artscapeレビュー

映像に関するレビュー/プレビュー

ハーブ&ドロシー

会期:2010/09/09

渋谷ショウゲート試写室[東京都]

60年代からコツコツと買い集めた現代美術作品2,000点以上を、ワシントンのナショナルギャラリーに寄贈して話題になったハーブとドロシーのヴォーゲル夫妻。チャック・クロース、クリスト&ジャンヌ=クロード、リチャード・タトルらアーティストの証言を交えて、ニューヨークの古アパートに慎ましく暮らすこの老夫婦を追ったドキュメンタリー映画。これはおもしろい。なにがおもしろいかって、まず、ふたりとも(とくに夫のハーブの)背が小さいこと。小さな夫婦が小さなアパート(1LDK)に住み、小さな(つまり安い)作品ばかりを買ってるうちに、アパート中が作品に占拠されてしまうというドタバタ劇。ハーブが郵便局に勤め、独学でアートの知識を身につけたというのも示唆的だ。彼らの情報収集は徹底し、おそらく収入(だけでなく全生活)の大半をコレクションに注入しているようだが、作品購入は必ずしも計画的とはいえない。むしろ無計画といったほうがいい。ひとことでいえば、アウトサイダー・コレクター。

2010/09/09(木)(村田真)

あいちトリエンナーレ2010 都市の祝祭

会期:2010/08/20~2010/10/31

愛知芸術文化センター、名古屋市美術館、長者町会場、納屋橋会場、七ツ寺共同スタジオ、他[愛知県]

「瀬戸内国際芸術祭」と並ぶ今年最も話題のアートイベントにさっそく出かけてきた。都市型イベントである「あいちトリエンナーレ」では、地下鉄で1~2駅の距離に会場が集中しているのが特徴。交通事情を気にせず自由に移動できるのがありがたい。展示は2つの美術館と街中が半々といった感じで、異なる環境での展示を同時に味わうことでアートの多様なポテンシャルを引き出そうとしているように感じた。筆者のおすすめは、愛知芸術文化センターの松井紫朗、蔡國強、三沢厚彦+豊嶋秀樹、宮永愛子、名古屋市美術館のオー・インファン、ツァイ・ミンリャン、塩田千春、長者町エリアの渡辺英司、山本高之、ナウィン・ラワンチャイクン、二葉ビルの梅田哲也、中央広小路ビルのピップ&ポップだ。納屋橋会場と七ツ寺共同スタジオには残念ながら行けなかった。また、美術展を優先したため、パフォーマンスや演劇系の公演を見てないのも悔いが残る。食事や観光など街を楽しむことができなかったのも同様だ。テーマに「都市の祝祭」を掲げるイベントだけに、美術展とパフォーマンスを観覧するだけでなく、食事や観光など名古屋の街の魅力も味わい尽くして初めてその真価がわかるはず。次に出かける時はしっかり予習して、アートと街遊びの両方を満喫したい。

2010/08/20(金)(小吹隆文)

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『チビチリガマから日本国を問う!』

会期:2010/08/13

新川区民館[東京都]

西山正啓監督によるドキュメンタリー映画の上映会。彫刻家の金城実と読谷村村議の知花昌一を中心とした反米軍基地運動のメンバーが、鳩山前首相が公約した普天間基地の県外移設をめぐって、国会議事堂前で抗議の座り込みを続けた様子を記録したドキュメンタリーだ。この映像を見て教えられたのは、金城による政治運動がじつに魅力的で、それは彼が制作する彫刻作品とは別の次元で、「芸」の域にまで到達しているということだ。国会議事堂の前で支持者や警察官に向けて演説する口ぶりは達者であり、聴衆の心を鷲づかみにする術を心得ているし、金城のパフォーマンスと比べると、支援する立場の国会議員による演説がなんとも空疎に響いてならない。知花の三味線にあわせて金城が下駄を両手にかざしながら踊るパフォーマンスも、パンクのように無茶苦茶だが、だからこそ人びとの眼を惹きつけてやまない舞踊である。金城の彫刻も、我流を貫き通す意志で成り立っている。同時期にギャラリーマキで催された金城の個展では、テラコッタによる素焼きの彫刻作品などが発表されていたが、その大半が人体や肖像を形象化したもので、文字どおり荒削りのフォルムがなんとも魅力的である。美大で教育を受けたわけではなく、風呂屋とストリップ小屋で人体のかたちと光の陰影について修行したという逸話も、近代彫刻の歴史には見られない、親しみやすい彫刻の印象を強めているのかもしれない。「彫刻は死んだ」とか「絵画は死んだ」とか、芸術の世界では知ったような議論がまかり通っているが、そうした机上の空論に現を抜かすよりも、金城による生きた彫刻と政治パフォーマンスに触れるほうが、はるかに私たちの生を豊かにしてくれるに違いない。

2010/08/13(金)(福住廉)

間芝勇輔 展「交!(まじめ)」

会期:2010/08/04~2010/08/29

京都造形芸術大学 ギャラリーRAKU[京都府]

子どもの落書きのような純真さと、洗練されたデザインセンス、そして驚くべき直感の冴えを併せ持つ間芝の世界。大量のドローイングと2点の映像からなる本展は、過去最大の規模を取ることで彼の魅力を伝えることに成功していた。京都出身ながら大阪でのみ発表していた彼にとって、本展は地元初個展。それゆえ普段以上に奮発したのかもしれない。間芝は今秋から東京に移住するらしい。関西で彼の作品を見る機会が減るのは残念だが、最後に大きなプレゼントを残してくれたことには感謝したい。

2010/08/10(火)(小吹隆文)

『何も変えてはならない』

会期:2010/07/31

ユーロスペース[東京都]

2009年製作のペドロ・コスタ監督作品。フランス人女優のジャンヌ・バリバールが歌う、ライブのリハーサルからレコーディング、レッスンなどを執拗に追い続けた映画で、光と影を絶妙にとらえたモノクロの映像がほんとうに美しい。ワンカットが異常に長い構成は、ともすると鑑賞者を退屈させがちだが、入念に考えられた(ように見える)画面の構図とバリバールの官能的な歌声のおかげで、決して飽きることがない。日本の喫茶店で煙草をくゆらす2人の渋いおばあちゃんを写した映像が、唐突に差し挟まれるなど、遊び心をきかせた編集もいい。

2010/08/09(月)(福住廉)