artscapeレビュー

写真に関するレビュー/プレビュー

写真で恵比寿をめぐる旅(恵比寿文化祭2014)

会期:2014/10/11

恵比寿ガーデンプレイス・STUDIO38他[東京都]

毎年秋に、恵比寿一帯で開催されている恵比寿文化祭。今年も展覧会、イベント、パフォーマンスなど、盛りだくさんの催しが10月11日~13日にかけておこなわれた。その一環として、僕がコンダクターとなって恵比寿界隈の写真展会場を回る「写真で恵比寿をめぐる旅」という街歩きイベントが開催された。1995年に東京都写真美術館が恵比寿ガーデンプレイスに本格開館したのが呼び水となって、この地域には写真作品を展示するギャラリー、スペースが増えてきている。いまや恵比寿は「写真の街」といってもおかしくはないだろう。
今回は中川彰の「バウルを探して」展を開催中の恵比寿ガーデンプレイス・STUDIO38を皮切りに、POST、山小屋、NADiff a/p/a/r/t(MEM、G/P Gallery)、Earth & Salt、写真集食堂めぐたまを15人ほどで回った。各会場15~20分という短い時間だったし、他にも行きたい場所があったので決して充分とはいえないが、最初の試みとしてはまずまず成功だったのではないだろうか。山小屋の松本美枝子「すべて とても よい」(2011年にキューバを撮影した写真群)、Earth & Saltの滝口浩史「狭間_窓_」(家族の生死をテーマにした写真シリーズ。写真集『窓』がアメリカの出版社Little Big Manから刊行)など、クオリティの高い展示を、会場で写真家本人の解説で見ることができたのは、参加者にとってもとてもよい経験になったのではないかと思う。
ただ、次回はもう少し展覧会を絞り込んで、じっくり時間をかけて回った方がいいかもしれない。また、この企画は新宿や銀座など、他の地域でも実現可能だろう。拡大版の「写真で東京を巡る旅」もやれるといいと思う。

写真:松本美枝子「すべて とても よい」

2014/10/11(土)(飯沢耕太郎)

沢渡朔「少女アリス」

会期:2014/10/10~2014/10/26

Fm(エフマイナー)[東京都]

沢渡朔の名作『少女アリス』(河出書房新社、1973年)が「スペシャル・エディション」として河出書房新社から刊行されることになった。西武百貨店での展覧会にあわせてイギリス各地に滞在し、3週間で6×6判のフィルム300本を撮り尽くしたという撮影のテンションの高さ、堀内誠一のデザインによる端正で典雅な写真集の造本は、いまだに語り草になっている。今回の「スペシャル・エディション」は、すべてその73年の写真集に未収録のアナザーカットから選ばれた写真で構成されていて、東京・恵比寿のギャラリー、Fmで展示されているのは、その「懐かしくも新しい」写真群から新たにプリントされた作品だ。
『少女アリス』の魅力は、むろん沢渡ののびやかなカメラワークの為せる業なのだが、それ以上に主役のアリスを演じきった8歳のモデル、サマンサによるところが大きい。今回の展覧会及び写真集では、そのサマンサのもうひとつの顔が見えてきているように感じる。つまり、イノセントな天使的な存在としてのアリスではなく、明らかにどこかおぞましく、淫らでもある「ダーク・アリス」が浮上してきているのだ。たしかに「少女」という、ひらひらと漂うようなフラジャイルな存在には、光と闇の両方の顔があるように思える。その二面性が『少女アリス』の撮影の過程で引き出されてくるわけで、そのスリリングな出現のドラマには心を揺さぶられるものがある。別な見方をすれば、今回の「スペシャル・エディション」の登場で、『少女アリス』は40年の時を隔ててようやく完成したといえるのではないだろうか。
なお本展は11月13日~21日に京都のWRIGHT商會三条店二階ギャラリーに巡回する。

2014/10/10(金)(飯沢耕太郎)

記憶の遠近術 篠山紀信、横尾忠則を撮る

会期:2014/10/11~2015/01/04

横尾忠則現代美術館[兵庫県]

2012年11月の開館以来、7つの企画展を開催してきた横尾忠則現代美術館。8つ目となる本展で、初めて横尾以外の作家が主役となった。本展の作品は1968年から70年代半ばにかけて写真家の篠山紀信が撮影したもの。当初は横尾と彼に影響を与えた人物の2ショットで、相手のキャラクターに合わせて演出が施されていた。しかし、1970年に横尾が兵庫県西脇市に帰郷した際に、友人、知人、恩師、身内らとフレームに収まったことから作風が変化し、2人にとって重要な転換点になったという。篠山はそれまでのつくり込んだ作風から自然体のスナップショットへ、横尾はスピリチュアルな世界に傾倒し始めたのだ。昭和の著名人たちが写った写真は時代の息吹きを生々しく留め、西脇での写真はどこかほのぼのとした風情が心地よい。巨大にプリントされた写真作品が持つ力を再確認できたのも収穫だった。

2014/10/10(金)(小吹隆文)

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吉川直哉 展 ファミリーアルバム

会期:2014/10/07~2014/10/19

ギャラリーアーティスロング[京都府]

写真家・吉川直哉の4年ぶりの個展。彼は2001年から「写真とは何か」というコンセプトで作品を発表しており、本展は2010年に行なわれた個展の続編となる。前回は写真史上の名作を複写やアニメ化したが、今回のテーマは「家族写真」。実家に残っていた古い家族アルバムから選んだ写真をマクロレンズで複写し、歪んだ画像として提示した。ご存知のように写真業界ではデジタルが主流になり、アナログの銀塩写真はノスタルジーの対象かマニアの愛玩物になりつつある。吉川はそうした現状をただ嘆くのではなく、さりとて無闇に肯定するのでもない。家族アルバムとの対話を通して、写真とはかけがえのない記憶が物質化したものであり、写真が存在することで時空を超えた対話が可能になるということを訴えたかったのではないか。もちろんそれは写真の本質の一部に過ぎず、切り口次第でまた新たな解答が紡ぎ出されるのであろう。いずれにせよ、ひとりの写真家が真摯な態度で写真に向き合った本展は、見る者それぞれに「写真とは何か」を考えさせる機会であった。

2014/10/09(木)(小吹隆文)

アレキサンダー・グロンスキー

会期:2014/09/06~2014/11/15

YUKA TSURUNO GALLERY[東京都]

アレキサンダー・グロンスキーは1980年、エストニア・タリン生まれの写真家。今回の展示は、2000年代以降にロシア写真の「ニュー・ウェーブ」の旗手として国際的な注目を集める彼の日本での初個展になる。
グロンスキーはもともとフォト・ジャーナリストとして活動していたが、2008年頃からよりパーソナルな視点の風景写真に転向し、アートの領域で注目されるようになった。広大な大地にぽつりぽつりと点在する建築物や人間の姿を、距離をとってクールに描き出し、人間の営みを環境の側から照らし出していく視点は、1980年代以降のヨーロッパやアメリカの写真家によく見られる傾向である。いわば遅れてきた「ニューカラー」、あるいは「ベッヒャー派」といえるだろう。とはいえ、氷に穴を穿ったプール(ロシア正教の洗礼の場所)やダイナマイトの空き箱が散らばった鉱山など、ロシア以外にはおよそ考えられないようなシーンも的確に押さえており、とてもバランスのとれた作品として成立していた。
今回の展示は「less than one」(1平方キロに1人以下という人口密度の低い地域のドキュメント)、「the edge」(モスクワ郊外の雪景色)、「pastoral」(モスクワと田舎の中間領域の風景)の3シリーズから抜粋された10点である。やや同傾向の作品ばかりが揃った印象があるが、今後はさらに多様なアプローチを展開できそうな可能性を感じる。グロンスキーに続くロシアの若手写真家たちの展示もぜひ見てみたい。なお、展覧会にあわせて、写真集『LESS THAN ONE』(TYCOON BOOKS)が刊行されている。

2014/10/08(水)(飯沢耕太郎)