artscapeレビュー
映像に関するレビュー/プレビュー
宮永亮「メイキング」
会期:2010/07/10~2010/08/14
児玉画廊[京都府]
自動車の屋根にカメラを設置し、夜の京都をクルージングしながら撮影した映像を、7つのスクリーンに投影。別の大画面ではすべての映像を重ねて上映していた。大画面の作品では夜景が徐々に変化し、遂には光の乱舞へと至るのが見事。本作は既に京都の京都市立芸術大学ギャラリー@KCUAと東京の児玉画廊で発表済みだが、本展では吹き抜けの2フロアを生かした立体的展示と、撮影に用いた愛車ミニを映像とともに展示するインスタレーションで、作品のポテンシャルの更なる引き上げに成功した。
2010/07/27(火)(小吹隆文)
『ぼくのエリ 200歳の少女』
会期:2010/07/10
銀座テアトルシネマ[東京都]
2008年製作のスウェーデン映画。トーマス・アルフレッドソン監督作品。北欧のか弱い少年がヴァンパイアの少女に恋する物語。いかにも少女マンガで描かれそうな凡庸な設定で、じっさい金髪碧眼のナイーヴな少年と内側の野性をもてあます少女が織り成す物語の展開には、どこかで見たかのような既視感を覚えてならない。けれども、この映画の見どころは、物語を支える背景にある。しんしんと降り続ける雪と、北欧モダニズムによる集合住宅。そこで暮らしているのは、離婚して父が不在の家族であり、夜な夜な酒場に通うダメオヤジたち。象徴的に描かれた北欧型の福祉国家の内実が、たいへん興味深い。慎重に守らなければたちまち挫けてしまう少年が福祉国家を体現しているとすれば、文字どおり人並みはずれた生命力を誇る少女は福祉国家を相対化するためのメタファーである。そうすると、この映画は少年の自立の物語というより、むしろ「ゆりかごから墓場まで」を金科玉条とする福祉国家を内側から突き抜ける、脱出と革命の物語のようにも見える。その逃走の先に何が待っているのかはわからないし、ひょっとしたら何もないのかもしれない。けれども、がんじがらめの社会から抜け出す欲望をおしとどめることはできない。そこに、共感できる同時代性がある。
2010/07/21(水)(福住廉)
SickeTel キュピキュピと石橋義正
会期:2010/07/18~2010/11/03
丸亀市猪熊弦一郎現代美術館[香川県]
奇抜なパフォーマンスや映像作品で知られるキュピキュピが久々に再始動。その主宰者で、現在はテレビ番組『オー!マイキー』で知られる石橋義正とのダブル個展の形式で展覧会が開催された。会場は前半がキュピキュピ、後半が石橋に二分されている。キュピキュピの作品は、ステージ状の空間で繰り広げられる映像インスタレーションと、新キャラ「シッケモニカ」のための空間で構成されていた。かつてのような弾けたナンセンスな笑いは抑えられており、ブルーを基調としたムーディーな、しかしどこか虚無をたたえた世界観が新鮮だった。後半の石橋サイドは、《ブラック・リナ》と《ホワイト・スネーク》の映像作品2本立てだった。フェロモン全開で意地悪そうな美女が思いのまま振る舞う《ブラック・リナ》は、まさに石橋作品に登場する女性の典型。一方、《ホワイト・スネーク》は主演女優の身のこなしが素晴らしく、蛇女の存在にリアリティを与えていた。美術館がある丸亀市は「瀬戸内国際芸術祭」が開催されている高松市から電車で約20分の距離。芸術祭に出かけたなら、面倒がらずにこちらにも足を延ばすべきであろう。
2010/07/20(火)(小吹隆文)
瀬戸内国際芸術祭 2010
会期:2010/07/19~2010/10/31
瀬戸内海の7つの島と高松港[香川県、岡山県]
注目のアートイベントにさっそく足を運んだ。2日間フル稼働で取材したが、女木島、男木島、小豆島、豊島と高松港を回るのが精一杯。直島、犬島、大島は後日に持ち越しとなった。すべての会場を巡るには1週間ぐらい必要だろう。真夏の瀬戸内は高温多湿で日差しがきついため体力的にはハードだったが、精神的にはとても充実した2日間だった。瀬戸内と聞くとつい海ばかりを連想してしまうが、実際は海岸部だけでなく、内陸部でも数多くの展示が行われていた。地域の自然、生活、文化、習俗とアートが密接に交流し、美術館やギャラリーでは味わえない広がりのあるアート体験ができた。1回目から完成度の高いイベントに仕上げてきた関係者に賛辞を送りたい。今後もさらに充実を図り、越後妻有と並んで日本を代表する地域密着型アートイベントとなることを期待する。なお、筆者のおすすめは、小豆島の王文志と岸本真之、女木島のロルフ・ユリアス、男木島の中西中井、豊島のキャメロン・ロビンスとジャネット・カーディフ&ジョージ・ビュレス・ミラーだ。
2010/07/18(日)・19(月)(小吹隆文)
束芋:断面の世代
会期:2010/07/10~2010/09/12
国立国際美術館[大阪府]
横浜美術館で開催された個展の巡回だが、会場構成と一部の作品の展示スタイルが異なっており、横浜とは一味違う仕上がりとなった。特に迷路のような導線は、束芋の世界観とシンクロして効果的だった。映像作品は前半の団地をテーマにしたものと、後半の内省的な作品に二分されるが、筆者は後半の作品に可能性を感じた。デビュー以来、現代社会に対するシニカルな批評性云々で語られてきた束芋だが、その固定化した肩書きをもうそろそろ外してもよいのでは。展覧会の中間部には新聞小説『惡人』の挿絵がずらりと並んでおり、実に壮観。線の魅力こそ彼女の最大の魅力だと改めて実感した。また、『惡人』からインスパイアされた映像インスタレーション《油断髪》が放つ不穏な気にも圧倒された。
2010/07/09(金)(小吹隆文)