿密な国内外の資料分析に基づき論述されている。「応用美術思想(英:fine arts applied to industry、独:Kunstgewerbe)」の意味するところは、当時に記された「美術を工業に利用する事、即ち実用と佳美を兼ねしむるに在り」。本書は、外来語「デザイン」の語義が日本で定着をみる以前、「美術」が「工芸」との関わりにおいて注目されていた事実だけでなく、「美術」と「工芸」の分化およびその関係性が変化してゆく以後の行方をも提示している。これらの今日的な諸問題を考え合わせて読み進めると、たいへん示唆に富む研究書である。[竹内有子]
2012/01/15(日)(SYNK)