artscapeレビュー

デザインに関するレビュー/プレビュー

香りをイメージする香水瓶 展

会期:2011/07/16~2011/09/11

ポーラ ミュージアム アネックス[東京都]

ポーラミュージアムのコレクションによる、19世紀末から1940年代までの香水瓶の展覧会。エミール・ガレやルネ・ラリックを中心に、メーカーオリジナルのデザインも取り上げている。
 展示の切り口がとてもユニークである。ふつうならば、これらの作品は作家や制作年代などによって分類されるところであろうが、ここではそのような歴史的な文脈はいったん置いておいて、モチーフやフォルムの別──植物・動物・身体表現・幾何学──によってまとめられている。香水瓶は香りという目に見えない存在を封じ込めつつ、目に見える造形によって人々の香りへのイメージと期待とを高める。カタチに着目することで、美しいパッケージに同時代の女性たちが魅了されたであろう姿が想像される展覧会となっている。[新川徳彦]

2011/08/18(木)(SYNK)

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民都大阪の建築力

会期:2011/07/23~2011/09/25

大阪歴史博物館[大阪府]

大阪歴史博物館の開館10周年を記念して、大阪の近代建築を図面や写真、関連什器等により紹介する展覧会。大阪の近代建築についてはこれまで多数の学術書や書籍が刊行されており、展覧会も幾度となく開催されている。それほどポピュラーであるだけに愛好者の目も厳しいテーマだが、本展では建築家ごとに作品を見せるという定番のやり方ではなく、大阪の学区制度と学校建築との関連性、ゼネコンが独自に作成した透視図、現存建築のオーナーや現代美術家によるユニークな保存活動といった新たな視座からこのテーマに取り組んでいる。これらの学際的な視座から提示される興味深い事実は、この分野がけっして研究し尽くされたものではないことを再認識させた。だが、切り口がユニークなだけに、一つひとつのコーナーがもう少し掘り下げた内容であればなお良かっただろう。一般に普及し、専門家も多いテーマだけに、誰にでもわかる展示という博物館の慣例を破ってしまっても良かったのではないか。大阪育ちではない筆者にとって多少残念だったのは、本展には作品の場所を記した地図や、現存する建物であるか否かについての情報が見当たらなかったことだ。東京と異なり、現存する近代建築が少なくない大阪の街は、外部の人間から見ればすこぶる魅力的だからである。数はけっして多くないものの、ガラスの1枚1枚に意匠が施された旧鴻池本店の豪奢なステインドグラスや生駒ビルヂングの日本版アールデコの照明器具、村野藤吾のデザインによるカフェの什器等、工芸・デザインの展示品も興味深かった。[橋本啓子]


《旧鴻池本店ステインドグラス》大正3年(1914年)株式会社鴻池組蔵

2011/08/15(月)(SYNK)

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視覚の実験室──モホイ=ナジ/イン・モーション

会期:2011/07/20~2011/09/04

京都国立近代美術館[京都府]

視覚芸術において20世紀前半ほど革新的な時代があっただろうか。本展は、美術家、写真家、グラフィック・デザイナー、そして教育者として変革の時代を駆け抜けた、モホイ=ナジ・ラースロー(1895-1946)の全貌を紹介するもの。モホイ=ナジは、1923年から1928年までのあいだにドイツのバウハウスで教育や出版企画に携わっていたことから機能主義デザイン思想家として、または彼自身の作品や人的交流を根拠に20世紀前半の前衛的芸術家として注目されることが多い。だが、彼の活動は特定の主義や様式からではなく、新しい時代(技術)にふさわしい、新しい視覚表現を探す過程として評価されるべきである。今日の私たちにとっては大して新しくもなく、個人的にはそれほど魅力的な作品とも思えないが、その意義を考えるとやはり感無量だ。国内外の美術館はもちろん、遺族所蔵のコレクションまで、未公開作品を含む、300余点が紹介されている。神奈川県立近代美術館に続く巡回展。[金相美]

2011/08/14日(日)(SYNK)

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皇帝の愛したガラス

会期:2011/07/14~2011/09/25

東京都庭園美術館[東京都]

エルミタージュ美術館に収蔵されているヨーロッパ・ガラス工芸の優品190点を展示する。コレクションは15世紀ヴェネツィアの作品から始まり、ボヘミア、イギリス、スペイン、フランス、ロシアなど各地の製品を網羅し、ヨーロッパにおけるガラス工芸の歴史を俯瞰する構成になっている。ヴェネツィアやフランスのガラス工芸を見る機会は多いが、今回の展覧会ではロシア帝室ガラス工場(1777年創設、1792年国有化)の作品を含め、これまで日本では体系的に紹介されることがなかったロシアのガラス芸術を見ることができる。充実したコレクションであり、サントリー美術館の「あこがれのヴェネチア・グラス」展(2011年8月10日~10月10日)と併せて見ると、ヨーロッパにおけるガラス工芸の発展をより深く知ることができると思う。
 実用的な形態をもつ出品作がほとんどのなかで、異彩を放っていたのはガラスのモザイク画である。19世紀初頭のミラノと、1820~30年代にロシアで制作された作品が出品されているが、とくにミラノのものは、油彩画と見間違えるほどの表現を微小なガラス片の組み合わせによってつくりあげた驚異的な作品である。
ロシアの王族や貴族たちは古くからヨーロッパのガラス工芸を収集してきたが、エルミタージュ美術館にガラス工芸が収蔵されるようになったのはようやく19世紀後半になってからのことだ。その後ロシア革命によって貴族たちの旧蔵品がエルミタージュに集められた一方で、新しい作品のコレクションは一時的に停止。ガレやドームなど20世紀初頭におけるガラス工芸のコレクションが充実したのは、1970年代以降のことだという。このような背景を考えると、コレクションは作品が生み出された時代の価値観によってではなく、後代の芸術観を基盤に形成されたと考えてよいのであろうか。
 東京都庭園美術館は、この展覧会のあと建物公開(東京都庭園美術館建物公開「アール・デコの館」、2011年10月6日~10月31日)を経て11月から長期改修工事に入る。旧朝香宮邸を転用したこの美術館は小さな展示室が多く、混雑しているときには作品を見づらいこともあったが、今回のガラス工芸のように展示作品によってはアール・デコ様式の内装が他の美術館にはないすばらしい効果を発揮していた。改修の詳細は未定とのことであるが、リニューアル後も引き続きこの場所で優れた工芸品を見ることができれば嬉しい。[新川徳彦]

2011/08/11(木)(SYNK)

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The Search 2 Feel the Paper

会期:2011/07/11~2011/08/12

見本帖本店[東京都]

花束のためのパッケージ(柿弓子)、山を描き、記録するためのノート(鯉沼恵一)、小さな四角いドットをくり抜いてオリジナルの模様をつくることができるポチ袋(甲田さやか)、紙の破れを楽しむカレンダー(小玉文)、イニシャルの入った紙の小箱(小比類巻蘭)、革細工のような立体感のあるしおり(佐々木未来)、組み立て式の照明器具(下田健斗)、エンボス加工と箔を用いて表現した昆虫がプリントされたレターセット(徳田祐子)、紙の厚みとざらつきを生かし、めくる楽しさを内包した絵本(中村聡)。9人の若手デザイナーたちが、紙、印刷、加工技術を用いて新しい表現を試みる。
 デザイナーの感性を技術や素材によってサポートする試みとしては、凸版印刷のグラフィックトライアルとも似ているが、グラフィックトライアルに参加するデザイナーが第一線で活躍するベテランであるのに対して、こちらは若手デザイナーが対象である。そして、グラフィックトライアルが技術的な制約を超えた新たな可能性を目指しているのに対して、ここでは技術の可能性と制約の双方を知ることに目的があるようだ。制約の最大のものはコストのようで、制作をサポートした技術者のコメントのなかでも、その部分が印象に残った。紙の加工には製品ごとに型が必要であり、複雑なパターンや種類の増加は、そのままコストに反映するのだ。この企画自体にも予算的な制約があったようだが、現実的な商品をつくることを考えれば、コストによる制約は避けて通ることができない問題である。
 チャールズ・イームズは、デザインにおける問題解決にあたって「デザイナーは出来る限り多くの制約を認識する能力を備えるべきだし、それらの制約に喜んで、また熱意をもって当たる」べきであると述べている。すなわち、デザインの評価にとっては、問題解決の程度ばかりではなく、デザイナーが制約にどのように取り組んだのかも重要な要素となる。デザイン展の多くが結果としての作品を見る場であるのに対して、ここでは発想の段階から素材や技術の選択、問題とその解決まで、制作過程のすべてが記録されている。デザイナーにとってはもちろんのこと、制作をサポートする側にとっても、デザインを消費する側にとってもその意義は大きい。[新川徳彦]

2011/08/09(火)(SYNK)