artscapeレビュー
デザインに関するレビュー/プレビュー
[ジー ジー ジー ジー]グルーヴィジョンズ展
会期:2011/08/04~2011/08/27
ギンザ・グラフィック・ギャラリー[東京都]
重たいガラスの扉を開けて中に入ると、新しいシナベニヤの匂い。白い絵がプリントされたベニヤ板が床に並べられ、周囲の壁にも重ねて立てかけられている。誰もいない。しまった、まだ設営中だったか、とあわてて手元のチラシで日付を確認するとそんなことはない。もう始まっている。ギンザ・グラフィック・ギャラリーの個展は1階が実験的な新作、地階が過去の作品というパターンが通常であり、今回もこれがグルーヴィジョンズの新作だったのだ。1階はたまたま無人だったが、地下に下りると数人の観覧者がいた。
地下のL字型の展示室の床には部屋の形に合わせたL字型のベニヤの台が設置され、彼らの作品が所狭しと並べられている。チャッピー以外にも、こんな仕事も、あんな仕事もグルーヴィジョンズだったのか。スポットライトの光が当てられたシナベニヤの島に作品が浮かび上がる。壁面にはなにもない。ベニヤの上、黒い太い輪郭線に囲まれた中に、作品や、モーショングラフィックを見せるiPadが配され、ベニヤに直接キャプションが付されている。一見無秩序に並べられているかのようにみえる作品群であるが、その配置は計算されたもの。自他数々の展覧会をディレクションしてきたグルーヴィジョンズ。この展覧会も彼ら自身の企画であり、これまでの仕事を紹介する作品展でありながらも、彼らの世界、彼らの仕事をプロモーションするための優れた新作なのである。[新川徳彦]
2011/08/09(火)(SYNK)
インディゴ物語──藍が奏でる青い世界
会期:2011/07/14~2011/09/27
神戸ファッション美術館[兵庫県]
神戸ファッション美術館は、海外の美術館に行かなければ見られないような古今東西の服飾史を、日本に居ながらにして辿ることができる貴重な施設だ。ファッション教育というポリシーに基づく常設展示は、美術館の本来の姿をそこに見るようでじつに清々しい。今回の特別展示は、「青」の色をテーマに、同館所蔵品および、現代の藍染め、ジーンズ、中国少数民族の青い衣装等を展示し、服飾文化における「青」の広がりを見出そうとする試みである。
会場に入ると、京都の現役作家、新道弘之氏による「藍の空間」が立ち現われる。白い布に吹矢で30回ほど藍の染料が吹きつけられ、たゆたうように浮かぶ群青の染み。どこまでも深いその青は、見ているとその深奥に吸い込まれていくかのようだ。続くふたつの部屋では、ステュディオ・ダ・ルチザンの創業者である田垣繁晴氏・小夜子氏のジーンズ・コレクション、そして研究者の柴村惠子氏により寄贈された中国少数民族の衣装コレクションが展示される。世界の服飾文化のふたつの極を象徴するようなコレクションを続けて観る経験は、微妙な色合いに対する人間の意識が、文化によりどのように異なるのかを改めて認識する機会となった。最後の大きな部屋では、所蔵品を中心とした東西のさまざまな時代の衣装が華やかに並び、観客を出迎える。
本展入口前のスペースでは、神戸ファッション美術館と大阪樟蔭女子大学による「学館協働事業展」も開催されていた。これは、同大学が美術館の所蔵品を借用してその制作方法等を研究し、復元品や型紙をつくる事業である。8年目の今回は19世紀のマドレーヌ・ヴィオネのデイ・ドレスの復元等が行なわれた。詳細な研究報告書とともにレプリカや型紙を見る経験はめったになく、じつに興味深かった。デザイン研究においてファッション研究はもっとも難しい分野とされるが、それだけに、充実した常設とライブラリー、資料室を携えた本館の存在は頼もしい。[橋本啓子]
2011/08/07(日)(SYNK)
ミケランジェロ・ピストレット「The Mirror of Judgement」
会期:2011/07/12~2011/09/17
サーペンタイン・ギャラリー[ロンドン]
現代アートを専門とするサーペンタイン・ギャラリーでは、ミケランジェロ・ピストレットの展覧会が開催されていた。ピストレットは、アルテ・ポーヴェラとコンセプチュアル・アート双方の主導的なアーティストと見なされている。彼は1960年代後半から、日常的な「もの」が、思想や表現を通じていかにしてアートに変容するのかについて興味を抱いてきた。今回の個展のテーマは、「鏡」。会場に入って驚くのは、子どもの背の高さほどもある、波打つように巻かれた段ボール紙によって、迷路がつくられていることだ。来場者はそのサイト・スペシフィックな、曲がりくねった通路を回遊してゆく。ふと目をやると、ギャラリーの窓から見える緑豊かな風景とこの空間が連結していることに気付く。そうしているうちに、節々で、大きな鏡を用いたさまざまなインスタレーションに出くわす。「鏡」とそれに自ら向き合うように置かれた仏像のほか、四つの宗教に関連したもの。ギャラリーの天窓から見える空を映す「鏡」の池。「鏡」による大きなオベリスク等々。それらの鏡に映し出されるのはまぎれもなく、立ち止まる観者自身である。標題となっている「判断の鏡」とは、まさに、展示の一部となって他者から見詰められ、自分によってまた見詰め返される来館者自身なのである。いわば、外なる自分と内なる自分に相対して、彼/彼女はしばしたじろくことになるのだ。敷地の隣にある「パヴィリオン」の閉じたようでいて静かに開放されていたズントー建築と、一見開かれているように見えながら鑑賞者の内面を突きつけるような本展との対照が──ともに内省的空間を形成しているとはいえ──印象的であった。[竹内有子]
図版キャプション:展示風景、© 2011 Sebastiano Pellion
2011/08/03(水)(SYNK)
サーペンタイン・ギャラリー・パヴィリオン2011
会期:2011/07/01~2011/010/16
サーペンタイン・ギャラリー[ロンドン]
筆者はいま英国滞在中のため、今月と来月の記事はロンドンからお送りしたい。ロンドンの夏の風物詩、サーペンタイン・ギャラリーのパヴィリオンへ行ってきた。このパヴィリオンは、同ギャラリーの隣接地に毎年夏季限定で設営される仮設の休憩所。2000年のザハ・ハディドに始まり、3期目が伊東豊雄、一昨年はSANAAが担当しており、当代のもっとも旬な建築家が招かれることで知られる。そして今年は、スイス人建築家ピーター・ズントー。写真のとおり、外観は一見、矩形の黒い箱のような建築。入口/出口は表と裏に三つずつある。入るとそこは薄暗いアーケード、建物の外周に沿った矩形状の回廊である。そこから別の入口へとさらに歩みを進めると、突然明るい庭が現われる(歴代のパヴィリオンで初めての試み)。そもそも同ギャラリーは、ハイド・パークに続くケンジントン・ガーデンズという公園/庭園の中にあるから、そこにもうひとつの小さな庭をつくるズントーの発想はたいへん興味深い。庭の形もまた長方形で、植えられているのは野の草花といった趣。それを囲むように、矩形の喫茶用空間が現出する。庭の上部分は吹き抜け、喫茶用のテーブル・ベンチと椅子が並んだ部分には、庇が低く架けられている。まるで日本の寺社ないし家屋の縁側にいるようだ。後で知ったが、パヴィリオンのテーマは、「瞑想の場所」であるそう。この中央に位置する庭のある場所に入ることで、ロンドンの喧騒から離れて心を落ち着ける。そこに座って、また庭の周りを歩いて、静かに各自が思いを馳せるのだ。してみれば暗い回廊部分は、内部の瞑想空間に入るために一呼吸置く場所と解される。ズントー建築のもつ深い精神性に感じ入ったひとときだった。[竹内有子]
図版キャプション:パヴィリオン外観、© Peter Zumthor, Photograph: Hufton+Crow
2011/08/02(火)(SYNK)
日本のアニメーション美術の創造者:山本二三展
会期:2011/07/16~2011/09/25
神戸市立博物館[兵庫県]
アニメーション美術監督・背景画家の山本二三(1953- )の回顧展。初期作品から近作までの背景画180点を展示中だ。背景画とは、アニメーションに登場するキャラクター以外の、すべてのバック絵のこと。「スタジオジブリ・レイアウト展」や「ディズニー・アート展」など、制作会社や作品そのものに関する展示はしばしば目にすることができるが、背景画だけの展示はまだ珍しく、正直なところ原画展とも、絵画展とも、デザイン展とも、その区別は難しい。山本が描いた、名もない「風景」が観客を迎えるだけ。だが、その風景は観客を惹きつけてやまない。作品への記憶のためなのか、優れた描画能力のためなのかはわからない。それは人それぞれだろうから。
「風景とはすべてのものを主役にするだけの特化さえも拒む価値です(…中略…)多くの人が山本作品に引き込まれ、それぞれの物語を覚え、脳裏に焼き付けるのでしょう。描かれた風景が地となり背景となる時、私たちの記憶は初めて心のどこかに現れてくるのですから」(展覧会図録より)[金相美]
2011/07/26(火)(SYNK)