artscapeレビュー
映像に関するレビュー/プレビュー
プレビュー:京都・京町家ステイ・アートプロジェクト vol.1─アートと暮らす出会う京町家2012─「アート町家作品展」
会期:2012/01/21~2012/01/27
和泉屋町町家、筋屋町町家、石不動之町町家、美濃屋町町家[京都府]
京都の四条河原町に程近い4軒の町家を舞台に、地元ゆかりの4作家がそれぞれの表現方法で空間自体をつくり上げる。4名の作家とは、陶芸の近藤高弘、映像の大西宏志、日本画の畠中光享、染色の福本潮子である。また本展の後、会場は「町家ステイ」としてそのまま宿泊施設となる。京都では町家での展覧会自体は決して珍しくないが、それがリノベーションや宿泊という事業と一体化して展開されるのは珍しい。極めて地域的かつ可能性が感じられる試みだけに要注目である。
2012/01/10(火)(小吹隆文)
映画『宇宙人ポール』
会期:2011/12/23
シネ・リーブル梅田ほか[大阪府]
B級映画(B-movie)という言葉がある。1930-40年代、いわゆるハリウッド黄金時代に同時上映のため短期間撮影・低予算で制作された映画のことが転じて、一般用語となったものだ。つまり低予算映画のこと。たんに技術的に衰える映画を指すこともあって、実際その定義は曖昧である。今回、紹介する映画『宇宙人ポール』はB級映画としてプロモーションされているが、結構な質、とくに宇宙人ポールのCG処理は見事なものだった。家庭用AV機器の質が高くなったこともあり、近頃は「これ、映画館でみるべき?」と思ってしまう映画が多いなか(とくにTVドラマの劇場版にはうんざりしている)、本作は物語と映像が、両方楽しめる作品となっている。
マンガとSFが好きな、いわゆるオタク系のイギリス人男性二人が、アメリカでUFOスポット巡りをしている最中にポールと名乗る宇宙人に遭遇し、ポールを故郷の星に返そうと奮闘するSFコメディだ。ありがちな見飽きたストーリーだが、思わず笑ってしまうブラックユーモア(ただ同性愛に対する差別的言動も多く、不愉快なところもあるが)や、『E.T.』や『未知との遭遇』といった、SF名作へのオマージュも満載でSF映画ファンなら、見答え十分だ。[金相美]
2012/01/04(水)(SYNK)
エッセンシャル・キリング
会期:2011/12/24~2011/12/25
新文芸座[東京都]
イエジー・スコリモフスキ監督作品。ヴィンセント・ギャロ演じるイスラム兵が米軍に捕捉され、収容所で虐待されるも、移送中の車両事故を機に逃走。厳冬期の山中をただひとり遁走する模様を描き出す。追跡の手から逃れて雪原を走りぬける男が体現しているのは、人間の野性。米兵から車や衣料、武器を奪い、木の実や皮、蟻まで喰らい、はては赤ん坊を抱えた女の母乳を吸い取るなど、生き延びるために男は内側に秘めていた野性を徐々に覚醒させていく。その無言の行動が動物と近しいことはたしかだが、男は殺害を逡巡したり人間ならではの知恵を働かせていることから、人間の野性は必ずしも「野蛮」を意味するわけではなく、生物としての生存欲求を最大限に追求する身ぶりと知性を表わしている。それゆえ、私たちは男の「生きる」身ぶり、いや「生きよう」ともがき苦しむさまに眼を奪われるのだ。生きることに四苦八苦する人間のありようを、これほどまでに強く、明快に、しかも単純に見せる映画をほかに知らない。人間の温かさに触れることで、呼び覚まされた野性がたちまち力を失ってしまうラストシーンも、残酷なまでに美しい。
2011/12/25(日)(福住廉)
イエロー・ケーキ クリーンなエネルギーという嘘
会期:2012/01/28
渋谷アップリンク[東京都]
昨今、原発についてのドキュメンタリー映画の上映が相次いでいるが、この映画もそのひとつ。原子力発電に必要な天然ウランの採掘に焦点を当て、旧東ドイツやナミビア、オーストラリア、カナダの採掘現場にカメラが入っていく。古い資料に登場する人物にインタビューしたり、空撮によって取材拒否された採掘場を撮影するなど、粘り強い取材態度は評価できる。けれども、全体的に大仰な音楽が耳障りであり、肝心の放射線の種類や線量の単位を詳らかにしないなど、不満が残らないわけではない。とはいえ、ウランを100%完全に輸入に頼っている日本で、その採掘現場の実態がまったく知られていないことを考えれば、やはりこれは見ておく必要がある映画だといえる。旧東ドイツの採掘現場跡地にそびえ立つボタ山や、アボリジニの土地を奪って造成されたオーストラリアの採掘場で垂れ流される排水からは、いまも放射線が発せられているという。放射性廃棄物の行く末を追跡した『100,000年後の安全』とあわせて見ると、結局のところ、原子力エネルギーは人間の手には負えないという厳然たる事実を明快に理解することができるはずだ。これから手を引くことができるかどうかに、人間が人間たりうるかがかかっている。
2011/12/13(火)(福住廉)
『タンタンの冒険──ユニコーン号の秘密』
会期:2011/12/01
TOHOシネマズ梅田ほか[大阪府]
「Tintinologist」という言葉があるという。「タンタン論者」くらいの意味で、この造語を掲載している辞典もあるそうだ。本映画の原作である、コミック『タンタンの冒険旅行』の話だ。そのタンタン論者たちは単なるタンタンオタクなどではなく、作品に込められた歴史や思想を徹底的に分析し研究するのだという。作品のスケールと、その深さが垣間見られるところだ。このコミックシリーズは、ベルギーの漫画家エルジェ(Hergé、1907-1983)が、少年記者タンタンと愛犬スノーウィが世界を飛び回り、繰り広げる冒険を描いたもの。1929年に子ども向けの新聞に初掲載された、子どもを読者に想定した作品だが、次第に人気が出て一般紙や雑誌の連載がはじまり、単行本が刊行された。現在は世界80カ国で翻訳、出版され、2億部以上売れている。このコミックの一番の魅力はなんといってもキャラクター。まだ海外旅行が容易ではなかった時代、世界中のさまざまな国を訪れて冒険をするという基本コンセプトも十分魅力的だったはずだが、手軽に海外旅行ができるようになった今日においても変わらず愛される理由を挙げるとしたら、やはりキャラクターの力、キャラクターがもつ魅力にほかならない。このコミックを、スティーブン・スピルバーグ監督が映画化したのが、現在公開中の『タンタンの冒険──ユニコーン号の秘密』だ。スピルバーグは、1983年にエルジェが他界すると、すぐにこのコミックの著作権を購入、映画化を試みるが、技術的な限界を感じていったん断念、著作権を手放した。スピルバーグが再び動き出したのは精緻なパフォーマンス・キャプチャーを目にしてからのことで、2002年に版権を買い戻し、映画制作に着手する。パフォーマンス・キャプチャーとは、俳優の演技をコンピューターに取り組む技術のこと。なぜスピルバーグは実写でもCGでもない、また精緻なパフォーマンス・キャプチャーにこだわったのか。それはキャラクターのイメージを壊さず再現したかったからだと監督自身が明かしている。ストーリーも原作から大きく外れておらず、ある意味スピルバーグの映画であって、スピルバーグの映画ではないかもしれない。ただ躍動感あふれる画面からは目が離せない。さすがスピルバーグだ。また時代感を感じさせる巧みな編集と、ソウル・バス★1風のタイトルロールはオシャレすぎて、思わず微笑んでしまった。
[金相美]
2011/12/01(木)(SYNK)