artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

第6回 金の卵 オールスター デザイン ショーケース

会期:2011/08/25~2011/09/04

AXISギャラリー[東京都]

共通テーマは、「日常/非常 ハイブリッド型デザインのすすめ」。東日本大震災をふまえ、非常時にデザインにはなにができるのかについて、学生たちが提案する。
 多くの人々は日常の利便性を大きく損なってまで非常に備えることをしないし、できない。国家単位でも、家庭単位でも、個人単位でも、起こりうるかもしれない非常事態に対しては、日常とのコストのバランスを考えながら備えることになる。
 そこで「ハイブリッド型デザイン」である。つまり、日常における利便性を持ちながらも、非常時にはそれに対応しうる複合的な機能を持つデザインであれば、わずかな追加コストで非常に備えることができる(はずである)。ローソクとしても使えるクレヨン、簡単な操作でパーティションに変形できる学習机など、さまざまなアイデアが光る。プロダクトによる提案ばかりでなく、知識や知恵の伝達をデザインする試みもある。非常時には手元に残された品でさまざまな事態をしのがざるをえない。「活用マーク」は、レジ袋やガムテープなどのありふれた日用品を非常時に応用するためのさまざまな使いかたを示すもの。ほとんどコストをかけずに、あらゆるものをハイブリッドなプロダクトに変えてしまおうという優れた提案である。また、殺伐となりがちな被災地での食事の風景に暖かさを演出する「はなぜん」など、非常を日常に引き戻すためのプロダクトにも優れた発想が見られた。
 本展は神戸にも巡回する(2011年10月8日~16日、KIITO[神戸商工貿易センタービル26階])。[新川徳彦]

2011/09/04(日)(SYNK)

東京ミッドタウン・デザインハブ特別展 「CODE:ポスターデザイン・コンペティション」受賞作品展

会期:2011/08/31~2011/09/05

東京ミッドタウン・デザインハブ[東京都]

ユネスコが2004年に開始した「創造都市ネットワーク」事業において、「デザイン都市」と指定された世界7都市(ベルリン、ブエノスアイレス、神戸、モントリオール、名古屋、上海、深圳 )が参加したポスターデザイン・コンペティションによって選ばれた作品の展覧会。テーマの「CODE」は、City of Designを意味すると同時に、それぞれの都市が持つ固有の「コード」も意味するという。都市ごとに10点ずつ、70点のポスターを展示する。
 都市の住民たちは、自分たちの住む街の特徴を明確に認識しているとは限らない。しかし、それぞれの都市の人々の持つ漠然としたイメージを他の都市と比較すると、その特徴があらわになってくる。7つの都市のデザイナーたちによって描かれた都市のイメージは、個々の作品として見ると違いが目立つが、他の都市の作品とともにひとつの会場に展示されることで、それぞれの都市固有のイメージ、すなわちコードが見えてくる。名古屋は海老フライやしゃちほこなどの物質文化、ベルリンのポスターは統一されたフォーマットが印象に残る、といった具合である。
 本展は、もともと深圳で開催された展覧会をそのまま巡回したものであると思われるが、日本側はこの展示に関わっていないのであろうか。展示やリーフレットの説明が非常にわかりづらい。コンペティションの経緯もよくわからないし、ここに現われた都市のコードがデザイナーたちによる自然なイメージの集合なのか、それとも選考委員によるバイアスがあるのかどうかもわからない。興味深い企画であるだけに、その点が残念である。[新川徳彦]

2011/09/03(土)(SYNK)

Picturing Plants: Masterpieces of Botanical Illustration(植物の描写──植物画の傑作)

会期:2011/02/05~2011/09/15

ヴィクトリア&アルバート美術館 ギャラリー88a,90[ロンドン]

同館は1856年の創立以来、「植物画(Botanical Illustration)」を収集してきたという。なぜかと言えば、ひとつはそれら木版画の製作過程および製本術を参照するため、もうひとつが描かれた植物が装飾デザインのパターンブックとして機能したためであった。そもそも植物画とは博物学的関心から生じたのであるが、時代が進むにつれて用途に応じたさまざまなタイプが生まれ展開してきた。植物学的分析用、新種発見にともなう記録用、園芸学用から、装飾用のものまで。そして植物画は観賞用の「アート」としても次第に確立されていく。例えばヨハン・ジェイコブ・ヴァルターの《ボタン》は、学問的追究によって植物の正確な描写を目指したのではなく、明らかに装飾目的で描かれている。実際のボタンではありえないほどの細い茎、花の配置は美的に構成されているからだ。本展は、植物画の描かれる目的、社会的コンテクスト、印刷技術の発展、これらが植物画の発展といかなる影響関係にあったかについて考えさせる、非常に良い試みであった。ウィリアム・モリスが草花のデザイン研究のために植物図譜を参考にしたことは知られているが、彼のみならず、19世紀後期のデザイナーたちは「自然」を新しい装飾源に求めた。本展の植物画を見た後、さまざまな装飾デザイン製品を実際に比較・鑑賞できるのは、世界最大級のデザイン・美術コレクションを誇る、ヴィクトリア&アルバート美術館ならではの僥倖だった。[竹内有子]


図版:ヨハン・ジェイコブ・ヴァルター《ボタン》、1650-70年頃、V&A所蔵

2011/09/02(金)(SYNK)

伊万里焼の技と粋──古伊万里で学ぶやきものの“いろは”

会期:2011/07/03~2011/09/25

戸栗美術館[東京都]

1610年頃に誕生した伊万里焼(古伊万里)の、初期から江戸後期までの変遷・発展を解説する入門向けの展覧会。陶器と磁器の違いの解説からはじまり、時代による技法、型、絵付の変化を見る。もとより伊万里焼は個人作家の芸術ではなく、多数の窯、分業体制により生産された実用的な食器、商品であり、その用途や意匠はつねに市場の需要を反映したものである。それゆえここでの展示も表面的な変化を追うばかりではなく、そのような変化を生じさせた社会経済的な背景、市場における変化までをも含めた解説が付されていて、たいへんにわかりやすい。古伊万里の意匠については海外への輸出によってヨーロッパの陶磁器に与えた影響が強調されることが多いが、公式な輸出が行なわれたのは17世紀末の30年に満たない期間であり、国内需要が様式の変遷に与えた影響はずっと大きいはずである。今回の展覧会では江戸時代の日記や小説、絵画を手掛かりに、生活のなかに見られる伊万里焼の姿や町民文化への影響という側面にも焦点を当て、体系的な説明を試みている。[新川徳彦]

2011/08/20(土)(SYNK)

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あこがれのヴェネチアン・グラス──時を超え、海を越えて

会期:2011/08/10~2011/10/10

サントリー美術館[東京都]

皇帝の愛したガラス」展(東京都庭園美術館、2011年7月14日~9月25日)が、ヨーロッパにおけるガラス工芸の歴史を追う構成になっているのに対し、本展は15世紀を起点にヴェネチアン・グラスの技法や様式がヨーロッパ各地のガラス工芸へ与えた影響を探る。それゆえ、展示の中心はヴェネチアン・グラスへの「あこがれ」のもとに成立したヨーロッパや日本のガラス工芸である。「あこがれ」は技術や様式の模倣となって現われるが、そのありようは地域によって異なる。オーストリアやネーデルラントでは外見もヴェネチアン・グラスに似た製品がつくられる一方で、ドイツやスペインでは技術を取り入れつつそれぞれの地における美意識に基づく新たな美がつくられていったという。16世紀から19世紀前半までにヨーロッパの他の産地に押されて衰退していたヴェネチアン・グラスが、19世紀後半に自らの古典をリバイバルさせたり、ヨーロッパの他の産地の様式を取り入れていったという点はとくに興味深かった。陶磁器の歴史にも見られるが、技術や様式は一方的に伝播するのではなく、相互に影響を与えあい、発展していくものだということがよくわかる。
 展覧会最後のコーナーでは日本人を含む現代のガラス作家とヴェネチアとの関係を見る。様式の点でヴェネチアン・グラスを引用する作家もいるが、蓄積された技術を自らの作品に援用する者もおり、その関わりかたはさまざまである。ガラス作家というよりもデザイナーとしてイメージをつくり、制作をすぐれた職人の手に委ねる者もいる。他方で、ヴェネチアのガラス会社も外部のデザイナーを起用して新しい作品づくりに挑戦してきた。「あこがれ」の相互関係をここにも見ることができよう。[新川徳彦]

2011/08/19(金)(SYNK)

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