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artscapeレビュー

小島一郎「北へ、北から」

2014年12月15日号

会期:2014/08/03~2014/12/25

IZU PHOTO MUSEUM[静岡県]

青森市に生まれ、「津軽」を題材として写真を撮り続けた小島一郎(1924~64)は、いわゆる「地方作家」であるように見える。その土地に特有の地域性(ローカリティ)にこだわり、独自の作風を確立した写真家ということだ。だが、今回のIZU PHOTO MUSEUMの展覧会で、あらためて小島の作品をまとめて見ていくと、彼の活動作家が「地方作家」の枠組みにおさまるものではなかったことがよくわかる。
小島は名取洋之助に見出されて1958年に初個展「津軽」(東京、小西六ギャラリー)を開催し、それを一つのきっかけとして61年に家族とともに上京してくる。周囲の反対を押し切り、プロ写真家として自立することをめざしたのだ。翌年、2回目の個展「凍(し)ばれる」(同、富士フォトサロン)を開催、「東京の夕日」(『カメラ毎日』1963年3月号)などをカメラ雑誌に発表するが、慣れない都会暮らしで体調を崩し、青森に帰郷して64年に亡くなった。むろん北の厳しい風土を粘り強く撮影し続けた、詩情と造形意識をあわせ備えた写真群は、小島の代表作というべきだが、彼はそこに留まることなくよりスケールの大きな「写真作家」であろうとしたのではないだろうか。個展「凍ばれる」では、コントラストの強いミニコピーフィルムで作品を複写して再プリントするという手法を用いており、よりグラフィックな画面処理でドキュメンタリーの枠組みを乗り超えていこうとしていた。また、晩年にはカラー写真にも意欲的に取り組んでいた。
今回の展覧会では、小島がネガを名刺サイズに引伸した「トランプ」と称されるプリントが大量に展示され、「津軽」と「凍ばれる」の個展会場の一部が再現されるなど、従来の「津軽」の写真家という小島一郎のイメージを再構築しようという試みが見られた。この視点は、他の「地方作家」たち、たとえば千葉禎介(秋田)や熊谷元一(長野)や平敷兼七(沖縄)などの作品にも適用できるのではないだろうか。

2014/11/18(火)(飯沢耕太郎)

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