artscapeレビュー
写真に関するレビュー/プレビュー
阪神・淡路大震災から20年
会期:2014/11/22~2014/03/08
兵庫県立美術館[兵庫県]
1995年1月17日に起こった阪神・淡路大震災。今年は震災から20年という節目の年であり、兵庫県内の複数の美術館・博物館などで震災関連の展示が行なわれる。その先陣を切って開催されているのが本展だ。展覧会は3部構成で、第1部「自然、その驚異と美」では、プロローグとして日本人の自然観を表現した作品が並び、第2部「今、振り返る─1.17から」では、当時の美術館の被災状況やその後の取り組み、芦屋にあった写真家・中山岩太のスタジオから作品と資料を救出した文化財レスキューの活動、作品の保存・修理と記憶を受け継ぐための教育・普及事業を紹介、第3部「10年、20年、そしてそれから」では、写真家の米田知子が2005年に芦屋市で制作・発表した写真シリーズを展示した。展覧会を見て気付いたのは、いくら忘れまいと思っていても、20年の歳月は人の記憶を薄れさせるということ。だからこそ、定期的にこのような企画を行なう必要があるのだ。これから他館で行なわれる震災関連展もチェックして、あの日の記憶を今一度定着させたい。
2014/11/22(土)(小吹隆文)
high & dry──田中和人 展
会期:2014/11/14~2014/11/30
Gallery PARC[京都府]
田中和人は写真作品を制作しているが、その作風はストレートフォトとは一線を画している。たとえば、色鮮やかなブロック玩具をピンボケで撮影した《blocks》、金箔をフィルターとして用いて青白い風景を撮影した《GOLD SEES BLUE》、カメラの代わりにスキャナーを用いた《after still》などである。それらの作品は、一見しただけでは相互の関係性が見えにくいが、本人いわく「具象と抽象」あるいは「写真と絵画」の「境界」をテーマにしているとのこと。本展では、新作も含め彼のこれまでのシリーズを一堂に展示することにより、田中の一貫した作家性を明らかにした。また、作品をシリーズごとに並べるのではなく、ランダムに配置したが、これにより時系列を超えたシリーズ相互の参照が可能になった。作家自筆の作品相関図もユニークで、作品理解の一助になった。
2014/11/21(金)(小吹隆文)
小島一郎「北へ、北から」
会期:2014/08/03~2014/12/25
IZU PHOTO MUSEUM[静岡県]
青森市に生まれ、「津軽」を題材として写真を撮り続けた小島一郎(1924~64)は、いわゆる「地方作家」であるように見える。その土地に特有の地域性(ローカリティ)にこだわり、独自の作風を確立した写真家ということだ。だが、今回のIZU PHOTO MUSEUMの展覧会で、あらためて小島の作品をまとめて見ていくと、彼の活動作家が「地方作家」の枠組みにおさまるものではなかったことがよくわかる。
小島は名取洋之助に見出されて1958年に初個展「津軽」(東京、小西六ギャラリー)を開催し、それを一つのきっかけとして61年に家族とともに上京してくる。周囲の反対を押し切り、プロ写真家として自立することをめざしたのだ。翌年、2回目の個展「凍(し)ばれる」(同、富士フォトサロン)を開催、「東京の夕日」(『カメラ毎日』1963年3月号)などをカメラ雑誌に発表するが、慣れない都会暮らしで体調を崩し、青森に帰郷して64年に亡くなった。むろん北の厳しい風土を粘り強く撮影し続けた、詩情と造形意識をあわせ備えた写真群は、小島の代表作というべきだが、彼はそこに留まることなくよりスケールの大きな「写真作家」であろうとしたのではないだろうか。個展「凍ばれる」では、コントラストの強いミニコピーフィルムで作品を複写して再プリントするという手法を用いており、よりグラフィックな画面処理でドキュメンタリーの枠組みを乗り超えていこうとしていた。また、晩年にはカラー写真にも意欲的に取り組んでいた。
今回の展覧会では、小島がネガを名刺サイズに引伸した「トランプ」と称されるプリントが大量に展示され、「津軽」と「凍ばれる」の個展会場の一部が再現されるなど、従来の「津軽」の写真家という小島一郎のイメージを再構築しようという試みが見られた。この視点は、他の「地方作家」たち、たとえば千葉禎介(秋田)や熊谷元一(長野)や平敷兼七(沖縄)などの作品にも適用できるのではないだろうか。
2014/11/18(火)(飯沢耕太郎)
佐藤信太郎「The spirit of the place」/「夜光 Night Light」
会期:2014/10/31~2014/12/20
キヤノンギャラリーS/フォト・ギャラリー・インターナショナル[東京都]
佐藤信太郎のデビュー写真集『夜光 Nights Lights』(1998年)が青幻舎から新装版で再刊されたのにあわせて、東京都内の二つの会場でほぼ同時期に彼の個展が開催された。キヤノンギャラリーSの「The Spirit of the place」展では、盛り場のネオンサインを撮影した「夜光」だけでなく、彼の他のシリーズ「非常階段東京 ─ TOKYO TWILIGHT ZONE」と「東京|天空樹 Risen in the East」も同時に展示され、フォト・ギャラリー・インターナショナルでは「夜光」に絞った展示を見ることができた。
デジタルプリントによって、より鮮やかに、くっきりと甦った彼の作品をあらためて見直すと、佐藤が3つのシリーズを通じて、東京の新たな見方(「夜光」シリーズには大阪で撮影された写真も含まれているが)を提示しようとしてきたことがわかる。それは、都市を光と形と色という要素に還元して、そのテクスチャー、構造を定着しようとする意欲的な試みであり、近作になるにつれて、より包括的で、柔軟な把握の仕方があらわれてきているように思う。ちょうど区切りのいい時期に、旧作をまとめて展示で来たのはとてもよかった。
だが、問題は佐藤が次にどんなアプローチを見せてくれるかだろう。現在形で変貌しつつある巨大都市を俯瞰できる視点を確保するのは、そう簡単なことではない。インターネットのような不可視のネットワークが、都市の中枢部分を占めるようになってくると、写真でそれを視覚化するのは、ますますむずかしくなってくるからだ。佐藤がその難問にどう立ち向かっていくのか、次作に期待したいものだ。
キヤノンギャラリーS 2014年10月31日~12月15日
フォト・ギャラリー・インターナショナル 11月7日~12月20日
2014/11/13(木)(飯沢耕太郎)
藤岡亜弥「Life Studies」
会期:2014/11/10~2014/11/16
Place M[東京都]
2012年までの4年間のニューヨーク滞在時の写真をまとめた藤岡亜弥の「Life Studies」の発表は、2009年のAKAAKAでの中間発表的な展示を含めると、今回で3回目になる。前回(2014年春)の銀座ニコンサロンと大阪ニコンサロンでの展示はカラープリントだったが、今回はそれに加えて279×356cmの大きさに引伸されたモノクロームプリント(12点)も出品されていた。
ニューヨーク時代の藤岡は、カラーとモノクロームのフィルムを併用していたのだが、使っていたハーフサイズのカメラに光が入って、画面に縞模様のような筋ができたこともあり、ろくにプリントもせずに放っておいたのだという。だが、次第にその「失敗」がむしろ面白い効果をもたらすのではないかと考えはじめ、それが今回のモノクローム作品中心の展示に結びついた。
実際に今回の「Life Studies」は、カラー作品とはかなり異なる肌合いではあるが、ニューヨークでの生活の断面の別な部分を垣間見させてくれる、興味深い作品に仕上がっていた。ハーフサイズの縦位置の画面が二つ並ぶことで、微妙な時空のズレが生じてくるだけではなく、それ以外の通常の35ミリカメラで撮影された作品にも、奇妙に歪んだデモーニッシュな気分がより色濃くあらわれてきているのだ。はっきりいってかなり怖い写真群であり、スナップ的な要素の強かったカラー作品と比較すると、闇の奥をじっと覗き込んでいるような不気味さを感じる。藤岡がモノクローム作品を発表するのはおそらく初めてではないだろうか。いい表現の鉱脈になっていきそうな予感がする。
2014/11/12(水)(飯沢耕太郎)