artscapeレビュー
パフォーマンスに関するレビュー/プレビュー
高谷史郎『ST/LL』

会期:2016/01/23~2016/01/24
滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール[滋賀県]
薄暗い舞台上には、奥へ伸びる細長いテーブルと、縦長の巨大なスクリーン。ワイヤーで吊られたカメラがするすると下りてきて、テーブル上に置かれた空っぽの皿、カトラリー、ワイングラスをスクリーン上に映し出す。still=静物画。リンゴの赤だけが妖しく光る。向かい合った2人の女性が、食事をする仕草を厳かに始める。一方が片方の鏡像のように、左右対称でシンメトリックな動き。背後のスクリーンの映像も、垂直方向に反映像を生み出す。だがパフォーマーが動いた瞬間、広がった波紋がそこに亀裂を入れる。鏡のように見えたそれは、じつは浅く水の張られた水面だったのだ。テーブルに置かれた食器類やテーブル上で横たわって蠢くパフォーマーの身体は、スクリーンに映し出され、さらに水面=鏡に反映し、幾重にも分裂・増殖していく。
別のシーンでは、走り回り、くるくると旋回するパフォーマーたちの身体は、照明の効果によって影のように黒く浮かび上がり、あるいはスクリーンに影絵のシルエットを映しながら、虚と実の世界を目まぐるしく交替し、現実のスケール感や実在感を失っていく。光と影だけのモノクロームの世界への圧縮。鏡のように澄みきった水面の上で静止(still)した世界では、どちらがリアルでどちらが虚の世界かわからない。空っぽのお皿から晩餐を食べるフリをする冒頭のシーンのように、「そこにないはずのものが『ある』」「あるはずのものが『ない』」、その境界が曖昧になっていく。
アイヌ語の子守歌が歌われる中、ライトの森が星空のように降ってくる。紙片が雪のひとひらか花びらのように撒かれ、ゆっくりと宙を漂い、暗い水面を砕けた流氷の浮かぶ海面に変えていく。映像の中で食器やカトラリーが落下し、ワイングラスが粉々に割れる。破滅的な予感の中で、ダンサーは時に影となり実体を曖昧にさせながら、周囲を旋回するカメラと見えないデュオを踊り、やがて日蝕が訪れ、すべてが闇に包まれた後、崩壊の後のかすかな予感を思わせる光が射し込んで幕を閉じる。
明確な筋はないが、完璧に制御された映像と照明と音楽によって、美しい白昼夢のような断片的なシーンが次々と連なっていく。水面がもうひとつの世界を出現させ、パシャパシャという水しぶきが覚醒の音を淡く響かせながら、波紋がどこまでも広がっていき、すべては明晰に覚めた夢。
2016/01/23(土)(高嶋慈)
フィジカルシアターカンパニーGERO 旗揚げ公演「くちからでる」
会期:2016/01/15~2016/01/17
KAAT神奈川芸術劇場[神奈川県]
伊藤キム率いるGERO旗揚げ公演『くちからでる』@KAAT。ジェルミナルが演劇的にコミュニケーションの進化を見せたのに対し、これは身体を徹底的に追いつめて、そこから絞り出される言葉の発生に立会う。決して広くはない場に出自の違う8人が衝突するかのように動き、ドリッピング的な軌跡を描く。
2016/01/17(日)(五十嵐太郎)
黒蜥蜴
会期:2016/01/16~2016/02/07
静岡芸術劇場[静岡県]
美を追求する女賊の演劇『黒蜥蜴』@静岡芸術劇場。東京タワー、船上、私設美術館などを表現する、単管で階段やアーチを組み上げた、これまでになく高さを生かした大がかりな舞台装置は、かなり好みである。乱歩/三島由紀夫の言葉はやや理詰めで堅苦しいが、掛け合いで演奏される音楽が伴うことで、リズム感を生み出す。
2016/01/16(土)(五十嵐太郎)
第3回超連結クリエイション

会期:2016/01/24
京都芸術劇場 studio21[京都府]
今月の推薦公演は、私がディレクターを務めているBONUSの第3回超連結クリエイションにします。BONUSは2014年の7月にサイトをスタートさせた「ダンスを作るためのプラットフォーム」です。批評の活動だけが自分の仕事なのかと自問自答した結果、「作る」ことにコミットして二年目になります。多様な活動があるのですが、なかでもBONUSの中心になっているのは「連結クリエイション」と名付けた、作家たちにテーマに基づいた制作を依頼するプロジェクトです。第1回は『雨に唄えば』、第2回は『牧神の午後』を取り上げ、ダンスに限らず、美術や演劇の分野の作家たちに人類の歴史的遺産を解釈してもらいました。第3回はちょっと角度を変えてテーマを「障害(者)とダンスを連結させて映像のダンスを制作してください」としました。「映像のダンス」という依頼については、今回はあまり重視しないことになり、イベント当日は、調査・研究を重ねたその成果報告が中心になる予定です。参加作家は、砂連尾理、塚原悠也(contact Gonzo)、野上絹代(FAIFAI)の3名。また、砂連尾さんのチームでは東京大学の教員で『リハビリの夜』(医学書院、2009)の著者として知られる熊谷晋一郎さんやYCAM、野上さんのチームでは多摩美術大学の教員でクリエイターの菅俊一さんはじめ、舞台美術で活躍する佐々木文美さんらが協力してくださっており、多種多様な知恵の集う場になることでしょう。昨年8月の研究会でも調査報告してもらった伊藤亜紗さんにコメンテイターを、石谷治寛さん、古後奈緒子さんにはゲスト・コメンテイターをお願いしております。濃密な「未来のダンス」を発見する場になるかと思います。入場は無料。ただし、事前に予約してもらえると助かります。
2016/01/14(木)(木村覚)
幹の会+リリック プロデュース公演「王女メディア」
会期:2016/01/09~2016/01/16
東京グローブ座[東京都]
ギリシア悲劇「王女メディア」@グローブ座。歌舞伎のように男がすべての女性を演じる。主役をつとめる平幹二朗の年齢を考えると、怪演と言うべき迫力だ。ただ、脚本は現代向けに少し変えてよかったと思う。床を使い、上のフロアからも楽しめる演出は、田尾下哲ならではである。しかし、残念ながら、劇場の3階は見切り席だった。アメリカのミュージカルのように、こうした座席は格安の値段にすべきだろう。
2016/01/09(土)(五十嵐太郎)


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