artscapeレビュー

映像に関するレビュー/プレビュー

プロメテウス

会期:2012/08/24

リドリー・スコット監督の映画『プロメテウス』を見る。前半は宣伝で強調された人類起源の謎という昔風の大仰なSF的な設定でひっぱり、後半は「エイリアン0」か「エイリアン・ジェネシス」というべき前日譚の内容に変わってしまう(やはり女は強い)。「エイリアン」のシリーズを順番に見てきた世代にはそれだけで楽しい。改めて第一作におけるギーガーのデザインは傑作だったと再確認した。劇中では古代神殿のような空間や第一作と同じような宇宙船が登場するが、未来と過去が交差する表現としては先駆的と言える。

2012/08/13(月)(五十嵐太郎)

森村誠 Daily Hope

会期:2012/07/13~2012/08/12

Gallery OUT of PLACE[奈良県]

英字新聞の紙面から、H、O、P、E以外の文字を修正液で塗りつぶした平面作品を、画廊の壁面を埋め尽くすように展示。別室では、同じく英字新聞の紙面をスキャンした画像を高速のスライドショーで上映し、「HOPE」の単語だけが一カ所に留まり続ける映像作品を出品した。点在する無機質な活字が示すかすかなHOPE=希望。そこには、どのような形であれ希望を求めずにはいられない人間の本性が表現されている。同時に、作品から滲み出る膨大な時間と作業から「徒労」の二文字を連想した。

2012/08/09(木)(小吹隆文)

ヘルタースケルター

会期:2012/07/14

映画『ヘルタースケルター』を見る。『さくらん』や『ヘビーローテーション』のPVでも見せつけた蜷川実花による女性の花園が生みだすカラフル・ロココ世界×沢尻の復活主演×岡崎京子の名作という組み合わせで、企画勝ちだ。あらかじめ予想していた通りに充分おもしろい。ただし、逆に言えば、予想以外のおもしろさがなかったとも言える。後半は少し冗長だが、海外からイメージされるハイパー東京のようだ。ただ、噂の流通などでケータイやネットは登場するが、雑誌が以前程強くない2012年の現在性が弱い。

2012/08/07(火)(五十嵐太郎)

おおかみこどもの雨と雪

会期:2012/07/21

細田守監督の『おおかみこどもの雨と雪』は、過去作を違う方法で乗りこえる、見事な傑作に仕上がっていた。アニメが不得意なささいな日常や農業を扱うと同時に、アニメがもっとも得意とする非現実的なファンタジーと飛び跳ねるような躍動感の両方を見事に接合している。今年の夏は多くの良作が集中したが、おそらくこの映画が登場したことで記憶に残るだろう。また人物の造形はハリウッド的な3D、CG、あるいは写実には向かわない貞本義行による日本的なアニメ絵のキャラで感情移入させる一方、背景は登場人物の名前でもある「花」「雨」「雪」のほか、水、光、風、反射など、きわめて精緻に自然を描くことで、この世界の実在を確かなものにしている。本や小物など、絵で語らせるディテールの描写も秀逸だ。モノつくりはかくあるべきという作品だろう。人目を隠れて暮らす物語の前半は、バンパイアやゾンビの映画でもしばしば重ね合わされる、マイノリティ=他者としての狼人間の設定と言えるだろう。しかし、田舎に引っ越してからの後半はむしろ何者になるかわからない、こどもの成長を通じて、その普遍的な問題がわれわれと同じであることが強調される。つまり、『おおかみこどもの雨と雪』は狼あるいは人になるかという特殊な設定を装いながら、現実社会の寓意になっているのだ。われわれは誰もがかつて「おおかみこども」だったのである。日本のアニメを牽引するポスト宮崎は、ジブリから出ることはなく、細田守になったのではないか。

2012/08/01(水)(五十嵐太郎)

ダークナイト ライジング

会期:2012/07/28

映画『ダークナイト・ライジング』を見る。長さを感じさせない物語の展開とスピード感はあるし、今回は島状のゴッサムシティ=ニューヨークの地理的な特徴をいかした都市空間への攻撃など、充分におもしろい。ランドマークを壊すのではなく、交通の結節点をつぶすアニメ版『パトレイバー』における東京の攻略も彷彿させる。が、前作の出来と忘れがたい悪役ジョーカーの凄さを思いだすと、これを超えることはやはり難しい。

2012/08/01(水)(五十嵐太郎)