artscapeレビュー

映像に関するレビュー/プレビュー

サカイトシヒロ:ティーヴィーショウ

会期:2012/02/13~2012/02/25

天野画廊[大阪府]

映像作家のサカイトシヒロが、約25年前の初期作を含む自作品をオムニバスにした作品集(約30分)と、彼がネットで検索して見つけ出した注目作品をまとめた作品集(約30分)の2本立てで展覧会を開催した。珍しいパッケージの展覧会なので、まずはそのこと自体に感心。映像作品は可変性があるので、工夫次第でさまざまな見せ方ができる。本展はその見本と言えるだろう。肝心の作品では、サカイが本展のために制作した新作《レンズ》が素晴らしかった。新種のインテリアとして家の壁に投影したいと思ったほどだ。今後は展覧会と同時にDVDの制作・販売を行なう手もあるだろう。

2012/02/13(月)(小吹隆文)

作家ドラフト2012 潘逸舟「海の形」展/小沢裕子「ある小話」展

会期:2012/02/04~2012/02/26

京都芸術センター[京都府]

京都芸術センターが隔年で開催している、若手作家の発掘・支援を目的とした公募展。毎回ひとりの審査員に選考を委ねるのが特徴で、今回は劇団チェルフィッチュを主宰する岡田利規が審査員を務めた。彼が115件の応募のなかから選んだのは、潘逸舟と小沢裕子の2人である。潘の作品は、中国で生まれ日本で育った自身の生い立ちをテーマにしたもので、海を国や制度、政治のメタファーとして個人と対峙させていた。一方、小沢の作品はネットから抽出した映像に自身がつくったエピソードの字幕をはめ込み、作品を見続けるうちに人格の在りかが撹乱されるトリッキーなものだった。共に“自分とは何か”をテーマにしながら、真逆のベクトルを持つ2人の作品。その対比を通して、観客をより深い思索へと導くことが岡田の意図なのだろう。

2012/02/07(火)(小吹隆文)

前橋映像祭2012

会期:2012/02/03~2012/02/04

前橋市弁天通り大蓮寺、ヤーギンズ[群馬県]

群馬県前橋市で催された映像祭。同じ商店街に隣接する寺とカフェを会場に、14組による17作品が、2日間にわたって上映された。地域密着型の小さな映像祭とはいえ、今日の「映像の時代」を如実に物語るかのように、じつにさまざまな映像を見ることができた。杉本篤+八木隆行による《八木隆行》は、前橋在住のアーティストである八木の作品を紹介する映像で、組み立て式の湯船を背負って山に登り、池のほとりで風呂に入る八木の身体と言葉をとらえる。美しい自然の只中でビールを飲みながらのんびり入浴を楽しむ八木の姿を見ると、「どうだ、うらやましいだろう!」と暗に言われているようで、なんとも悔しい。そもそもアートとは、対話やコミュニケーションの次元とは無関係に、オルタナティヴな美しさや生き方を一方的に見せつける、万人に向けた勝利の雄叫びだったのではないかと思わずにはいられない。江畠香希の《カレが捕まっちゃった》は、東日本大震災から半年後の2011年9月11日に新宿でおこなわれた「9.11原発やめろデモ!!!!!」のドキュメンタリー。デモの群集のなかから警察による過剰警備の実態を克明に映し出し、そのなかで逮捕された江畠の「カレ」が釈放されるまでの過程を丹念に記録した。デモの当事者の視点から撮影された映像に現場の臨場感があるのは言うまでもないが、それ以上に色濃く立ち現われているのは、このデモの主催者である「素人の乱」と江畠自身による逮捕された「カレ」への友愛の情。釈放された「カレ」に平手打ちを加えて出迎える江畠を映したシーンや、その後歓迎会の会場で「カレ」を温かく祝うシーンは、愛以外の何物も映っていないとすら言える。映像とは、かくも強力に人間の心情に働きかけることができるメディアだったのだ。頭部を蹴り上げられ、ざんばら髪のまま、意識朦朧とした「カレ」の青い顔を、警官隊の隙間の向こうにとらえた映像を、私たちは決して忘れることはできないだろう。原発のない社会を望む者たちは、このネガティヴなイメージに対抗しうるポジティヴな映像を待望している。

2012/02/04(土)(福住廉)

解剖と変容:プルニー&ゼマーンコヴァー チェコ、アール・ブリュットの巨匠

会期:2012/02/04~2012/03/25

兵庫県立美術館[兵庫県]

フランス・パリの、非営利団体abcdが所蔵する世界有数のアール・ブリュット・コレクションから、チェコ人のアンナ・ゼマーンコヴァーとルボシュ・プルニーの作品を展覧。併せて、アール・ブリュットの歴史や作家を紹介する長編ドキュメンタリー映画『天空の赤』の上映と同作品に登場する作家の作品展示を行なっている。ゼマーンコヴァーは普通の主婦だったが、子育てを終えた後の虚無感を埋めるかのように絵画制作を始め、独自の花や植物を描いた。プルニーは、内臓や骨格などへの関心を表現した平面作品を制作し、尋常ならざるテンションと反復に満ちた世界を構築している。2人の質の高い作品と映画を組み合わせることで、アール・ブリュットの魅力と本質をわかりやすく伝えているのが本展の見どころだ。記者発表時にabcdのブリュノ・ドゥシャルムは「作品の選択はあくまでコレクター目線で審美的に行なっている」と明言した。その意味で本展は、美術と教育と福祉の価値観が混在している日本のアール・ブリュットに対するひとつのメッセージとも言えるだろう。

2012/02/03(金)(小吹隆文)

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宮永亮 "scales"

会期:2012/01/14~2012/02/11

児玉画廊[京都府]

昨年秋に東京のgallery αMで発表した映像インスタレーション《arc》から、映像だけを抜き出したものと、新作《scales》を出品。宮永は国内外各地を訪れては映像を撮影し、そのストックを組み合わせて作品を制作している。《arc》は震災前と後の東北の情景と大阪のビル街や高速道路などが混然一体となったもので、《scales》はスウェーデンを訪れた際に撮った映像を巻物のような横長の画面に縦横に展開していた。どちらも夢幻的な作風で、人間の記憶はこういう形で保存されているのかな、と思ったりもした。

2012/02/02(木)(小吹隆文)