artscapeレビュー
映像に関するレビュー/プレビュー
本田孝義『モバイルハウスのつくりかた』
会期:6月から渋谷ユーロスペース他にてロードショー
渋谷ユーロスペース[東京都]
PHスタジオのドキュメンタリー映画『船、山にのぼる』を撮った本田孝義監督が、こんどは若手建築家の坂口恭平を追った。坂口は『0円ハウス』『ゼロから始める都市型狩猟採集生活』などの著書でも知られるように、巨大(巨費)志向の建築界に背を向け、建設費も家賃もゼロに近い「巣のような家」を建てようと模索。多摩川の河川敷に住む通称ロビンソン・クルーソーの協力を得ながら、移動式の「モバイルハウス」を建てた。その一部始終を収めたのがこの映画だ。が、モバイルハウスが完成し、いざ多摩川から移動しようとしたその日、東日本大震災が発生。その後、坂口は出身地の熊本に妻子とともに移住し、モバイルハウスもそちらに移した。そのため映画のラストは予期せぬ方向に展開したが、結果的に原発事故を含めた震災後の生き方、暮らし方を考えるうえでいっそう厚みを増したと思う。それにしても、本田が坂口を知ったのが4年前に東京都現代美術館で開かれた「川俣正展」での川俣×坂口対談だったというのは示唆的だ。川俣自身も早くから都市のなかでの「0円ハウス」や「狩猟採集生活」を提案していたし、その弟子筋のPHスタジオも軽トラに白い家を載せて移動したことがあったからだ。本田のなかではすべてつながっているのだ。
2012/04/03(火)(村田真)
Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち
会期:2012/02/25
ヒューマントラストシネマ有楽町[東京都]
踊りとは、かくもすばらしく人間の感情の起伏を表現するものだったのか。ヴィム・ヴェンダースによるピナ・バウシュの映画を見て思い知ったのは、踊りで駆使される身体言語の豊かなボキャブラリーだった。言葉ではなく身体が、みずからの喜怒哀楽を雄弁に物語る。劇場はもちろん、街中や車内、自然、邸宅など、あらゆる場所で語られる踊りを見ていると、そこでは生きることのすべてが肯定されていると実感できる。これみよがしな3D映像が書割のように平面的に見えてしまうという逆説が気にならないわけではない。とはいえ、そのようなネガティヴすらポジティヴに反転させてしまうほど、彼らの身体言語は、力強く、はかなげで、鋭く、あたたかい。
2012/04/01(日)(福住廉)
村山知義の宇宙 すべての僕が沸騰する
会期:2012/02/11~2012/03/25
神奈川県立近代美術館 葉山[神奈川県]
なにもないからこそ、なんでもやる。関東大震災にせよ、東京大空襲にせよ、広島・長崎への原爆投下にせよ、私たちの先達たちは焦土と化した焼け野原からいくども立ち上がり、その都度いくつもの文化や芸術を生み出してきた。村山知義の回顧展をつぶさに見て思いを新たにしたのは、豊かな芸術は貧しさのなかから生まれるという厳然たる事実。演劇から美術、写真、書籍、看板、はては建築にいたるまで、村山が手がけた創作物はじつに広範なジャンルに及んでいる。大量に集められた展示物の物量が、村山自身の貪欲な創作意欲を物語っているようで、まさしく沸騰する村山の迫力に圧倒されてやまない。それらのいずれもが貧しい時代の只中でなんとかやってきた格闘の痕跡と言えるが、村山が苛まれていた貧しさとはまた別の貧しさが世界を覆いつつある現在、はたして野性的で生命力にあふれた、新しい芸術は生まれるのだろうか。
2012/03/21(水)(福住廉)
モバイルハウスのつくりかた(本田孝義監督)
渋谷ユーロスペースほか全国順次公開[東京都]
会期:2012/06~
本田孝義は、団地や『船、山にのぼる』のPHスタジオのプロジェクトなど、建築(的なもの)と人が関わるドキュメンタリーを制作してきた映画監督である。新作の『モバイルハウスのつくりかた』では、「0円ハウス」で知られる坂口恭平をとりあげた。映像を見ると、彼がマイクを手に語る姿はタレント性があり、熊本における被災者を受け入れるユートピア的なゼロセンターや新政府樹立宣言は、漫画の『キーチ』をほうふつさせるだろう。家や住まいの原点を探る彼の活動も、3.11以降に新しい文脈を獲得したといえる。
2012/03/16(金)(五十嵐太郎)
「遠くて、近すぎる ドミニク・レイマン」展
会期:2012/03/06~2012/03/25
京都市立芸術大学ギャラリー@KCUA[京都府]
3点の映像作品が出品された。2点は壁面に直接投影され、1点は絵画に映像を投影している。40秒ごとに人物が登場しては暗闇に吸い込まれていく《Let me Jump》という作品に軽い恐怖感を覚えた。40秒という単位は、世界で40秒ごとに誰かが自殺をしているというWHOの発表によるものらしい。残り2点は、スカイダイビングのチームが空中で大聖堂の天井を表現する様子を捉えた《60 sec. Cathedral》と、警察犬の訓練の噛まれ役の姿を抜き出した《Basic Training(bunraku)》だった。
2012/03/14(水)(小吹隆文)