artscapeレビュー

映像に関するレビュー/プレビュー

クロッシング

会期:2010/10/30

新宿武蔵野館[東京都]

「メリケンに生まれなくて、ほんとうによかった……!」と心の底から思うことが、アメリカの映画を見ているとよくある。貧困のスパイラルから抜け出そうにも抜け出せず、麻薬とギャンブル、酒、売春、ギャング、不味そうな飯、何よりも銃弾による暴力の応酬。アントワン・フークア監督によるこの映画も、アメリカのどん底を舞台にしながら、それぞれのやり方でなんとかして人生を取り戻そうとしてもがき苦しむ三者三様の人間模様を描いた傑作だ。リチャード・ギアとイーサン・ホーク、ドン・チードルが演じる3人の警官が歪なかたちで交差するクライム・サスペンスの体裁をとりながらも、物語の背後で一貫しているのは幸福を追究する人間の欲望のありよう。定年を機に人生の針路を切り換えるため、愛する家族を守るため、裏切者を許さないため。それぞれの欲望にはそれぞれの正義があり、その先に幸福が待ち受けているはずだったが、その傍らには死と諦念が暗い口を開けて待っている。その穴に落ちないように、それでもなお危うく脆い路を歩んでいくことが人生であることを、この映画は教えている。くたびれた警官にしか見えないリチャード・ギアと、憎たらしい女ボスになりきったエレン・バーキンの演技もすばらしい。

2010/11/01(月)(福住廉)

プレビュー:Exhibition as media 2010『SHINCHIKA SHINKAICHI(シンチカ シンカイチ)』

会期:2010/11/15~2010/12/05

神戸アートビレッジセンター[兵庫県]

勝村富貴、久門剛史、藤木倫史郎、藤野洋右、吉川辰平からなるアートユニット、SHINCHIKAは、2002年に大阪・新世界の「新世界国際地下劇場」からインスピレーションを受け、結成された娯楽チームだ。記憶、都市、個人的な物語の断片をインターネットを駆使して編集し、映像、音楽、インスタレーションなど、幅広いジャンルの作品へと変換させる。本展では、彼らの今までの作品を展示するほか、会場の神戸アートビレッジセンターが立地する新開地エリアのエッセンスを取り入れた新作も発表。センター内各所に彼らの世界が展開される。

2010/10/20(水)(小吹隆文)

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キャラバン隊・美術部 第三回展覧会 JIROX かなもりゆうこ二人展「BANG A GONG! トーキョー/キョート」

会期:2010/10/01~2010/10/10

MATSUO MEGUMI + VOICE GALLERY pfs/w[京都府]

美術と出版で活動する「キャラバン隊」が企画した展覧会。映像作家のかなもりゆうこと、パフォーマー&オブジェ作家のJIROXが共演した。展示は、かなもりの映像(3画面で1点の作品)と、JIROXのオブジェからなる。JIROXは終日会場にいて、自作楽器で即興演奏をしたり、頭部を叩いて打楽器代わりにしていた。かなもりの作品は普段とは少し様子が異なり、JIROXの世界がそのまま引っ越して来たかのよう。一見アンバランスな取り合わせの本展だが、見れば見るほど馴染んできて、やがて絶妙のコラボだとわかる。それにしてもJIROXは、まるで仙人のようだ。彼を知っただけでも、本展に出かけた価値があった。

2010/10/02(土)(小吹隆文)

木村大作+金澤誠『誰かが行かねば道はできない』

発行所:キネマ旬報社

発行日:2009年6月

富山で開催された建築学会のイベントで、映画『劔岳』を監督した木村大作氏と対談を行なう機会があり、その準備もあって本書を読んだ。本来、木村は監督というよりも、カメラマンとして長く映画に関わっている。黒澤明の作品を担当し、さらに『八甲田山』のような厳しい仕事を手がけ、その存在が知られるようになった。これは金澤誠による詳細なインタビューを通じて、さまざまな映画の撮影や現場の様子がわかる本である。建築・都市の視点から興味深かったのは、『野獣狩り』(1973)や『誘拐』(1997)だった。いずれも都市を舞台にした映画だからである。だが、驚かされたのは、重要なシーンがすべて許可を得たものではなく、ゲリラ的に撮影されていたということだ。とくに『誘拐』は、大胆に銀座や首都高速を使っている。これはメディア・スクラムもテーマとしており、マスコミ役、カメラマン役(本物のカメラマンにあちこちから応援してもらったという)、群衆を含め、現地集合、現地で流れ解散だった。日本映画ではめずらしく大胆に都市を使う映画だと思っていたら、こういう背景があったわけである。現場で警察をおしとどめながら、会社で責任をとる覚悟で、この映画は制作された。最近は山形などの地方でフィルム・コミッションも増えたが、アメリカとは違い、一般的に日本の都市は映画の制作に非協力的であるのが理由らしい。日本では、『機動警察パトレイバー』の映画版のように、アニメでないと、すぐれた都市映画がつくりにくいのも、うなづけよう。しかし、香港という都市空間を魅力的に映像化した作品、ウォン・カーウァイの『恋する惑星』(1994)のように、世界の各都市にひとつずつ、こういう作品があると楽しい。東京も、もっと実写による都市映画が登場すれば、ブランド力をあげることにつながるのではないか。

2010/09/30(木)(五十嵐太郎)

panorama すべてを見ながら、見えていない私たちへ

会期:2010/09/18~2010/10/24

京都芸術センター[京都府]

内海聖史、押江千衣子、木藤純子、水野勝規を擁した企画展。絵画、映像、インスタレーションという、タイプの異なる作品をさまざまな環境で提示し、作品を「見ること」の意味を問い直した。会場は元小学校をリフォームしたアートセンターで、南北2つのギャラリーに加え、エントランス、廊下、談話室、和室と、ほぼ全館を使用した。カラフルな点の集積で豊かな空間をつくり上げる内海、見る者の内面に浸透するような情景を描く押江、グラスなど透明感のある素材の小オブジェを、そっと添えるように提示する木藤、日常とは異なる時間の流れが感じられる映像が持ち味の水野、四者の個性が響き合い、得も言われぬ芳香が空間を満たしていた。見る順序を変えれば、また新たな感興を得られる気配も。ボリュームは決して大きくないが、濃密な味わいで深い充足感が得られる好企画だった。

2010/09/22(水)(小吹隆文)

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